THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

誰もが助けてと言える場所「希望のまち」を目指して

環境やつながりのなかで
自分のキャラクターが変わる

後藤「人とのつながりのなかで、自分のキャラクターってよく分かったりすると思うんですよね。例えば、全然違うコミュニティーに行ったら、キャラクター変わる人っていると思うんですよ。職場と家族ってキャラクター変わることってイメージ湧くじゃないですか」

雨の中行われた炊き出しの風景。お弁当、薬、カイロなどが配られた。

奥田「よく言われます」

後藤「そうですか(笑)。いやでも、それはそうだよって話で。関係性の中に自分のキャラクターがあるので、誰とも接しないと本当に真っ暗闇になって、自分の輪郭も分からなくなるようなイメージがあって。人と話していくうちに、自分の人間としての輪郭が自分でもよく分かってくるみたいな」

奥田「全くそうだと思いますね。だから、それが乖離(かいり)してるわけじゃなくて、関係の中で自己形成するから。うちの支援者でもある平野啓一郎さんがね、あの作家の。」

後藤「平野さんの著書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』ですね」

奥田「彼が言ってる分人って、あれを言語化してくれたのが平野さんだけども。私はやっぱり多かれ少なかれ人間って、そんなもんやと思うんですね。それを個人という、そのディバイドできないインディビデュアルだという、そのディバイドできないところが近代の個人だ。けど、そうじゃないんじゃないかって平野さんは言った」

後藤「僕も読みました。感銘を受けました」

炊き出しで配られたお弁当。メッセージカードが添えられていた。

奥田「でも僕ら、平野さんがそう書いてくれて本当にすっきりしたんだけど。現実的に、やっぱり、その環境や相手とのつながりの中で、自分のキャラがちょっとずつ変わっているという。だから、それはあり得るし、それぐらい他者性というものが人に影響を与えるという。そういう意味では本当に何かいい出会いが重なっていくのは、とっても大事ですね」

後藤「そうですよね。人間って本来のキャラクターなんていうのはなくて、その組織とかコミュニティーの中でその人のキャラクターが発揮されるので。今回取材させていただいた皆さんは、『抱樸』との関わりの中に生きがいがあって、任せられた役割があって、生き生きと活動されていて。その様子に本当に感動しました。一方で、例えば、僕もいろいろな関係を全部失っていったら、容易に野宿生活だったり、絶望して全く意欲のなくなったりする自分が想像できるんですよね。だから今回、『抱樸』を取材させてもらって、本当に“もう生きていかれない”とか思ったとしても、最後に一度『抱樸』に来ようって思うくらいの、そのくらいの勇気をもらいましたね」

奥田「何とかなるんです」

後藤「もう音楽もやめて逃げたくなったら一度、奥田さんのところに来ようみたいな。ここに来たら一応一度は抱きしめてもらえるんじゃないかというような気がして」

奥田「一度じゃなく抱きしめます」

後藤「でも、そんなことって普通は思えないよねみたいな。みんなハラハラして生きてると思うんです。仕事なくなったらどうしようとか、家族に捨てられたらどうしようとか。子どもたちだって親に見捨てられたらどうしようとか思ってるだろうし。でも、『抱樸』のような活動があって、『でも、あの人は抱きしめてくれるよ』という人がいる安心感って、ちょっと感動しちゃいました」

奥田「いやあ、それはありがとうございます。あと4、5回来ていただいたら、いろんな現実がまた見えるかもしれません」

後藤「新しい施設を暴力団の事務所の跡地につくる『希望のまちプロジェクト』とか、全然、簡単なことではないですよね。地域的にも、また違う複雑な問題があるだろうし。今は野宿者の数が減ってきてるかもしれないけど、見えない困窮者がいたり、問題に対するアプローチが難しくなっているという話も今日はうかがって。『抱樸』の事業自体も移り変わっていってますよね」

『希望のまちプロジェクト』建設予定地。現在は仮設のコミュニティスペースが設置され、イベントなどが行われている。

奥田「そうですね。いまだにホームレス支援団体と言われますけども、もう今や何やってるかよく分からない団体で。かつてからそうだったんですけどね。だからホームレス支援団体から始まったけども、そして今は法人という法の人格なんだけども、それも結局つながりの中で変化していくというのは本来の姿なんですよね。人間と同じだから。やっぱり出会いの中で変わっていく。だからNPO法人も出会いの中でどんどん形を変えて35年やってきたと。これって、さっきの、あの、つながりの中でキャラクターが変わっていく。役割が変わるということと、同じなんですね」

後藤「ああ、なるほど!」

奥田「けど、これが制度になるとね、例えば、ある法人さんは、うちはもう介護事業をやってますとか、障害の例えば知的障害をやってますというふうに、人格規定をしてしまうと、そこから出ない。もう出会いがないという。変わらないんです。だけどNPO法人って国からそういう財政支援もない分、自由なんですよね」

後藤「そうなんですね」

奥田「そうすると出会いの中で、どんどん人格変わっていくから、まさに分人化していくわけです。だから、もう今となっては、ホームレス支援団体と言われると何となく背中がこそばゆいというか。それもやってますみたいな話。それと、さっきの“環境が変わったら自分もそうなるかもしれない”って話がすごく今の時代には大事で。かつては、ここから上は絶対的に大丈夫というような中間層がいて、遠く離れてホームレス層がいた。でも、この30年で、この中間層の底が抜けて下にグーッと広がったんですね。こことの境はもう本当に紙一重。いつ、こっち側に来ても変わらないし、しかも、それが単なる経済問題じゃなくて、つながりの問題ですよね。本当に全てを奪われた時に、今の僕の人格が保てるかという」

奥田 知志(おくだ ともし)

NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会牧師
1963年生まれ。関西学院大学神学部修士課程、西南学院大学神学部専攻科をそれぞれ卒業。九州大学大学院博士課程後期単位取得。
1990年、東八幡キリスト教会牧師として赴任。同時に、学生時代から始めた「ホームレス支援」に北九州でも参加。事務局長等を経て、北九州ホームレス支援機構(現 抱樸)の理事長に就任。これまでに3700人(2022年3月現在)以上のホームレスの人々の自立を支援。