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美しき心の風景と未来 | 畠山美由紀

絶望から生まれた音楽に導かれて

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後藤「畠山さんは震災の後すぐ曲を書き始められたそうですね。それはすごく共感するところだったんです。僕もすぐに曲を書いたんですよ。今ここで書かないでいつやるんだと思ったので、あ、同じだ、と思って」

畠山「いろんな心の有り様があって、人それぞれのタイミングがあると思うので一様には言えないと思うんですが、私はすぐ曲を作りはじめましたね」

後藤「しかも気仙沼に住む家族との連絡が取れていない中だったと伺いました」

畠山「もちろんとても不安だったんですが、それでも曲を作ろうと思ったのは、自分にとって本当に音楽が必要なのかということを確かめたいという想い、そして、音楽を信じたいという至極個人的な想いからでした。というのも、たとえば“国家”とか“社会”と言うけれど、そんなものどこにあるんだろうと昔から思っていたんです。今、こうやって後藤さんやスタッフと喋っていて、この人と人の繋がりが社会だと言われたらわかる気がするんですが、“国家”と言った途端にわからなくなる。国家というのは手の届かないところにあるんじゃないかと思っているところがあって」

後藤「国家と言うと、共同幻想みたいなものでもあると思うし、ホントにあるの? という意味では、空洞みたいなイメージもありますね。空っぽのものが真ん中にあるというイメージ。ある種のフィクションですよね」

畠山「だからこそ、結局、人は、人間の生き死にや、自分個人の哲学的なところに戻っていくしかないのではないかと思っているんです。私はむしろそういうことを話したいし、そういうことを知りたいと思っています。  震災の被害であれほど大変な目に遭った人たちを前に、“絶望”という言葉を軽々しく言うわけにはいかないけれど、自分が聴いてきた音楽を思い返せば、私が深く共感してきた音楽は、その作り手個人の絶望とも言えるところから生まれたものだったように思うんです。どうしてなのかわからない、なぜ生まれてきたのか、なぜ死ぬのかもわからない、ということや、愛している人に愛してもらえないこと、どうしても別れなくてはいけないこと……、そういう絶望から生まれた音楽の中に流れる感情や思想こそが、人生の道連れとなって、自分の考えをここまで導いてくれたんだという想いがあるんですよ。そのことを311を経験して、より強く感じました。今日、後藤さんと初めてお会いしたのに、こんな話まで出来るということも、音楽を作ってくれた人たちの力なんだよなあと思うんです」

後藤「確かに音楽はちゃんとそういうところに触れてきますよね。叙事性というか、その時にしか歌えなかったことが入っている。最初に聴いた当時は知らなかったけど、ビートルズの『ホワイトアルバム』に入っているポール・マッカットニーが作った『ブラックバード』は、アメリカ公民権で闘っている黒人たちへのエールの意味があるんですよね。歌はどうしてもそういう叙事性と接続していて、日本でいえば、清志郎さんの歌もそうですよね」

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畠山「特にもともとロックはそういう反体制のものだったのですからね」

後藤「でも面白いのは、僕が『THE FUTURE TIMES』を作ったり、政治的な発言をブログの日記で書いたり、ツイートしたりしてると、『そんなことを音楽の鳴ってないところで言うな。歌詞に書いて歌え』という人もいるんですよ。一方で『政治性を音楽には持ち込まないでほしい』という人もいる。結果、何やっても文句言われるのであれば、やりたいことやるのが一番いいんだと思いました。一番多いのは黙っている人なんだと僕は思います。選挙に行かない半分の人は黙っている人だと思います。そうやって黙っている人にこそ音楽を向けなくてはいけないなと思ったんです。僕は音楽が変えていけることはあると思うんです。ガラッと政治は変えられないですけど」

畠山「それは私も実感しています。だからこそ、感情の大きな振れ幅を表現する音楽を私は聴きたいし、メッセージとしても届けたいと思うんです」

社会の枠組みの外にいる音楽家の責任

後藤「僕、畠山さんが震災後すぐに書いた『わが美しき故郷よ』の詩の朗読を何度も聴いているんです。あの詩も、あの時にしか書き得なかったもので、特に朗読の中で地元のイントネーションになるところでゾクッとくるんですよ。毛穴がギュッと閉まって一気に心が持っていかれる。あそこで空気が変わるんですよね」

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畠山「実は私は、地元の人たちと政治的なことをあまり話せないんです。だからあれが私のやり方だったんです。どこの社会でもそうかもしれないけれど、『これを言うとあそこに角が立つ』ということが、特に被災地ではリアルすぎて、どんなに仲いい人でも政治的なことを話すのはとても難しいと感じています。だからこそ、子どもの頃、何も考えず、みんなで田舎の風景の中を遊びながら『きれいだね』『楽しかったね』と言い合えたあの頃に戻ることができたら、同じ思いを分け合えるのではないかという気持ちがあったんです」

