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あの日から、そしてこれから

東北出身の学生たちと震災の距離感

柴田「実際、この企画始まるまでは、僕は “意識高い” って揶揄してる側の人間だったんですよ。正直、やっぱり出身が仙台っていうのもあって、震災っていうのは自分が意識の高いことをやるための道具じゃないってずっと思ってて。でもまあ、そう言いながら自分は震災と関わることから逃げていて、それで今回逃げるの嫌だなと思ってやってみたっていうのもひとつあるんですけど」

阿部「たぶん仙台の中心部に住んでる学生の震災って、すごく微妙な位置関係にあるんですよ」

後藤「どういうことですか?」

阿部「足を運ぶ時間がちょっとあれば、すぐ沿岸のほうに行けるのに、それと隣りあわせでも気づかないふりをしてずっと生活をしているっていう…。街の中にいる分にはそれを感じないで過ごせるけど、でもちょっと行ったら被害を受けた地域があってっていう……。本当に微妙な距離感があるんじゃないかなって」

後藤「柴田君の今のような話を聞いていて、柴田君がそう思うのは仙台出身だからこそなんだろうなと感じました。 “意識が高いヤツら” に対する想いというか。そんなすぐに震災について語ってるけどどうなの、みたいな」

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柴田「それはすごくあります」

阿部「よそから来たヤツの話って言ってたよね」

後藤「それは、本当にそうだと思いますよ。だって、対象化するには早いってことですよね。地元のことだし、自分のことだから、 “どうやって話そう” っていう問いがあるんだと思います。 “そんなに単純じゃないよ” っていう気持ちが内側にいる人ほどあることも理解できます。阿部さんは岩手県出身でしたよね」

阿部「花巻です」

後藤「内陸だと、震災に対する想いもまた違いますよね」

阿部「全然違います」

後藤「震災のあと、内陸の人たちもかなり落ち込んでいるみたいな話をよく聞きました。海辺の人たちが “立ち直ろう” と頑張っているところを見て、気丈に振る舞っているところを見て、同じ県民なのに私たちは被害を受けていない、何ができるんだろうと落ち込むというような……」

阿部「立ち直ろうっていう空気があっても、それはやっぱりちょっとまだ……。ニュースを見ていると悲しい部分ばっかり撮ってる気がして。もうちょっと明るい部分を撮ろうとか、後々になって変わってきたけど、震災が起こって何カ月かは、みんな震災のこと話そうとしても明るい話題って出てこなくて、 “誰が亡くなってどうこう” みたいな。下に下に行ってるのが……」

後藤「すぐには出てこないですよね…」

阿部「そうなんですけど、距離が遠いのにずっと落ち込んでいるのも嫌だなと思ってました。私はすぐに岩手から仙台に出て来ているので、ちょっと違いますけど」

“しっかりしている”とはどういうことなのか

後藤「自分たちで話し合ってみて、どうですか。何か変わったなって思うことがありましたか? それは震災にかかわることじゃなくていいですよ、もちろん」

板井 「自分のこと客観視していたところはあったんですけれども、でもやっぱり話してみてまだ迷いはあるなと思って、一生懸命これからも肯定しては迷ってっていうのを繰り返していくのかなと思って。 “自分の生活がしっかりしてからボランティアに行きなさい” というような言葉を、勝手に、個人的に救いにしてて。自分がしっかりした生活とか自分の目標を達成してからそういうものに対して向かっていったほうがいいのかなって。これも自己肯定なんですけど」

後藤「でも、いわゆる “社会的にしっかりしていない” とされている人たちが被災地に支援物資を運んだりしていたけどね。例えば、パンクロッカーだとか。 “なんか怖い”って街中で思われているような人たちこそ、ものすごい勢いで動いたっていうことを考えると、僕は “その言葉は本当に的を射ているのかな” みたいな気持ちもあります。何をもって “しっかりとした” って捉えるかで全然答えが違うというか…。ビシっとリクルートスーツを着て、いい大学を出て、いい就職先を見つけて、いいサラリーもらってっていうのが “しっかりしてる” っていうことなのかなっていうことも含めて、果たしてそうかしらっていう問いがあってほしいなって思います」

板井 「すっごく刺さります、それは。でもやっぱり自分の人生っていうのとか、自分のキャリアっていうのを投げ打ってでもっていう考え方ができない人間で」

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後藤「いや、でも僕は板井君とかが考えたほうがいいなって思うのは、将来、 “お父さんあの震災のとき何してたの” とか、 “おじさんはどんなこと考えてたの” とか子供たちに聞かれた時に、ちゃんと話せるかどうかなんじゃないかな。別にそれはキャリアとは関係ないところだと思うし。誰かが “未来っていうのは子供のことだよ” って言っていて。漠然と “未来” って言葉を聞いたり使ったりすると、自分の将来のことだと思ってしまうかもしれないけど、実はそうじゃなくて、もっと先のことっていうか…。子や孫の世代から “ええ、何もしなかったの?” みたいなことを言われるの嫌じゃない?(笑)」

一同「(笑)」

後藤「自分の孫とかさ、 “おじいちゃん震災のとき何してたの” “あの原発事故のとき何してたの” みたいなことを聞かれたときに、何もしなかったんだよって言ったらさ、ダサっ!! て思われるでしょう。僕んちのお爺さんは大丈夫か?みたいな(笑)。そういうのは嫌だなって思うんです。 “お金のことだけ考えてたよ” だなんて言いたくないです。だから、大学生や僕より若い子たちに、何かひとつだけ伝えるならば、そういう長いスパンで物ごとを考えて下さいということ。僕が今から学者になるのは難しい。だけど、例えば、僕の新聞を読んだ誰かが “研究者になりたい” と思ってくれたら、言葉が悪いけれど “代理戦争” みたいなことをしてくれるのかなっていうか。托したいんです、若い人たちに。そういう気持ちすごくあります。だから、みんなの魅力だと思うところは若いっていうことで。僕は羨ましくなってしまって、嫉妬してます。若さのエキスを吸えるシステムがあるなら吸いますよ。そういうストローとか売ってないかな」

一同「(笑)」