THE FUTURE TIMES

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みんなコンプレックスを持ってるコンプレックスはアートなんだよ CHAI(マナ、ユウキ) x 後藤 正文

CHAIは、現在国内外から注目を集める4人組。
「NEOかわいい」「コンプレックスはアートなり」というコンセプトを掲げる
ニュー・エキサイト・オンナバンド=CHAIからマナとユウキを迎えて、
掲げるコンセプト、メッセージ、現在のCHAIのスタイルについて話を聞いた――

取材・文:石井恵梨子 撮影:山本佳代子

「真ん中」を生きる者たちの視界

後藤 「CHAIは、最初に出てきたときから好きだったの。まず音楽が良かったし、メッセージがあるんだけど、戦わないでやっている。そこが格好いいなと思って」

ユウキ 「嬉しい! 最初っからそう思ってくれたの?」

後藤 「そう。新しいと思った。多くの女の子のバンドって、まず太文字のガールズバンドという見出しと戦い始めるんだよね。男性スタッフとかプロデューサーにナメられたくないっていう気持ちが前面に出てきて。別にそれは僕が用意したものじゃないけど……そこに連なる業界にいる男性ミュージシャンとして、なんか申し訳ないなと思ったりする」

マナ 「うん、わかる。でも私たちは最初からガールズバンドの枠に入る必要なんてないと思ってた。女だけど、そんなの関係ないって」

ユウキ 「だから自分たちで〝オンナバンド〟って名前つけちゃった」

マナ 「ね。肩書きなんて自由!」

後藤 「本来は〝ロックバンド〟でいいんだよね。なのに女の子だけでやると〝ガールズ〟がついてくる。性別は関係ないのに。でもさ、CHAIはそれに対してファイティングポーズを取っていないでしょ。他人からどう見られているのかっていうこととの闘争にエネルギーを取られちゃう若いバンド、いっぱいいるの。そもそも音楽やってるはずなのに、何かと戦うことに気持ちが行き過ぎちゃう。CHAIはそうじゃないよね。音楽そのものにエネルギーを向けてるし、あとはステージ周りのアート性が重要で」

ユウキ 「そう、アートが好きなの。アートに戦いとか必要ないから」

後藤 「結果、それが既存の価値観に対するアンチテーゼになってるんだよね。戦う気がないのに、ちゃんと反抗してる。アンチというよりは新しい価値観っていうか」

ユウキ 「そうだったら嬉しい。別に音楽で戦いたいとは思わないけど、『こういうものもいいよね?』とは言いたい。それが〝NEOかわいい〟だったから」

後藤 「既存の〝カワイイ〟に縛られなくたっていいじゃない、ということだよね。それを最初はどうやって用意したの?」

ユウキ 「うーん、もともとCHAIはね、みんな特にかわいいわけじゃないから」

後藤 「うん。……今ここで『うん』って言うのも失礼だね(笑)。もちろんチャーミングだとは思うよ」

マナ 「ありがとう(笑)。でも自覚はみんなにあったよね?」

ユウキ 「あったあった。4人とも、お互いのことを見てもそう思ってたから。みんなもともと超ネガティブ出身だったし」

マナ 「高校のときとか特にそうだったよね? どうやったら顔を隠して生きられるかってことばっかり考えてた」

後藤 「え、そうなの?」

マナ 「うん。髪の毛で全部隠すみたいな感じ。そうやって気配を隠すように、目立たないように生きてきたの、4人とも。でもこの4人でいるとすごくハッピーになれるし、お互いに褒めることが普通になった。『今日のここがかわいい!』とか。それを素直に言う女の子ってあんまりいないんだよね。絶対ウソだろ、って思いながら聞くのが普通なんだけど……」

後藤 「あるね(笑)。(大袈裟な口調で)『あーっ、かぁわぁいぃ~』みたいなやつでしょ?」

マナ 「そう! 言われたほうも『え~っ、かわいくないよぉ~』って言って。とりあえず褒めてとりあえず謙遜するのが普通、みたいな(笑)。でもCHAIの中でそういうウソはまったくいらなかったから」

ユウキ 「ね。『眉毛がいいね』『ありがとう!』って言い合えた」

マナ 「それで『もっと太くしようよ』って。いいとこなら強調しよう、もっと出していこうって」

ユウキ 「そうやって、みんな顔を隠さなくなった。ユナ(ドラム)とか昔は髪の毛で覆いすぎてニキビだらけだったのが、顔を出すことによってツルツルになってね。そっちのほうが絶対かわいい。褒め合って、受け入れて、それでどんどん本当のかわいいが出てくる」

後藤 「その人らしさ、その人らしい魅力がね。最初にポジティブな言葉を投げかけたほうがいいっていうのは、僕も最近わかってきた。特に欧米のミュージシャンたちと仕事をすると、みんなそうなの。演奏の後には『ナイス・ワーク!』とか『クール!』って絶対に褒めてくれる。そこからディスカッションが始まるの。『でも俺はこう思う』とか『今のはさっきのテイクよりフレッシュじゃないから、もう一回やってみよう』とか」

ユウキ 「そういうの素敵だよね! 私たちも、これは本当にすごいこと、いいことだと思ったから、もっとみんなに伝えたいと思ったの。そのためにも〝NEO〟って言葉がめっちゃいいじゃんと思って。それでニュー・エキサイト・オンナバンドって言うようになって」

