THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

TFT イベントトーク編@札幌PROVO

アイヌの伝統歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマに活動するグループ、MAREWREW(マレウレウ)。
彼女たちが肌で感じる不寛容な社会。そのなかで自由に響くアイヌの歌。
押し付けられる「アイヌ」というイメージについて思うこと。

先住権=生活権とか土地の所有権がアイヌにはない

マレウレウ

Mayunkiki 「イメージの中のアイヌであることを強制されて、そこを抜けない人というのはもちろんいるんですよね。アイヌのイメージを大事にし過ぎて、自分を殺してまでアイヌになろうとする人とかっているんですよ」

Rekpo 「実際問題、そのアイヌに近づこうって思っている人方(ひとがた)も、だんだん増えてきている。若者たちとかでも、狩猟の民族だったから、自分たちも猟銃だったり何だりというのを勉強しつつ」

後藤 「権利を取り戻そうという運動もありますよね」

Rekpo 「権利もそうだし、この間のね、サケのね」

後藤 「昔は自由に獲ることができたのにっていう話ですね」

Rekpo 「そうです。だから、あの人もたぶん、昔はね、サケが捕れた時期だったりとかというときには、必ずサケを獲りに行って、お祈りをして、それで神の国に“どうぞまたたくさんサケ、上ってきてください”っていうようなことをやっていたから、サケを獲る。だけど、国の許可がないと獲っちゃいけないっていうんで、反発して」

後藤 「はい」

Rekpo 「それで捕っちゃった。だけど、それはね、許可を得れば大丈夫なんですよ。国に許可をもらえれば、どんだけ捕ってもいいですよって言われているんです。だけど、そこを反発しているんですよ」

Hisae 「結局さ、もともとは狩猟採集生活、でも、これ生業(なりわい)の一つだったわけでしょう? でも、サケは既得権益なんですよ、根室の中で。漁業権というのがあって、それを一部の人しか持てない。ちょっと難しい問題があるんです」

後藤 「そうですよね」

Hisae 「でも、世界的に見ると、先住民族には先住権というものがあって、そこはいわゆる文化、音楽とか、言葉とかっていうだけじゃなくて、生活権とか、土地の所有権とか、そういったものも含まれているんだけど、アイヌの場合はそれがない。だから、そういったことに一石を投じたかったということだと思います」

後藤 「なかなか複雑に絡みあった問題ですよね。権利を認めようという流れが世界的にありますからね」

Hisae 「そう、あるんだけど、なかなか法律の中で難しい面もあったりとか」

後藤 「アイヌなんていないんだって言う議員もいるじゃないですか」

Hisae 「なんかアイヌになったら得なんじゃないかとかって言われたりとかね」

Mayunkiki 「無知な人って、やっぱりどこの世界にもいるんだなという。あと、いろいろ学んでいるようで偏った視点でしかないから」

Hisae 「本当に無知なのか、わざとなのか分かんないんだよね」

Mayunkiki 「たぶん、その人なりの歴史観とかがきっとあって。その人にとっては“アイヌがいない、アイヌはお金をもうけてる、アイヌだっていうだけでお金をもらっている”みたいなのが正しくて。で、その先住権の話とか、漁業権の話とかになると、利権だとか“アイヌだけサケを捕って”とか言い出すんですよね。でも、本当にすごく低い次元の話で。じゃあ、MAREWREWで何ができるかっていったら、シャケ捕っていませんよって言うとか、山住んでいないんですよって言うとか、アイヌだけど……」

Hisae 「お金もらっていませんよとかね」

Mayunkiki 「だから、その“アイヌはお金をもらっている”っていう人と、いまだに伝統的な家屋=チセに住んでいると思う人というのが両方いるので」

後藤 「民族衣装で暮らしていると思ってる人もいると。アメリカ先住民が映画みたいに馬に乗ってアワワワって走って来るわけじゃないですもんね」

Hisae 「それはちょっと30年ぐらい前、アメリカで、日本って侍とか芸者とか」

後藤 「いや、まだ忍者がいると思っている人いると思いますよ、きっと」

Hisae 「そういうのと同じことです。そんなの、笑っちゃうでしょう」

Rekpo 「いろいろいるんですよ、アイヌは。自然崇拝している人だっているし、神様は常にまわりにいるって私も思っていたりもするし。だけど、考え方は人それぞれまた違うし」

後藤 「なかなか難しい問題ですよね。こうやって一つのルーツとして、もう日本に溶け込む感じで生き方を選択している人もいれば、もちろんルーツに誇りを持ちながら生きていくこともできるわけだし。さかのぼって、自分たちの昔の文化を取り戻そうという方もいらっしゃるということですよね」