後藤「あの詩は、自分の中の、根源的なところに響いてくるんです。自分の原風景を思い出すんです。郷愁よりもさらに深いものを。例えば故郷の風景のような、自分が美しいと思うものを大事にしていくことって、すごく大切だと思います。だってみんながそう思ったら、少しずつ世の中良くなっていくんじゃないかと思うんですよね。それなのに、ちょっとずつ妥協して、経済があるから、と、美しい原風景のようなものを少しずつ売り払った結果が今の状況なんじゃないかという気もするから」

畠山「誰もが絶対に美しい光景を心の中に持っているはずなんですよね。『わが美しき故郷よ』は、そういう人間のもっと根源的なところに響いたらいいなと思いました。それが政治的なことを直接的に語らずとも、何か大切なことを思い出してくれるものになるといいな、と」

後藤「ギスギスしてる世の中だからこそ、こういう表現で社会に潤いを持たせていきたいと思いますね。そうやって変えていくしかないと思うんですよ。『選挙に行け』ではなくて、みんながちょっとずつ何かを売り払わないでいいようにしていくために、そういう誇りを持とうと言えるのは、表現一般なんじゃないかなって」

畠山「誇りを持つというのはすごく大事なことですよね。『誇り』という言葉は、震災以降、初めて実感を伴ったというか、助けられた言葉でした。地元に誇りを感じるということが、こんなにも自分の魂の力になるんだっていうことを知りました」

後藤「ミュージシャンたちもずいぶん何かを売り払ったんだと思いますよ。こんなに音楽が産業ありきで語られているのがおかしいですもん。もともと音楽なんてお金にはなってこなかったことなんだから」

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畠山「ギタリストの笹子重治さんがこんなことを言っていました。自分の叔母さまに言われるそうなのですが、『音楽をやるのはいいけれど、音楽家をやる時に忘れていけないことがひとつある』と。『芸能をやる人というのは江戸時代では河原乞食と言われていて、芸をやってお金をもらうという存在なのだから、それを忘れてはいけない』と。笹子さんはその話を聞いて、本当にそうだなと思って音楽をやっているそうです。卑屈な意味ではなくて、音楽はもともと産業ではなかったんですよね」

後藤「アウトサイダーだということですよね」

畠山「そうです。それを自覚してやるべし、と」

後藤「でもすごく大事なことだと思うんですよね。でもだからこそ、ある種の理想みたいなことを言うべきだと思うんですよ」

畠山「言わなきゃいけないというか」

後藤「音楽家は社会の枠組みの外にいるわけで、いや、もちろん社会と接続していますけれど、満員電車に毎朝乗らなくてはいけないわけではないし、上司がいて言うこと聞かなくてはいけないわけではないからこそ」

畠山「逆の責任がありますよね」

後藤「そういう僕たちこそ、柵のない場所から言葉を紡ぐべきなんです。たとえそれが夢物語みたいなものだったとしても、アウトサイダーたちが、いろんなことをフィクションや物語に託して、聴き手のイメージをグイグイと刺激していくことが大事だと思うんです。それが、いかに子どもたちにとっていい未来を残すかということにも繋がっていく。社会の豊かさを担保する。それはこれまで自分が聴いてきた音楽が自分を導いてくれたからこそ、そう思います」

畠山「そしてそういうものを作るには、綺麗ごとではなく、自分の血肉を分けていくしかないんだと思います」

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後藤「そう思いますね。僕自身、今は作品を作り終わって精神的には健康ですけど、作っている時はやっぱり魂を擦り減らしている感じがしますからね」

畠山「本当にそうですよね。あと何十年、こんなに大変な想いをして作品を作り、生きなくてはいけないかと思ってしまうほど。でもそれをやらなくてはと思うんですよ。それほどに、音楽を作るものとしての大変さと責任を、震災後、より強く感じるもの確かなんです」

(2014.6.24)
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畠山美由紀(はたけやま・みゆき)

畠山美由紀(はたけやま・みゆき)

宮城県気仙沼市出身のシンガー・ソングライター。2001年から、リアス三陸気仙沼大使を務める。Double Famous、Port of Notesの活動を続けながら、2001年、ソロ・デビュー。2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷を想い『わが美しき故郷よ』と題した詩を、雑誌、ブログにて発表。被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き反響を呼んだ。2012年5月、NHK東日本大震災プロジェクト復興支援チャリティーソング『花は咲く』にも、宮城県出身として参加。2013年11月、日本製紙クリネックススタジアム宮城にて開催された『コナミ日本シリーズ2013』第6戦(東北楽天ゴールデンイーグルス 対 読売ジャイアンツ)にて国歌斉唱を担当し話題に。
7月13日(日) 東京・草月ホール(チケットは完売)、8月24日(日) 仙台・戦災復興記念館にて、 バンドメンバーに笹子重治(Guitar)、沢田穣治(Bass&Piano)、真城めぐみ(Chorus&Percussion) を迎えてのライブを予定。