HOME < 鼎談:私たちが見た「太陽花」―台湾の「太陽花学運」を振り返る―

鼎談:私たちが見た「太陽花」―台湾の「太陽花学運」を振り返る―

■「台湾『太陽花学運』レポート 」の記事はこちら 

「太陽花学運」と「私」

img093

冨永「2014年3月18日、台湾の学生たちによって立法院(国会)が占拠される事態が起きました。その後、4月10日に学生たちが立法院を退去したことで一応の収束を見せました。この『太陽花学運』について考えていることや思っていることなどをざっくばらんに話し合えればと思っています。今回集まって下さった方々を簡単に紹介します。まず、写真家の狩集武志さん。宮崎で活躍する狩集さんは3月の下旬、立法院の中に実際に入り、その時の様子を “『太陽花学運』レポート” として報告されています。この記事はインターネットで読むことが出来ます(http://www.thefuturetimes.jp/archive/no06/taiwan/)。次に川口隆行さん。川口さんは、広島で大学教員をされています。『太陽花学運』についてFacebookなどで積極的に発言されました。また、台湾の情報を日本語に訳して伝えるなど、情報を広く共有しようと橋渡し的な役割をされてきました。私は大阪で『太陽花学運』を見守ってきましたが、この約一ヶ月の間に色々なことを考えさせられました。それぞれにとっての『太陽花学運』があったと思います。そこでまずは、この『太陽花学運』について、それぞれ今何を考えているのか簡単にお話しください」

狩集「今回、台湾に行って、実際に立法院に入ってみて感じたことは、日本でも台湾でも起こっていることは一緒だなという印象を持ちました。僕は今、宮崎に住んでいるのですが、そこで起こっていることを考えてみても、やっぱり台湾とどこかで繋がるような気がします。上手く言えないのですが、一部の権力者が自分たちの利益だけのために社会全体を一つの方向に動かそうとしている。まさにグローバリゼーションの問題です。こうしたグローバルな資本の動きや、それによって自分たちの生活が食い潰されていく現状が、台湾でも日本でも宮崎でも、今や全世界の問題として存在しているのではないでしょうか。こうしたグローバル化に対して、必死で声を挙げて抵抗する人びとがいます。しかし、その声がなかなか届かないのが現状です。ここにもう一つの重要な問題があると僕は思っています。資本に食い潰されそうな私たちの生活を目の当たりにしながらも、必死で抵抗する人びとの声は届かなかったり伝わりにくかったりする。だとすれば、今回の『太陽花学運』の声は、誰にどのように伝わったのでしょうか。考えてみたい問題の一つです」

冨永「狩集さんのお話とも繋がると思うのですが、『太陽花学運』には中国との自由貿易協定が深く関わっています。この点をどのように考えたらいいのかが気になっています。もっとはっきり言えば、 “『太陽花学運』における両岸問題” という問題です。確かに『太陽花学運』は “反黒箱(ブラック・ボックス反対)” が出発点になっていると思いますし、運動の中心にいた林飛帆さんも “台湾の民主主義を救うため” の運動だと述べています。しかし、あれだけ多くの人びとの関心を呼び、これだけ大きな動きになったのは、ブラック・ボックスの中で決められた協定が、何よりも中国との協定だったことは無視出来ない点としてあるのかなと思いました」

img093

川口「私は19日の夜、家に帰ってから立法院が占拠されていることを知りました。それから自分で情報を集めて、自分にやれることをやろうと思いました。そう考えたのにはいくつかの理由がありますが、学生たちの主張に賛同出来たこともあるし、自分の関わっている人たちが応援しているのを見て私も応援したという気持ちになりました。それから、日本での報道がやはり気になりました。一つは『太陽花学運』が日本で報道されないことをどう考えたらいいのか。そういう状況の中で、自分で伝えられることはFacebookで伝えようと思いました。もう一つは、報道のされ方です。大手のメディアが出遅れたのもありますが、最初に『太陽花学運』の情報を持続的に伝えていたのはニコニコ動画でした。大手メディアができなかったことをやったという点で重要な役割果たしたわけですが、大きな問題もあると思っています。ニコニコ動画のコメント欄を見ると “親日台湾頑張れ!” とか “中国ざまーみろ!” といった気持ち悪いコメントがずっと並ぶわけです。そうすると、ニコニコ動画を見ている人やコメントを残す人は、台湾を見ているのではなく、 “自分たちの自画像” を見ているのではないかと。このように『太陽花学運』が利用されていくことはちょっと耐えられなかったですね」

