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自立した町を目指して

貨幣価値から離れたものの見方

後藤「僕は出身が静岡県の島田市で、地元は浜岡原発のすぐ近くなんです」

國島「そうですか」

後藤「なので、浜岡原発っていうのは他人事ではないというか、無視できない問題です。位置的にも非常に危険だと思っていて。僕が子供の頃から、いつか東海地震が来るぞと言われていますが、ちょうど震央地にあたるんですよね。震災前は『世界一危険な原発』とも呼ばれていました。いま、防潮堤や防波堤が作られてますけど、それでも恐ろしいというか……」

國島「そういったものを作るのって結局、対処療法だと思うんですよね。近代医学みたいなものです。そうじゃなくて、漢方で体質を改善するようなことも必要だなって思うんです。原発に頼らない選択肢を真剣に考えてみる。エネルギーに関する考え方を根本から見つめ直すことから始めるというか」

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後藤「そうですね」

國島「太陽光発電をはじめとした自然エネルギーの買い取り制度が始まりましたよね。しかし現状は〝原子力に頼らないエネルギー源を求めて太陽光発電に取り組もう〟という意識よりも、〝太陽光の買い取り価格は割と高いから、10年続けたら元が取れて、その後はずっと儲かるらしい〟っていう意識のもとで普及が進んでいる気がするんです。経済至上主義というか」

後藤「同感ですね」

國島「僕はそこが一番まずいところだと思っているんです。自然エネルギー分野に多くの企業が参入することはいいことだし、個人が屋根にソーラーパネルをつけるのもいいことです。実際、高山市でも200棟以上のお宅に補助金を出しています。しかし今後、政策として行なっていくのならば、エネルギーに対しての考え方、イメージを根本的に変えていくための取り組みだということを打ち出すべきなんじゃないかと思うんです。根本的な意識を変えなければ、対処療法のままでしょう?」

後藤「資本、貨幣価値が一番大事っていう考え方には、僕も違和感があります。そこからはみ出させようと思って、無料でこの新聞を作っているんです。もちろんお金は便利だし大事です。今の社会で生きる以上は無視できない。でも、幸せかどうかという問いと必ずしも直結しているものではないと思っていて」

國島「そのとおりですね」

後藤「人質でも取っているかのように『経済』というカードをちらつかせて、〝大丈夫? そんなこと言っていると経済がめちゃくちゃになっちゃうよ?〟っていう声が上がる。僕はそこに違和感があって。そこが少しずつ変わっていけばいいなと思って、今日のような取材を続けているんです」

國島「確かに今の社会は、お金がなければ生きていけないですよね。お金があれば楽しいことも多いのかもしれない。でも、高山エネルギー大作戦のフォーラムに来てくれた藻谷浩介さんも著書(『里山資本主義』)で書かれているとおり、お金以外のものに価値を見出していかないとダメだと思うんです。確かに車も電車もエアコンも必要です。それは認める。だけど、自分たちで考え、生み出し、コントロールしていくような、新たな社会も必要なんじゃないか」

後藤「それが自立ということですよね」

國島「ええ。今、われわれには多くのものが与えられています。お米も水も電気もそう。でも私は、〝それって自分たちにもできるんじゃない?〟っていうことを子供たちが思ってくれるような社会を作りたいんです。自立の意識を持ち、行動し、それによって自信をつけることで人間性を高めていく。アイツが悪いとか社会のせいだとか、全部誰かの責任にしてしまうような世の中で、〝自分たちで決めるんだ〟という強さを持った、自主独立の人たちが増えていくことが必要なんじゃないかと思うんです」

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國島芳明(くにしまみちひろ)

國島芳明(くにしまみちひろ)

1951年生まれ、岐阜県高山市出身。愛知大学を卒業後、73年に高山市役所へ入庁。その後、市教育委員会で芸術・文化振興、文化財保護、地域振興の企画担当などを歴任する。2008年に高山副市長、10年に高山市長に就任。自然エネルギーの掘り起こしを通じて、まちおこしや地域経済の活性化を目指す『高山エネルギー大作戦』に取り組んでいる。14年8月、市長に再選され市制2期目をスタートさせた。