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美しき心の風景と未来 | 畠山美由紀

THE FUTURE TIMES 6号の特集は「三年後の現在地」。宮城県気仙沼市出身のシンガー・ソングライター畠山美由紀さんは、震災後すぐに、東日本大震災で被害を受けた故郷を想い「わが美しき故郷よ」と題した詩を、雑誌、ブログにて発表。被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き反響を呼んだ。そんな畠山さんにとって、気仙沼とはどんな場所なのだろうか? 故郷への想いとは?

取材・文:川口美保/撮影:中川有紀子

東北で感じていた閉塞感の理由

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畠山「私は高校卒業後、気仙沼から東京に出てきたんです。気仙沼は自然豊かな場所だし、ものすごく愛しているんですけど、子どもの頃からどこか閉鎖的な雰囲気を感じていました。それが根底にあることから生じる“都会への憧れ”があったように思います。地元では夢が持てない、というような」

後藤「僕の生まれは静岡県島田市なんですが、基本的には何もない田舎なので、その感じはよくわかります。東京に行くことは、ある種、脱出という気持ちが当時はあったんです」

畠山「私もそうです。よくわからないけれど東京に行かなくては、という漠然とした想いがあって上京したんです。でもそういう想いで気仙沼から東京に出てきたんですが、思い返してみると、私の作品の多くには気仙沼の風景が入っているんです。だからインスピレーションの源はいつも気仙沼の風景があるんですよね」

後藤「ここ何年か、僕も実家に帰ることが増えているんですが、“故郷って何なんだろう”というのはよく考えるんです。年々、愛おしさみたいなのが増えていますね」

畠山「後藤さんは地元の友達と社会的な話をしますか?」

後藤「Facebookで繋がっている友達もいるので、僕が社会に対して思うことを書いた文章を読んでくれたり、それに対してコメントをくれたりもありますし、いろんな仕事をしている友達がいるので、その現場現場での問題点などは話しますね。清掃関係の仕事をしている友達とはゴミの問題についてよく話します。島田市は岩手県の瓦礫を受け入れたんですよ。それでネット上ではいろいろ悪口を書かれたんですが」

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畠山「例えばどういうことを?」

後藤「『島田市は終わった』みたいな。その瓦礫の受け入れと焼却によって放射性物質が拡散されて、人も住めない町になるみたいな。地元の普通ごみよりも、含まれている放射性物質が少ないのにも関わらず、です。それが悔しかったから、地元の友達と一緒に清掃センターに行ったり、学会の発表の文献を取り寄せて読んだりして調べました。だけど、こういう気持ちを福島や東北の人たちはもっと大きく感じていらっしゃるのかなと思うと、どれだけ悔しいだろうかと思います」

畠山「震災後、私も気仙沼に帰る機会も増えましたが、インフラの整ってなさも含め、東北は本当に見捨てられたような土地だったんだなと思うことが多くあるんです。でもそれは最初に言った、子どもの頃から感じていた閉塞感みたいなところに繋がっていたと思います。原発もそうです。なぜ東京には作らないのに、東北には作るのだろうと。その頃から、東北は虐げられているんだという、卑屈な精神じゃないけど、そういうルサンチマン的な想いが私の根っ子にずっとあるんです」

後藤「原発に関しては、なぜ自分が住んでいる場所の近くにあったら反対するようなものを田舎に押し付けるんだろうということは震災前から気になっていました。だから、そういう施設がどれくらいの距離に作られているのかを感じるために、実際に行ってみようと六ヶ所村にも行ったりしたんです。ツアーで青森に行った時にその移動日に連れて行ってもらったり、オフを利用して山口県の上関原発や沖縄の辺野古の基地なども行きましたね」

畠山「欧米のミュージシャンはそういう政治的な意識を持ってメッセージを歌っている人も多いけれど、日本人では少ないですよね。英語と日本語の差があるかもしれないけれど」