後藤 「なるほどね。ニュー・エキサイト・オンナバンドで〝NEO〟」

ユウキ 「略して〝NEO〟。私たちのこと。〝NEOかわいい〟も、ひとつ言葉があったほうが伝えやすいだろうと思ったから作った」

後藤 「素敵だと思う。みんな、CHAIみたいに生きられたら最高だよね。学校で暗い顔する必要なくなるよ。勝手に用意された〝カッコイイ〟や〝カワイイ〟、〝イケてる〟、〝イケてない〟って本当に呪いの言葉だと思う。あの基準に合わないと自分からずんずん沈んでいって、負の空気にまみれていくから。自分自身でもすぐに『いや、普通は……』とか考えちゃう。普通って何? って話でさ」

マナ 「ねー。そうそう、普通なんてないんだよ」

後藤 「そういう発信の仕方が、CHAIは音楽にちゃんと繋がってるよね。セパレートされてない」

ユウキ 「繋がってると思う。もちろん音楽ありきなの。最初に音楽をやるって決めて、やるんだったらちゃんと芯のあるアーティストになりたいっていうのは4人とも思ってたから、私たちに何ができるか考えたの。そしたら『みんなコンプレックスを持ってる、これが武器だね』って確認できた。だから『コンプレックスっていいものだよ、アートなんだよ』っていうことを発信するアーティストになろうって」

後藤 「でも、そういうのって避けがちでしょ。体形のこととか歌にしようと思わないもの」

マナ 「えーっ? そうなの!?」

ユウキ 「歌にしちゃったね! しかも超ポジティブに。ポジティブすぎて強気に見えるくらいの感じで歌詞にしちゃってる(笑)」

マナ 「そのほうが格好いいよね」

ユウキ 「うん、ポジティブに言っちゃうほうが楽しい」

マナ 「だって、見ればわかるよね?目ぇちっちゃいし、くびれてないし。くびれようと思って頑張った時期もあったけど、体ってそう簡単に変えられないから」

後藤 「僕も、背なんてもう伸びないよって思ってる(笑)。ステージへ出ていくと『ゴッチ、小さっ』なんて言われるんだけど、何そのシンプルすぎる感想は、って思う」

マナ 「ははは! 見たまんま!」

後藤 「そう。見たままのつまらないこと言うなよって(笑)。もちろんね、そこまでコンプレックスじゃなかったけど、昔は背が高いに越したことはないって思ってたの。子どもの頃は背が低いだけで運動の結果に違いが出るから。ただ、大人になるにつれて、友達や好きになる女の子にとっては僕の身長なんて関係ないんだってことがわかって。そこに気がつくと、コンプレックスは自分の意識から消えていく。今は全然気にしてない。……気にしたところで伸びないしね」

マナ 「伸びない伸びない(笑)」

後藤 「僕はそうやって克服してきたけど、もう40のオッサンだから言える部分もきっとあるわけ。20代で、みんなはどうやってこういう表現に変えていけたんだろう」

ユウキ 「あぁ……そこは4人で褒め合ってきたのが一番大きいと思う」

後藤 「みんなで褒め合ってバンド活動してるうちに、自信がめきめき湧いてきたの?」

マナ 「そうそう。褒め合ってるうちに『これでいいじゃん、この音楽聴いて!』って」

ユウキ 「『これだけ音楽いいんだから、このルックスもむしろチャームポイントだ!』って思えるようになってきた」

後藤 「へぇ。いい話だね。このメンバーだからできるバンド・マジックみたいなものだよね」

ユウキ 「うん。それはこの4人だからやれたことだと思う」

マナ 「本当だよね。それこそ、とびきりカワイイ子がいたらバンド内でも嫉妬してたかもしれない」

後藤 「あはは! たとえばルックスが抜群のボーカルがいて……」

マナ 「いやーっ! ダメだね、そんなのがいたら(爆笑)」

後藤 「それでプロモーションの仕方も変わってきたら嫌だよね」

マナ 「その子だけ前に出て写真に大きく写ってる、みたいな?」

ユウキ 「うわ、嫌だーっ!」

後藤 「あははは。でもそれは〝NEOかわいい〟じゃないね」

マナ 「普通にカワイイだけ!」

表紙
CHAI

ミラクル双子のマナ(写真左.Vo&Key)・カナ(Vo&G)に、ユウキ(写真右.B&Cho)とユナ(Dr&Cho)の男前な最強のリズム隊で編成された4人組、『NEO – ニュー・エキサイト・オンナバンド』、それがCHAI。誰もがやりたかった音楽を全く無自覚にやってしまった感満載という非常にタチの悪いバンドでいきなりSpotify UKチャートTOP50にランクイン、2017年SXSW出演と初の全米ツアーも大成功。2017年10月に1stアルバム「PINK」をリリース、オリコンインディーチャート4 位、iTunes Alternative ランキング2 位にランクイン。2018年2月に「PINK」US盤をアメリカの人気インディーレーベルBURGER Recordsよりリリースし3月にはアメリカ西海岸ツアーと2度目のSXSW 出演を大成功に収める。10月には、イギリス多国籍バンドSuperorganismとのワールドツアー(UK / Ireland)13公演のサポートアクトを務める。そして11月7日に1stシングル「GREAT JOB / ウィンタイム」をリリースし、全国ワンマンツアーを実施。

リリース情報
2nd Album 「PUNK」

発売日:2019年2月13日
品番:CHAI 009
税抜価格:¥2,400
発売元:OTEMOYAN record