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未来について話そう

THE FUTURE TIMES 第3号発行に寄せて

 THE FUTURE TIMESの第3号が完成しました。特集は『農業のゆくえ』です。
 
tft_img004.jpg 私が農業へ興味を持ち始めたのは、震災の数年前に遡ります。
 
 ミュージシャンはコンサートツアーで全国を回ります。車や電車の窓から眺める地域それぞれの美しい景色は長いツアーの癒しでもありますが、同時に、いつも心に引っかかる風景がありました。それは、国道沿いの巨大ショッピングモールと各地に点在する耕作が放棄された農地でした。このふたつは同じ全く場所にはないけれど、表裏一体ではないかという直感がまずありました。何らか、我々の社会を映しているのではないかと考えました。
 
 今回の東日本大震災で被害を受けた農地は約2万5千ヘクタールに及びます。THE FUTURE TIMESで何度か取材に訪れた仙台市の荒浜地区だけでも、被災した農地の広大さにショックを受けたくらいですから、私には被害の全体像が想像できません。途方もないものだと思えます。
 
 一方で、震災に関わらず、実にその15倍、滋賀県に匹敵する広さの耕作放棄地が日本国内に存在しています。
 
 他の数字でも、日本の農業の現在を追ってみると、農業就業者の平均年齢は65.9歳で、65歳以上が全体の6割を占めていて、20年後には農業就業者の人口も半減すると予測されています。2010年の食料自給率は39%です。
 
 都市に暮らす人たちから見れば、農業について、それ自体が「自然」のように錯覚してしまうかもしれません。ですが、農業は、実に長い年月を使って、人間が気まぐれな「自然」と向き合って獲得してきた科学でもあります。平野広がる水田の方眼には、例えば、数学の感触があります。その延長線上に、私は都市を想います。
 
 これは何かに似ているとずっと感じていました。それはポップミュージックでした。たとえば、音楽は解析や制御を拒む原始的なフィーリングが宿っています。自分の中の、本来人間が持っていただろう野生と接続していることを実感します。それは農業が普段から対面している動植物の生態と近いはずです。いわゆる「自然」と文明の間の、境界のような場所にどちらも存在していると感じます。こういった想像が、農業への興味の源泉になりました。(※紙面で実現した中沢新一さんとの対談で詳しく触れています。)
 
 復興が必要なのは、震災から直接的な被害を受けた地域だけではないと思います。これほど広大な農地が放棄されていることや、データが指し示す農業の現状は、私たちの社会の何を映し出しているのでしょうか。
 
 エコでもロハスでもなく、農業というレンズで現在の社会をのぞき見ようというのが、今回の特集のテーマです。
 
 記事は順次、こちらのweb版でも公開していきます。読んでいただけたら、嬉しいです。
2012年07月24日