後藤「日本は『餅は餅屋』みたいな意識が強いですよね。一市民である前に職業のこだわりが出てくる。政治は政治家がやるものだっていう。そんなわけないのに」

誰もが臆病になっている社会

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畠山「あと、直感で言ってはいけないという空気がある気がしますね。勉強して知識を持つことは大事だけど、直感で感じることはとても大切なことだと思うんです。政治家たちの答弁を聴いていても、何も答えてないなと思うことばかり。これは違うとか危ないとかみんな絶対に直感でわかっているのに、でもそれを口に出して言ってはいけない気がするのは、学歴社会が影響しているのかなと思います。専門家でもないのにこんなこと言ったらバカだと思われるかな、という」

後藤「それはあるかもしれないですね。みんなどう思われるかをすごく気にしますよね」

畠山「それで牽制し合ってしまう。だから平均的なものばかりになって、極端なものが生まれにくい」

後藤「自主規制だと思うんです。歌詞でも、意外と何を歌っても発売できないということはほとんどなくて、だいたい事務所やレコード会社の上の人がダメだと言うんだと思うんですよ。僕、テレビの音楽番組に出た時に、『NO NUKES Tシャツは着ないでください』とか、『チベットの旗は立てないでください』とか言われましたけど、それは多分スポンサーが規制しているんじゃなくて、現場の判断だと思うんですよね」

畠山「そんなこと言われたんですか?」

後藤「でもビシッて来るわけじゃないんですよ。やんわりとスタッフを通して」

畠山「思想の自由なはずなのに」

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後藤「チベットの旗に関しては『中国と摩擦問題になるかもしれないからやめてほしい』と言われました。音楽を聴かせるために番組に出演するのに、そういう政治的な理由で放送できないのはレコード会社としても嬉しくないから、なるべくそういう芽は積んでおきたいというのはあると思いますが、でも単純に自主規制だと思います。僕がチベットの旗を立ててテレビに出たところで、大きな問題にもならないと思うんです。僕としては、広く知ってもらいたい問題ですけれど。笑。みんなどんどん臆病になっている気がしますけどね」

畠山「でもそれは私たちの子どもの頃からそうですよね。問題を起こしたら内申書に影響するとか、そういう教育で育ってきている。だから言って損することの方が多いというのは身に沁みていますよね」

後藤「震災後、復興支援を勝手にやるなという音楽事務所もあったと聞きました。問題を起こされても困るし、ミュージシャンってナイーブな人が多いから、良からぬチャリティに勝手に参加されて巻き込まれても困るというのもあったでしょうし。当然、選別はリテラシーを持ってした方がいいし、ああいう非常事態の時って火事場泥棒みたいなのも出てくるから、それを警戒する気持ちはわからないでもないんですが、でもそれをトップダウンでやるのはどうだろうと思うんです。しかもみなさんミュージシャンでしょ。自分で考えてやりましょうよっていうのは思ったりします。だから、この震災が起きたことで、もっともっとそれぞれがしっかり両足で立って、音楽の表現なりをしていかなくてはいけないと思いましたね。フラフラフラフラ、人に言われたからやらないとか、人に言われたからやるだとかじゃなくて、もっと自発的にやりたいなと本当に強く思いましたね」

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畠山美由紀(はたけやま・みゆき)

畠山美由紀(はたけやま・みゆき)

宮城県気仙沼市出身のシンガー・ソングライター。2001年から、リアス三陸気仙沼大使を務める。Double Famous、Port of Notesの活動を続けながら、2001年、ソロ・デビュー。2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷を想い『わが美しき故郷よ』と題した詩を、雑誌、ブログにて発表。被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き反響を呼んだ。2012年5月、NHK東日本大震災プロジェクト復興支援チャリティーソング『花は咲く』にも、宮城県出身として参加。2013年11月、日本製紙クリネックススタジアム宮城にて開催された『コナミ日本シリーズ2013』第6戦(東北楽天ゴールデンイーグルス 対 読売ジャイアンツ)にて国歌斉唱を担当し話題に。
7月13日(日) 東京・草月ホール(チケットは完売)、8月24日(日) 仙台・戦災復興記念館にて、 バンドメンバーに笹子重治(Guitar)、沢田穣治(Bass&Piano)、真城めぐみ(Chorus&Percussion) を迎えてのライブを予定。