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自立した町を目指して

飛騨地方に位置し、面積の92%が山に覆われた岐阜県高山市。
その自然豊かな山間の町で、今、行政と市民が一緒になって取り組む自然エネルギー開発のためのプロジェクトが進行中だ。
旗振り役を務める市長に、現在地と展望を聞いた――。

構成/水野光博 撮影/高橋定敬

地域でエネルギーを自給自足する

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後藤「以前、いとうせいこうさんから〝今、高山が面白い〟という話を聞いて、一度僕もたずねてみたいなと思っていたんです。今日は『高山エネルギー大作戦』のことなど、ぜひ聞かせてください」

國島「ありがとうございます。本当にまだいろいろなことが取っ掛かりの部分なので、具体的な話というよりも、方向性のお話になってしまうと思うんですが、よろしくお願いします」

後藤「お願いします。まず、『高山エネルギー大作戦』を立ち上げた経緯からうかがってもいいですか?」

國島「わかりました。もともとは2010年の市長選で、私が〝自然エネルギー日本一の都市を目指します〟というテーマを掲げて立候補したことに始まっています。当選後、識者に協力をあおいで委員会を作ったり、フォーラムを開催したりしながら、市民みんなで考え、勉強し、少しずつ意識を変えていく取り組みを行ってきました。そして、2014年になってようやく『高山エネルギー大作戦』として動き出したんですね。始動まで3年かかったんですが、いくら旗を振っても、後ろを向いたら誰もいない状態だと先細りは目に見えています。そうならないように、地道すぎるくらい地道に賛同者を増やしていって、いよいよプロジェクトをスタートさせたという状況ですね」

後藤「市長は震災前からエネルギーの問題に取り組んでこられたわけなんですね」

國島「そうですね。中山間地である飛騨地区において、エネルギーっていうのは避けて通れない問題だと思うんです。山間にある小さな町は、ともすれば周囲の大都市、例えば東京や大阪や名古屋といった街の政治的、経済的な動向に大きく左右されてしまう。大企業などのお金を生み出すような産業がなかなかありませんからね。その結果、資本やエネルギーを都市から持って来て、地域のなかで使うという流れができてしまっているんです。高山市にしたって、車を作る会社があるわけでも、ガソリンを作れる会社があるわけでもないから、必要ならよそから買わなきゃいけないですし」

後藤「いろんなものをよそから調達する必要があると」

國島「そうなんです。すると、せっかく観光客などが地域に落としてくれたお金を再び外に出すことになります。私は『貿易収支』と呼んでいるんですが、地域の収支が黒字になれば、理論的には、その街は豊かになっていく。赤字になると逆に地域は疲弊していきます。だとしたら、〝外に出さなくていいものは何なのか?〟と考えたんです。もちろん、いきなりすべての分野で自立することはできません。では、どういった分野なら自立できるかと考えたとき、エネルギーなら可能なんじゃないかと思いついた。膨大な森林資源を利用した自然エネルギーを自分たちでコントロールして、地域で自給自足すればいいんじゃないかと。そうすれば都会の灯油や電気代が高騰するなどの影響から逃れ、自分たちの生活を自分たちで豊かにできるんじゃないかと思ったんですよ」

後藤「なるほど」

國島「そして、われわれがその問題に取り組むことで、日本のいろいろな土地の人が〝エネルギーって自分たちの地域で作れるんだ〟ということを知り、同じような取り組みが広がっていけば、ひいては輸入の化石燃料に頼らなくてもいい、外から圧力をかけられてもノーと言える状況が生まれるんじゃないかと。それが本当の自立ではないでしょうか。われわれにできることは小さな取り組みでしかないですが、でも誰かが最初にやらなきゃいけないことですから」

後藤「そういった想いが、市長の『脱原発宣言』にもつながっていったわけですよね?」

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國島「ええ。私たちの地域は、中部電力の浜岡原発で作られた電気を使っています。確かに原発もかつては安全神話のようなものがあったし、私自身も安全だと思っていました。しかし、今から7年くらい前でしょうか、ある本を読んでいて〝もしかして違うのかな〟と、その安全性に疑問を持つようになって。それからすぐに勉強を始めました。だから私、知識としてはまだまだ浅いんですよ。たくさん勉強しなければいけないことがある」

後藤「それは僕も同じです」

國島「しかし、ただ理想論だけで反原発を掲げたわけではないんです。電気代が上がってしまうという意見があることも承知しています。でも、私はもっと根本的なところに目を向けたい。原発に関してひとつ間違いなく言えることは、発電所が稼働する限り、必ず放射性物質を含んだゴミが生まれるということです。そして、現在の人類が持っている知恵や技術ではそれを無害にすることができない。将来の地球に残さなければいけないもの、残してはいけないものがあるとしたら、放射性物質は絶対に後者だと思います。われわれの世代はいいかもしれない。でも、子供や孫の時代に必ずツケとして残る。ですから私は反原発を公に言葉にしたんです」

後藤「素晴らしいことだと思います」

國島「私が市長という立場なので、〝じゃあ、高山市は全員、原発反対なんですね?〟と捉えられることがありますが、それは違います。中部電力に勤めている方もおられますし、利害関係にある人だっています。いろんな人がいるけれど、高山市として将来的に脱原発の方向にいかなければいけないんだという意志は示しておきたいなと。市長という、従来の政治のあり方、経済のあり方、人の心のあり方を変えられる可能性のある立場にいる以上、挑戦してみようと思ったんです。そういった問題を考える機会を市民に与えることも、市長としての責任なんじゃないかなと」

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國島芳明(くにしまみちひろ)

國島芳明(くにしまみちひろ)

1951年生まれ、岐阜県高山市出身。愛知大学を卒業後、73年に高山市役所へ入庁。その後、市教育委員会で芸術・文化振興、文化財保護、地域振興の企画担当などを歴任する。2008年に高山副市長、10年に高山市長に就任。自然エネルギーの掘り起こしを通じて、まちおこしや地域経済の活性化を目指す『高山エネルギー大作戦』に取り組んでいる。14年8月、市長に再選され市制2期目をスタートさせた。