HOME < 民主主義の練習 | 対談:藤村龍至

民主主義の練習 | 対談:藤村龍至

btn_repo btn_taidan_off

多くの意見を取り入れ、提案を変形させる

後藤「住民のなかに入っていくとき、緊張しませんでしたか?」

img012

藤村「一番緊張したのは最初の仕事でした。高円寺の市街地にある商店街の集合住宅(『BUILDING K』)です。複雑な経緯があったようで、設計を進めていると後から後から色々と問題が吹き出してくるんです。その頃はスタッフ総出で説明会のビラを配って、設計も慎重に進めました。住民の方々と面と向かい合うと言い合いになっちゃうから、座る位置も考えて。そうやってちょっとずつ進めていくと、なんとなく地域の事情がわかってくる。何度も通って説明するうちに誠意が伝わり、「お前らの思うとおりには絶対にさせない」なんて言っていた方たちが段々味方になってくれる、という経験をしました」

後藤「どうして建築家と対立しちゃうんですかね」

藤村「色々と積もるものがあるんでしょうね。先方が「ここがダメだ」と言うことに関して、こっちが頑なにそれを押し切ろうとするとなかなか難しいんですが、部分的にでも受け入れ、言われていることのひとつでもふたつでも反映して、たとえば高さを少し下げたりしただけでも、意外と納得してくださったんです。お願いされたことを突っぱねたら怒る、それはあたりまえで、その方が言っていることに対して向かい合い、受け入れる姿勢を示す。「自分の意思が形に反映されたということがわかれば、人は納得する」ことを学びました。だから「むしろ多くの人と積極的に関わって、提案を変形させていこう」と覚悟を決めたんです」

自分が参加しても変わらない、という諦め

後藤「この先に、いろんな自治体やもっと小さなコミュニティの中でも応用していける方法なのですか?」

藤村「そう思います。鶴ヶ島のプロジェクトを始めるときも、大勢の人とコミュニケーションするために投票形式にしたり、トーナメント形式で提案をまとめていくやり方を開発していったんです」

後藤「僕たち市民の側がさぼっていることも多い気がしています。「こういう建物を作ります」と言ったとき、希望する側は「自分が思ったようにはならないだろう」と思っている節が。政治に参加しないのも「自分が参加したところで変わらない」という諦めがあるんじゃないかと」

藤村「そうですね。でも「意見を出したら変わる」とわかっていれば、モチベーションが上がるから参加するようになると思うんです。建築の良さは、意見を出したときに「自分の声で変わった」ということが見えるんですね。だから政治家なり、行政の人なり、また民間の人も、もうちょっと建築をうまく使って「あなたの考えを受け入れました」ということをポジティブに表明する機会を持てばよいのではないでしょうか」

cover
藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

1976年埼玉県生まれ。建築家、ソーシャルアーキテクト。藤村龍至建築設計事務所代表、2010年より東洋大学理工学部建築学科専任講師を務める。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛けるほか、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメントや日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェクトも展開している。近著に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。