Mayunkiki 「でも、昔を取り戻そうとすると、懐古主義的になっちゃうんですよね、新しいことができにくいというか。その感じはちょっと嫌で。MAREWREWで伝統的な歌を歌っているんですけど、だからって古いものだけいいとは思ってないし。やっぱり年数を経てMAREWREWで出せるものっていうのは、MAREWREWでしか出せないものなので。アイヌの昔の生活しているわけじゃないし、私たちにできることってすごく限られていて、別にうちらライブのときもアイヌ衣装じゃなくてもいいんだけど」

Hisae 「いや、でも、そろそろ日本では、違う衣装でもいいかもしれない」

Rekpo 「本当にね。私服にしようっていうふうにね、言っていたんですけど」

後藤 「普通に着たい服着てやるみたいな」

Hisae 「ありかもしれないね」

Mayunkiki 「でも、ぱっとこれが出てきたら、アイヌさんだ、みたいな。アイヌさんだ、万歳みたいになるから」

後藤 「俺、でも好きですけどね、この衣装。かっこいい」

違う言語圏でやっていくかたちを選んでいくしかなかった

後藤正文

後藤 「日本の文化ってどこに宿っているのかなってよく考えるんです。僕の友人で、温さんという小説家がいるんですけど、台湾の国籍だけど日本で育ったから、日本語で考えて日本語を話して、もちろん日本語で小説を書くんです。で、彼女の話を聞いたり著書を読んだりすると、アイデンティティって何だろうって揺さぶられる。国籍だとか、血とかじゃない。僕の考えでは、日本の文化って、たとえば日本語や日本語の使い方=発音や書き方のなかに宿っている。日本語を使う人たちによって代々パスされ続けている。たぶん、衣服とか工芸とかも全部同じ構造だと思っていて。作り方や模様にも宿っている。それが先々々々代ぐらいからずっとパスされてきていて。アイヌの言語も、たぶんアイヌの先住民からずっとパスされてきているもので。それって血でも遺伝子でもないと思っていて。だから、MAREWREWの歌を聞いていると、歌に宿るアイヌの文化の渦の中に連れていかれる感じがする」

Rekpo 「入っちゃいますか」

後藤 「なんかすごいんです。まったく知らないけど懐かしいみたいな感じ」

Rekpo 「あの渦はいいですよね」

後藤 「あれがたぶん、アイヌの文化というか、精神性というか、エネルギーなんじゃないかなって」

Rekpo 「だから、私がまだ小さいころ、飲み会があったりとか、お母さん方が集まったりとかすると、その渦ですよ。そこかしこでその渦。ワーッと歌い出して。最後は大きな輪踊りを踊っているのが締めくくりみたいな感じで」

後藤 「宴会だ。行ってみたいな」

Rekpo 「歌がうまいおばさんがワッと歌い出して、そこにみんなが乗っかってきて。だんだんそれがなくなってきているんですよ」

後藤 「民謡なんですよね、本当ね。アイヌ民謡。歌と踊りみたいな」

Hisae 「そうですね、アイヌにとっては民謡だと思います」

Mayunkiki 「でも、言語で、言葉でもし区別されるのであれば、今のアイヌって本当にアイヌ語を使っていないので、じゃあ、アイヌの文化は何かっていう話になると思うんですよね。普段考えることもアイヌ語ではないし、歌を聴いても歌詞が分かるわけではない。そのアイヌ語が分からない中で、じゃあ、歌をどう表現していくかとか、その歌詞の意味が分からなくても、昔の人たちが歌っていた空気感をどう出せるかというのは、やっぱり日本語で考えちゃうんですよね」

後藤 「なるほどね」

Mayunkiki 「それが、アイヌだからってアイヌ語で考えなきゃいけないってことではなく、違う言語圏でやっていくかたちを選んでいくしかなかったので。それは私が死んでから、ひいおばあちゃんとかとアイヌ語で話せたらいいなと思ってアイヌ語を勉強していますけど、日常的にアイヌ語で話すことはないので、必要ないといえばないんですよね。死後の世界とか夢のなかでアイヌ語を語れる機会があるのであればと思ってやっているんですけど。でも、そうすると、アイヌ語が分からなくても、音の響きで体に感じるものとかっていうのが増えていくんですよね、聞けば聞くほど、歌えば歌うほど」

後藤 「それはすごいですね」

Mayunkiki 「だから、そういう新しいアイヌとしての出し方みたいなのを、今はやらないといけない。やっぱり古くからアイヌ語を話していた人とか、感じ方はたぶん違うので、新たなものを作っていくしかないかなと思っていて。なんかね、期待が大きくて。イメージとしての“アイヌ”が好きみたいな人からの過度な期待はなるべく見たくない、触れたくないと思っていて。放っておいてよって思うことが多い」

後藤 「誰かの思うアイヌ像とかじゃなくということですね。私は私」

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