THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

TFT イベントトーク編@札幌PROVO

新しさに対して寛容であってほしい

Mayunkiki 「新しくやっていくものに関しても寛容であってほしい。例えば、アイヌ文様の話とかも、古いものはもちろん復元できるし。アイヌの人が新しい文様を考えたときに、果たして今、それがアイヌ文様として受け入れられるかとか。で、“あれ、ちょっとパチものじゃない?”ってみんなで言っちゃう空気感とか、アイヌが作ったらアイヌ文様なのかとか、いろいろ問題があるんですよね」

Hisae 「でもね、昔のものを見ると、寛容だよね。広い。何でもあり。もうこれしかないっていうのがなくて、何でも面白かったら取り入れる。例えば、それが日本から入ってきた文様でも取り入れたりとかっていう広さがあるかな、大きさがあるかなっていう気がします。で、逆に今のほうが不寛容というか、これじゃなきゃ駄目っていうふうな線引きみたいなのがあるような気がします」

後藤正文

後藤 「でも、当時だったら普通に交易してるから」

Mayunkiki 「そう。新しいものは大好きですよ。これちょっと入れちゃおう、みたいな」

後藤 「そうですよね。珍しいものが来たらあれいいじゃん、みたいに思っただろうし」

Hisae 「だって、もう金とか好きだから。キラキラしたゴールド。うるし塗りの蒔絵とか、そういったものが入ってくると、キラキラしているし、美しいものは身の回りに置いておこうとかってなるわけじゃないですか」

後藤 「そうですね。現代の人と変わらないですよね」

Hisae 「今のアイヌだって新しいものを取り入れてもいいわけでしょ」

後藤 「そうですよね。あのイヤリング、めっちゃかっこいいじゃんって話してもいいってことですもんね」

Hisae 「いろんなカラフルなものだって、今だったらあるし」

後藤 「いきなりこのアイヌの柄を思いつくわけないですもんね。最初からパッと生まれるわけじゃなくて、どこかで今のかたちになったってことですもんね、文化を育みながら時を経て」

Rekpo 「いいんですよ、新しいものをどんどん入れて。こんなことしてみようかなっていうのが、かっこいいのに、なんだかやりにくいというか」

後藤 「新しいことをやると、“それ、アイヌじゃなくない?”みたいになっちゃうっていうのも窮屈ですね」

Rekpo 「結局、その新しいものやるじゃない? で、例えば、どこかのすごく有名なところが“これ買います。アイヌの方、いっぱい作ってください”って売り出したら、それは認められるんですよ、新しいものでも。やっぱり名前」

後藤 「権威主義ですね。どこかのブランドが認めた、みたいな」

Rekpo 「そこなんですよね。大多数の人が認める、みたいなね」

Hisae 「認めるのは人だから、ある意味、仕方ないかなって思います。どこかで騒がれたら、ああ、いいんだ、みたいな。自分ではよく分からないけど、いいんだって」

後藤 「ヒットチャートの音楽が売れるのも、似たような構造だったりしますよね」

Hisae 「うん。もうそれは変えようがないから、仕方ないかもしれない」

後藤 「勉強になるなぁ。アイヌっていう文化のこと、その文化が抱える諸問題について考えると、フラクタルというか、いろんなところに同じかたちの問題がありますね。今日、何を聞くのがいいのかなと悩んでいたんです。もちろん、昨今の排外主義というか、 “純粋な日本人”なんていう言葉が無遠慮に飛び交う時代のなかで、一緒に話したら面白い解決策とか、どうやってみんなで豊かにしていくのがいいのかな、なんていう話ができるんじゃないかと考えながらここへ来て」

Mayunkiki 「本当、血筋とかじゃないというか、そういうことじゃなくね。でもね、難しいなと思うのは、例えばすごくアイヌ文化が好きで、アイヌになりたいっていう人が、じゃあ、すごく学んでいて、いろんなことを知っているけど、じゃあ“私はアイヌです”って名乗れるかどうかは分からないじゃないですか」

後藤 「そうですね」

Mayunkiki 「そのへんの問題は本当にあるなと思っていて。でも、私は誰が何をやってもいいなと思っているんですよ。日本人だからって邦楽器しか使っちゃいけないわけじゃないし。それと一緒だと思っていて、アイヌだからってアイヌだけがアイヌのことやらなきゃいけないっていうのは、ちょっと堅苦しいし、間口が狭いなと思うんですよね」

ギュイギュイするしかない、ノイズ出すしかない

後藤 「アイヌの文化に詳しい人が出てくるのは、とてもいいことだと思いますけどね。世界中にイギリス文学とかフランス文学を学ぶ人がいたりするし、もっと細かい郷土の歴史や言葉を学ぶ人もいる。例えば、沖縄の人たちの言葉も、がっちり地元の言葉で話されたら分からないじゃないですか。静岡の田舎でも、濃い静岡弁の人がいるんですよ。ほとんど分からないですよ、おばあちゃんとかが言っていることとか」

Hisae 「ネットとかで見ても、狭い地域での方言っていろいろ、全国いろんなところにあるみたいですよね。で、例えば、ちょっと離れているところだけど結婚すると言葉が混ざっていったり」