「郷土への誇り」、ナショナリズム、反グローバリゼーション

冨永「もし、今日本で国会を占拠したら、おそらく政治家もマスメディアも即座に過激派、犯罪者認定をすると思いますが、実際に立法院に行ってみてどうでしたか?」

狩集「正直、怖かったですね。自分は写真家であり、今回の訪台がたまたま『太陽花学運』と重なったため “よし、撮るぞ” と若干の使命感を持ちつつ乗り込んだものの、初めての海外で少しの英語しか喋れず、台湾語は一切喋れませんから(苦笑) しかし、そんな僕の心意気が伝わったのか、話しかけてみると案外普通に応えてくれたんです。逆に日本人である僕自身や日本に興味を持ってくれたりして。恋愛話や他愛もない世間話をしたりもしたし、全然過激じゃなかったんですよ。友達同士でじゃれあったり、お互い肩もみしあってたり。微笑ましかったです」

川口「狩集さんのレポートを読んで印象的だったのは、 “郷土への誇り” について書かれている箇所です。『遠くから撮っていたときは少し怖かったけれど、よく見るとやはり、みんな若くてあどけない。そして、そんな彼らをこのように憤らせる“オトナ”たち。国は変わっても“オトナ”たちのやることは変わらないなと思った。違いはこの若い世代たちの勢いや、胸に秘める郷土への誇りだろう。それを汚されたと感じる者たちの憤りは計り知れない。彼らは台湾を愛しているのだ』。『現在の台湾は、彼らの親や祖先によって脈々と受け継がれ積み上げられた台湾の歴史を台無しにされるかもしれない重要な局面なのだ。同じ台湾に住んでいるはずなのに、なぜこんなにも“オトナ”たちは彼らと思考がかけ離れるのだろう。そこは今の日本と重なって見える』。」

狩集「そうですね。僕自身の問題として、自分らの郷土に対する思いというか、それをナショナリズムって言うんでしょうか。僕がドキュメンタリー写真を撮る上で心掛けていることの1つに “気持ちをニュートラルに保つ” というのがあるのですが、撮影していてどうしてもそういう目線で台湾(=『太陽花学運』)を見てしまった部分もありました」

img093

川口「郷土への思いとナショナリズムは、重なり合うこともあるとは思うのですが、全く同じかどうか。狩集さんの強調する “郷土への誇り” は、自分たちがいま具体的に生きている場所や、顔の見えている人たちが、理不尽な大きな力によって壊されたり崩されたりする事態に対する憤りやそれを守ろうとする気持ちのように受けとめました。そうした感情は私も強いのですが、それをナショナリズムって言ってしまうとわかりやすそうで、話が一挙に大きくなるというか、ずれるというか」

冨永「川口さんは、さきほど報道のされ方について言われていましたが、そのこととナショナリズムの問題というのは関係するのでしょうか?」

川口「さっきネットの話をしましたが、日本のマスメディアに関して言えば、大雑把な印象ですが、分量はともかくとして、朝日、毎日が比較的運動に寄り添っていたかと。NHKや読売は一貫して淡々としていました。産経は当初熱心だったけど “反中国” だけで事態が括れないことがあきらかになるにつれて、少し腰が引けたかな。ただ、強弱はありますが、中国に呑みこまれる恐怖が運動の本質だといったフォーマットが一つありました。それは、日本のいまの反中嫌韓の風潮に迎合し、それを強化する危うさをはらんでいます。また、台湾と中国の自由貿易の問題には、日本企業も大きく絡んでいますよね。2010年に台湾と中国で締結されたECFA以降、日本企業の台湾進出が急速に伸びて、台湾資本と組んで大陸進出を狙っている。マスメディアでいえば、日本テレビと中天電視が合資会社を作ったりして協力関係を強化、日本のコンテンツを大陸で売ろうとしていたりするのですが、そんな動きが日本ではほとんど伝えられませんでした」

冨永「話は少し変わるかもしれませんが、ニコニコ動画にしても台湾の立法院の内部に協力者がいたからこそ中継できたわけですよね。運動の担い手の中にも、 “敵の敵は味方” といった姿勢があったのではないでしょうか? 日本のネットウヨクでもなんでも、興味関心を抱いてくれるのであればありがたいし、利用したいといった」

