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民主主義の練習 | 対談:藤村龍至

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いつか壊れる建築を、ポジティブに捉える

後藤「僕は『スクラップ・アンド・ビルド(壊して建てる)』みたいな感覚は古いと思うんです。そういう「壊して作る」みたいなことって、この先も無邪気にやっていけるのかなという疑問もあって。でも、大宮公園のスタジアムを案内してもらって、現状維持にこだわらず、壊したほうが良くなるものもあるのかなと思いましたけれど」

藤村「Jリーグやプロ野球、音楽イベントなど、スタジアムやホールというのは、都市にとって大きな影響を与える装置です。これらを、環境への負荷を抑え、経済波及効果が上がるように正確に配置するのが大事だと思うんです。土地が空いていてお金があるときには、空いているところにポンと作ればよかったのですが、これからは吟味して慎重に設計する必要があると思います」

後藤「こういった大宮のプロジェクト、地方出身者からするとうらやましいですけどね。地方の街では、どうしていったらよいのでしょう」

藤村「街のスケールに応じて、適切な人やお金の動きを生むような空間を作っていくのが肝心だと思います。コンクリートの建物を作ったら基本的には50〜60年経つと中の鉄筋が腐食したり、必ず劣化するから、あるところで建築物全体を壊さないといけません。そのタイミングで「今、必要な小学校の規模はどれくらいか」「本当に必要な機能は何だろうか」と街の人が毎回考え直す機会にすればいいと思うんです。鶴ヶ島では8つあった小学校をこれから減らしていくわけですが、将来もし人口が増えてきたら「もうちょっと増やそうか」となるかもしれないし、「さらに減ったから、もっと減らそう」となるかもしれない。建築はいつか壊れるということをむしろポジティブにとらえ、その機会ごとに必要なコミュニケーションを街の人たちで取るのがいいと思っています」

2020年のオリンピック後に何が来るか

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後藤「公共建築って、作るだけ作って「はい、満足」みたいなところも今まであったと思うんです。街によっては将来の世代に負担になっていく可能性がありますもんね」

藤村「地方都市でも長期的な視点を持ってちゃんと経営している街は活気が維持されるし、むしろ成長していくでしょうが、経営に失敗した自治体はどんどん落ちぶれていく。これからその差がかなり出るんじゃないでしょうか」

後藤「長期的な視点って、だいたい何年スパンですか?」

藤村「50年がひとつの単位じゃないかと思っているんです。田中角栄の『列島改造論』が1972年でしたね。その当時のビジョンができあがって、ガタが来るのが50年後という感じですから」

後藤「じゃあ、ちょうど今度のオリンピック後に、ガタが来るんですね」

藤村「そうですね。当時集中して作ったインフラが、2020年頃に一斉に耐用年数を迎えるので、今、一番いろんなことを考えておかなくてはいけない」

後藤「なるほど。このオリンピックまでの何年かで新しいビジョンをみんながそれぞれの場所で考えないといけないんですね。僕は、あの祭りが去った後が怖いです」

藤村「だから祭りが去った後のことを考えて、祭りをするといいんです」

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藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

1976年埼玉県生まれ。建築家、ソーシャルアーキテクト。藤村龍至建築設計事務所代表、2010年より東洋大学理工学部建築学科専任講師を務める。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛けるほか、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメントや日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェクトも展開している。近著に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。