後藤 「本当は、言葉ってそういうものだったはずなんですよね。標準語みたいな口語はなかったはずで」

Hisae 「ないですよね。話し言葉ばっかり」

後藤 「標準語が強制しちゃったところもあって。ドレミファ問題にもつながりますね、そう考えると。MAREWREWと僕の間に横たわってるドレミファソラシド、平均律の問題に」

 talk

Mayunkiki 「そうですね、ギターが合わない。解決できないやつ」

Rekpo 「アイヌの歌も、私はお嫁に行ったり、お嫁に来たりみたいな感じだと思っていて。私たちは旭川だけど、阿寒に嫁に行くとか。そうすると、旭川の歌を歌っている私が阿寒に行ったら、阿寒に歌もお嫁さんに行くわけじゃないですか。そこで歌が混ざっていって、そこの土地の歌になっていく。だんだんちょっとずつね、節が違ってくる。でも、同じようなことを歌っている。メロディーがちょっと違うね、みたいなのがどんどん生まれてくるっていうのも面白いなと思っていて」

Hisae 「そういう自由度がなくなってきているのかなと思うんですよ、最近。それが日本全体の閉塞感というか。私たちは北海道に住んで、田舎だから、都会のほうでは分からないけども、みんなストレスをためてたりとか、そういったもののはけ口みたいなもので、排他的な、“日本人素晴らしい”的なものにちょっと行きたくなる人もいるのかな」

後藤 「うん、分かりやすいですもんね。ある種の目盛りをつくって、その目盛りを使った方眼、マス目に折り目正しく収まっていないと、“違う”とか“間違ってる”と言って罵る。そういう人ばっかりだと息苦しい」

Hisae 「本当はもっと自由でいいと思うけどね」

後藤 「ですよね。僕は自由なのがうらやましい。アイヌの音楽が本当に一番面白いなと思うのは、やっぱそこですね。音楽だけにフォーカスすると、ですけどね。ギターが合わないんだもんみたいな(笑)」

一同「(笑)」

Mayunkiki 「無理だもん、みたいな」

後藤 「どこを押さえて弾いてもこっちが間違ってる!みたいな。それ、すごいことなんですよ。ギターのチューニングはがっちり西洋、グローバル資本主義的な音階だから」

Mayunkiki 「前に大友良英さんとご一緒になったときも、大友さんも結構困ってて、“ギュイギュイするしかない”みたいな。ノイズ出すしかない、みたいな」

後藤 「やっぱ、ほら(笑)。そこにしか行けないんですよ、それがでも面白くて」

Rekpo 「いいと思います」

後藤 「今に始まったことじゃないけど、すぐに“音痴だ”とか言ったり、“あいつ、歌が外れているぞ”とか言ったり。みんな、コンピューターで過剰に直すじゃないですか。寂しいですよね。悪いことじゃないけれど、ちょっとズレてるのもいいじゃないか、みたいな。むしろ正解なんて本当はないのに、絶対音感を崇拝するような考えもあって。それは権威主義だと思うんだけど…」

Hisae 「でもさ、それは西洋音楽が入ってきて、それが一番っていう、そういうふうになっちゃってるんじゃないですか」

後藤 「なっちゃっていますよね。だから、乾杯の音が“今の音、ソだったね”とか、確かにすごいことなんだけど、見方を変えたら、ちょっとした檻でもあるんじゃないかと思うんです。作られた正しい音のグリッドが常に見えちゃっていたら」

Mayunkiki 「そんなもう、自分の中の正しい音があって、ほかの人が(正しい音を)出していないっていうと…」

 talk

後藤 「はい。苦しみが生まれることもあるんだと思います。でも、クイズじゃないですもんね、音楽は。正しさっていうのが常にどこかにあって、その正しさに向かっていくわけじゃなくて、みんなで絡み合いながら一つの心地いいところを目指すというかね」

Hisae 「そうそうそう。それが音楽でしょ。音を楽しむんだからね」

後藤 「いい言葉ですね。締まりましたね、最後ね、素晴らしい着地で」

Rekpo 「今のはいい、すごくいい」

Profile

アイヌの伝統歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマに活動する女性ヴォーカルグループ。さまざまなリズムパターンで構成される、天然トランスな感覚が特徴の輪唱など、アイヌROOTSのウポポを忠実に再現する貴重なアーティスト。

2010年、初のミニアルバム「MAREWREW」を発表後、活動を本格化。2011年に自主公演企画「マレウレウ祭り~目指せ100万人のウポポ大合唱!~」をスタートさせ、これまでUA、サカキ・マンゴー、SPECIAL OTHERS、キセル、オオルタイチ+ウタモ、木津茂理、細野晴臣、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)を迎えた公演が話題となる。 また、SPECIAL OTHERSのコラボアルバム「SPECIAL OTHERS」に、アイヌの伝統歌「イヨマンテ・ウポポ」で参加。ほかにもNHK(Eテレ)の人気子供番組「にほんごであそぼ」への出演、ワールドミュージックの世界的な祭典Womad(UK)への出演をはじめとするヨーロッパ公演など、国内のみならず海外でもその活動が注目されている。

2012年8月には、フルアルバム「もっといて、ひっそりね。」(プロデュース:OKI)をリリース。現代的なアレンジを織り込みつつも伝統的なウポポの魅力を凝縮した作品は、各方面で高い評価を受けた。
2016年4月にはファースト・ミニアルバムを全て最新録音し、ボーナストラック4曲を追加した「Cikapuni(チカプニ)」をリリース。2016年秋に放送のNHK(Eテレ)「オトナの一休さん」の音楽を大友良英のプロデュースで担当。2019年9月に最新フルアルバム「mikemike nociw」をリリース。

マレウレウはアイヌ語で「蝶」のこと。

最新作「mikemike nociw」
マレウレウ "ウコウク" @ マレウレウ祭り vol.2
(2020.02)
表紙