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開拓する生活の選択肢

ブラックボックスにしない 自分たちでやるからわかるものさし

後藤「実際、自分たちでやってみていかがですか? リノベーションって流行っているでしょう? でも要は、もう“スクラップ&ビルド”はよくないんじゃないのっていうことだと思うんですよね。それは住居だけじゃなくて、憲法だってそうだと思う。『あの憲法を捨てて新しい案を』って、憲法の話ならすごく大変なことだってわかるのに、建物はどうして平気でやるんだろうな、とかね」

菜衣子「そうだ、THE FUTURE TIMESでもリクルートHOME’S総研所長の島原万丈さんに会いに行ったらおもしろいかも。住宅に関するリサーチをずっとやって『これからはもうこんなに家余ってるんだからリノベだろう』ってもう何年も前から言っている人です。その島原さんが、こんな素人で得意でもないのに毎回自分たちでリノベしている人たちはおもしろいって言ってうちを見に来てくれて(笑)」

池田「僕らは熊本にいる時にも取材してもらっていて、その島原さんとも話していたのが、いまリノベーションが流行っているけれど、羊毛などのように要らないものを持ってきてリノベーションするようなのがかっこいいし、本当はそういうほうがいいよねって」

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家の断熱材として使うための羊毛を大量に手に入れたふたり。洗って梳かす作業も芸術祭期間中にワークショップとして実施した

菜衣子「万丈さんが作成した(『STOCK&RENOVATION2014もっと、住むことの自由』(HOME’S総研刊))では、リノベーションは流行ってきたけど、新築頼むのと同じような感触で中古のマンションをリノベーションするっていうのが主流になってしまって。DIYとかリノベーションって業者に頼んでやるもんなのか、という疑問がある、と。私たちもこの報告書の制作には協力したのだけど、そういうのをもの申すためにつくっていて、なので、アメリカのニューヨーク・ブルックリンとかポートランドの、ガチで自分たちでリノベーションしてる人たちばかりを私はコーディネートしてきました。日本ではリノベーションも完全に産業にはめこまれようとしてるから。すごい大きな市場になるぞ!って工務店の人たちも気合い入れ始めてるし。でもそうじゃなく、もっと自分たちで作れる。『パッシブハウスジャパン』の森みわさんも素人でもできるという状況を作りたいから応援したい!と話してくれていて」

後藤「なるほどね。でもどうなっていくのが理想的なんだろう。誰しもがクリエイターみたいなことはできないからなぁ。ふたりが開拓したものが、どういうところでみんなのスタンダードな部分に根を張っていくのかっていうことに興味があるんですけれど」

菜衣子「札幌国際芸術祭の期間中、この家では壁紙をはがすワークショップをやっていて、アメリカ人とフランス人が『日本の壁紙、はがしにくいんだね』って言ってたんですよ」

後藤「へえー!」

菜衣子「で、『壁紙はがしたことありますか?』ってみんなに聞いていたら、やったことあるって答えたのはアメリカ人とフランス人だけだったんですよ。はがすことを前提としていない壁紙だし、壁の色を変えるとか、そんな発想はまったくなく無い。私が“家のリノベーション”とかに気付いたのは、高校の頃にアメリカにホームステイして白人の家に住んでいた時。『誕生日にワインレッドの壁がほしい』とホストシスターが言ってたのを聞いて、『は?」

って思ったんですけど、2週間後にはできてたんですよ!ホストファザーが石膏ボードを貼って、ペンキ塗ってとやっていて。『あ、壁って変えられるんだー…!』とそこでわかった。家ってもっと自由だし、何色にしたいかとかいつも考えてていいんだなというのをその時に知ったんです。なので、そういうことを知っているかどうかで、家を見るとか部屋を見るとか空間を見るという意識がすごく変わってしまうのかなあと思っていて』