川口「そうですね。そのように思ってしまう気持ちを否定はしきれないのですが、やはりは長い目で見た場合、あまり健全ではありませんね。日台の “連鎖するナショナリズム” という事態を招きかねない。些細なことかもしれませんが、ひとつ気になった例を紹介しておきます。4月7日に学生たちは、立法院から撤退することを表明しましたよね。声明の中には、 『在國際地緣政治上,我們徹底宣示了台灣人不願意受中國擺布的全民意志,也打亂近年來中國、美國甚至日本等對於台灣問題私相授受的強權布局』 という箇所がありました。『太陽花学運』のFacebookには、この声明の各言語バージョンも掲載されおり、さきほどの箇所も英語版では『Regarding international geopolitics, we have demonstrated to the world the strong will of the general public that the people of Taiwan will not be at the mercy of China, and have therefore upset the underhand dealings of Taiwan-related issues between China, the United States and even Japan.』ときちんと訳されている。それが日本語版になると、『国際政治が地域的な広がりを見せるなか、我々台湾人は中国が台湾を意のままに操ろうとすることを到底受け入れられないことを明確に示しました』となって、 “アメリカ” そして “日本” への言及が消されます。なぜこのようになったのか。やはりこの訳に疑問を抱いた友人がそのことをFacebookに記載された連絡人に伝えたのですが、音沙汰ないそうです」

冨永「なるほど、それは問題ですね」

川口「逆に冨永さんに聞きたいのですが、さっき両岸問題が気になると言っていましたが、それは台湾ナショナリズムに関わる問題なのでしょうか。この『太陽花学運』のベースに台湾ナショナリズムがあると見た時に、この運動を肯定していいのか否定していいのか、台湾ナショナリズムに関する評価の問題なのでしょうか?」

冨永「というよりも、ブラック・ボックスに反対するという点だけに着目し過ぎると『太陽花学運』を理想化し過ぎてしまうのではないのかという疑問です」

狩集「運動としての泥臭さですか?」

冨永「台湾の人々にとって、中国との関係は現実的な緊張感を伴う問題だと思います。確かに “台湾の民主主義を救う” ことが『太陽花学運』の核になっていたとは思いますが、中国に呑み込まれるかもしれないという危機感や不安感を抱えて運動に参加した人たちもいただろうと推測します。Facebookの投稿で、この『太陽花学運』を統一/独立という視野で考えることは“ナンセンス” 、“表層的”だという書き込みもありましたが、果たして本当にそうでしょうか。繰り返しになりますが、中国に呑み込まれてしまうという危機感や不安感は『太陽花学運』の中でどのように位置づけられるのでしょうか。また、「『太陽花学運』という点を強調し、現実的な問題として存在している中国との関係を軽視することは、今回の『太陽花学運』を過度に理想化してしまうことに繋がるのではないでしょうか」

川口「運動の理想化への危惧ですか。それならなんとなくわかります。その話はあとでしましょうか。その前に一つ。私は今回の事態をまずグローバル資本への対抗運動だと大きくとらえました。そこに共感・共鳴したのです。ただ難しいのは、それが台湾の場合、グローバル化された資本は、具体的には “中国” というわかりやすい顔をもってあらわれてしまうという点にあるのかもしれません。そうイメージしたほうが、敵がはっきりしているようでなんだか闘いやすい気になるのかな。日本の場合でいえば、TPP反対や基地反対闘争が、グローバル資本や普遍的な軍事基地に反対しているはずなのに、いつのまにか “反米” になってしまう点とすこし似ているのかもしれません。各国政府と結託したグローバル資本に対抗するグローバルな連帯意識、階級意識というと硬いですが、そのようなものが持てないという現状があるのではないでしょうか」

img093

冨永「今回運動がこれだけ盛り上がったのは、実は中国との協定だったからではないかという私の疑問は、じゃあTPPでも同じような反対運動ができるのかという問題にもつながるのでしょうか」

川口「そうですね。国民党も民進党も順番の違いはありますが、TPPにはいずれ参加したいと言っていますね。アメリカ主導の枠組みならOKなのかどうか。今回の運動の経験を反グローバリゼーションの思想に練り上げていくのは今後の課題かもしれません」

cover
川口隆行(かわぐち・たかゆき)

川口隆行(かわぐち・たかゆき)

1971年福岡県生まれ。広島大学大学院教育学研究科准教授。専門は日本近現代文学・文化史研究。特に、1)カタストロフィと文学(原爆・戦争、公害、震災)、2)植民地主義と文化、3)五〇年代戦後文化運動などに関心がある。2001年夏から2008年春まで台湾の大学(大葉大学、東海大学)で教鞭をとっていた。


冨永悠介(とみなが・ゆうすけ))

冨永悠介(とみなが・ゆうすけ)

大阪大学大学院文学研究科博士後期課程。台湾近現代史・移動史。


狩集武志(かりしゅう・たけし)

狩集武志(かりしゅう・たけし)

1982年宮崎県出身、宮崎県在住。写真家。柔術家(バッファロー柔術所属)。
KAGULABO(宮崎神楽研究室)共同代表。宮崎ドキュメンタリーフォトフェスティバル実行委員。第36回宮崎県高等学校総合文化祭写真部門講師。
音楽関係の活動を中心としながらも、昨今社会面での活動も目覚ましい注目の若手写真家。