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民主主義の練習 | 対談:藤村龍至

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未来に待ち受ける問題を予測して、それに立ち向かう。そのために、関わる人々の意見を全て集約して一歩一歩、着実に設計する。そんな藤村龍至さんは、従来の建築家像とは大きく異なっている。「社会は変えられない」と諦めている人々に向けた、実践に基づく提言の数々だ。

取材・文:神吉弘邦/撮影:真鍋奈央

考えない、イメージしない、振り返らない

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後藤「藤村さんの著書『批判的工学主義の建築』(※1)を読ませていただきました。途中の建築の専門的な話は難しかったんですが、とても面白かったです。ミュージシャンからするとやっぱり、設計するうえでの3つの決まりが面白かったですよね」

藤村「ああ、考えるな、イメージするな……」

後藤「そう。考えるな、イメージ(想像)するな、振り返るな。この一直線の設計の進め方が、とても腑に落ちました。完成形がイメージできた時点で既存の枠組みのような何かにつかまってしまうというのは、その通りだと思います。曲作りでもそういう場面がありますから」

藤村「そうですか。ありがとうございます」

後藤「そうだよなぁ、と頷きながら読みました。そうかと言って、理想を語るだけでは終わらない。最後にご自身が『批判的工学主義とは何か』を語り始めるところも、なるほどと思いました。建築のことを普段から認識していない僕が建物を見たとき、ある種のプログラムが起動したかのように似たような住宅が建ち、似たようなマンションが建ち並ぶのはどうしてなんだろうって、いつも疑問に思っていました。でも、時系列を追って『そこにはこういう考え方があるんだ』とわかりやすかったです」

徐々に経験を積めば、難しい問題に立ち向かえる

後藤「それと、大勢で建築を設計するという手法は、バンドの音楽の創り方にたとえられるかなと」

藤村「集団創作のことですね」

後藤「グループとしてのあり方という面で、すごく参考になる。『do not look back(振り返らない)』のくだりなんて、本当に素晴らしいです。これはちょっと、あとでメンバーに話してみようかなと思いました。新しいものをつくろうと思ったら、非常に面白い考え方だなと思って」

藤村「この本は歴史を参照して理論的に書かれていますが、20代から30代の私が社会の荒波に翻弄されつつ、それに抗ってなんとかひとつの筋をつくっていこうとしてきた、体験記そのものです。最初の頃は経験が少ないので『もう諦めなくてはいけないのか』と挫折しそうになるのですが、徐々に乗り越え方がわかってきて、それを少しずつ形にしてきました。その手法は、工学界の人たちで言うところの『フィードバック』と呼ばれる行為です。そのフィードバックのプロセスというものは、建築設計や都市設計だけではなくて、制度設計とか人生設計にも当てはめられる、ものづくりの基本的な考え方なのではないか、そんなことを一番に伝えようと思ったのです」

後藤「今の世の中は、能率性とか、コストの問題がすぐ前面に出てきて、それが何もかもを押しのけようとします。『それを無批判に受け入れたりはしない』という立場が明確に書かれていたのも、僕はとても頼もしく感じました」

藤村「ちょっとずつ経験を積んでいくと、成功したことも失敗したことも次の経験にフィードバックされて次第に複雑なものが実現できるようになる。そういうやり方を取っていれば、一見すると解きようがなさそうな大きな問題も、解いていけようになるのではないか。そんな自分なりの手応えをこの本に書いてみたのです」

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藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)

1976年埼玉県生まれ。建築家、ソーシャルアーキテクト。藤村龍至建築設計事務所代表、2010年より東洋大学理工学部建築学科専任講師を務める。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛けるほか、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメントや日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェクトも展開している。近著に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。

■注釈

(※1)

批判的工学主義の建築:ソーシャル・アーキテクチャをめざして
藤村龍至『批判的工学主義の建築
現代の情報技術によるネットワーク化と経済のグローバル化による社会の変化が、建築をどのように再定義するのかを論じる。教育や政治への応用、縮小社会をにらんだ新しい国土再改造のコンセプトを提示したうえで建築の本質である「動員」の問題も問うた書。
発行:エヌティティ出版