後藤「日本だと、大家とか不動産屋の現状復帰圧がすごいからなぁ(笑)」

池田「釘一本打っちゃいけない、とか」

菜衣子「いやむしろ画鋲ですら(笑)」

後藤「どうして、そんなことまで気を使って大家さんの趣味に従わないといけないのか?みたいな。好きに暮らさせてよ(笑)」

菜衣子「むしろ大家さんの趣味があるならいいんだけど、こだわりのなさのなれのはてじゃないですか」

後藤「まあそうだよね。これが一番効率がいいというか、面倒だから一律で禁止されてるような。土地だけ貸して、デベロッパーがマンションを建てて、あとはよろしく、みたいなことなのかな。やっぱり、いろんなところを自分たちで手入れしていかないといけないってことなのかな。それこそDIY精神だよね。音楽の現場でも、こういうことって多いなぁ。人に任せちゃおうとすればいくらでもできちゃう。でも興味を失うことによって、本当にどうでもよくなっちゃうことって結構あるよね」

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池田「でもゴッチさんもアルバムを自分で録ったりとかも。やってみよう!という感じだったんですか?」

後藤「そう、ソロはなるべく自分で録りました。やってみようっていうか、『やりたい!!』って思ったんだよね。録音について詳しくなりたいし、そっちのほうが楽しいし」

池田「それはなんか実感としてわかります。僕もDIYとか、本当にやったことなかった。ペンキ塗ったことすらなかった」

菜衣子「5年前はペンキローラーの柄を折ってた男だから」

池田「最初は塗り方がわからない…(笑) でも自分のできることが増えていくって感覚がやっぱりいいなあと思って。漆喰とかも、最初は本当に塗れなくて、左官屋さんの見よう見まねで。『え、なんであんなスイスイ塗れるの』とか思ってたんですよ。でも塗り続けてたら段々と身体でわかってきて、いまでは本当になんの苦痛もなく、漆喰を塗れるようになり…」

菜衣子「嘘だあ〜」

池田「あ、そっか。ちょっと筋肉痛(笑)」

菜衣子「筋肉痛、だるいとか言ってるじゃん!」

(2015.6.4)

暮らしかた冒険家
hey, sapporo
ないものねだりから、あるものみっけの暮らしかた展 


札幌国際芸術祭2014のゲストディレクター坂本龍一氏に「君たちの暮らしはアートだ」と、アーティストとして招集され、期間限定のつもりが、すっかり札幌に住み着いてしまった暮らしかた冒険家。どんな未来を見据え、何を考え「暮らしかた」を「冒険」するのか。現在進行形の"暮らしのDIY"風景と暮らしかた冒険家の"アタマの中"で、会場中を埋め尽くします。


連続トークイベント

◉グラフィックデザイナー 長嶋りかこ
5/31 (日) 16:00 - 17:30
お題:札幌で[芸術祭し]て暮らす
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/91149

◉ 永田温子(やぎや)&安斎明子(たべるとくらしの研究所)
6/4 (木)19:00-20:30
お題:札幌で[だいたい自給し]て暮らす
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/92209

◉青木純(メゾン青樹)&小野裕之(greenz.jp)
6/10(水)19:00-20:30
お題:札幌で[無理なく]暮らす
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/91298/

◉Joel Domreis(Courier Coffee)&瀬高 早紀子
6/11(木)19:00-20:30
お題:札幌で[ポートランド目指し]て暮らす
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/92985

◉野原健史(のはら農研塾)&庄司開作(びっくりドンキー/えこりん村)
6/12(金)19:00-20:30
お題:『札幌で[真っ当なビジネスし]て暮らす』
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/92969/

◉美術家 深澤孝史& オオドオリ大学 猪熊梨恵
6/14(日)19:00-20:30
お題:札幌で[引越し]て暮らす
前売1000円(30席)→ http://peatix.com/event/92322

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■会期:5/31-6/14 12:00-20:00 ※6/1, 6/8は定休日のためお休み
■会場:D&DEPARTMENT HOKKAIDO
 〒060-0042 北海道札幌市中央区大通西17丁目1-7 011-303-3333
■主催:暮らしかた冒険家 伊藤菜衣子+池田秀紀
■お問い合せ: hey@meoto.co

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暮らしかた冒険家

暮らしかた冒険家

夫の池田秀紀、妻の伊藤菜衣子による主にウェブサイトを使った地域共同体づくりをなりわいにする夫婦会社。高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索中。『100万人のキャンドルナイト』、坂本龍一のソーシャルプロジェクトなどムーブメントのためのwhブサイトやメインビジュアル制作、ソーシャルメディアを使った広告展開などを手掛ける。2014年11月長男誕生。あらたな冒険がはじまっている。
オフィシャルサイト:http://meoto.co/