中間共同体の再構築
──フェア・シェア・ケア
釈今、中間共同体11がどんどん痩せている。中間共同体が痩せると、本当に一気に生きにくい社会になるんです。必要だと感じている人は多いはず。だからプラットフォームづくりや居場所づくりをする若い人がいる。場をあちこちにたくさん作り、公平さを担保して、フェアで、分かち合い──シェアして、互いにケアし合う。「フェア・シェア・ケア」の中間共同体をたくさん作ったら、ここでしばらく滞在したいと思う人は増えてくるだろうと思うんです。
後藤確かに。いいですね、フェアとシェアとケア。
釈私自身もお寺の住職なので、お寺もそういう場所の一つとして参加したい。趣味のコミュニティでも、ボランティアのコミュニティでも、学びの場でも何でもいい。それをできるだけたくさん作る。
大場コミュニティを作ろうとするコミュニティに、僕は今まで「すごくいいな」って思ったことがないんです。コミュニティって、作るものじゃなくて、結果としてコミュニティになっているものが本当のコミュニティなんじゃないかと。でもそれって、実は意図的にやりながら自然にできたかのように装っているのではないか、とか。ちょっとごちゃごちゃしてすみません。

後藤ただ、フックっていうのは、引っかかりはするんだけど、結局みんな通過していってしまいますよね。お寺って、それよりは──ネットのイメージ、セーフティーネットに近いというか。誰もこぼさない。よろよろと寄りかかっても怪我をせずに転べる。お寺がコミュニティとして力強いなと思うのは、自分が死んだ後の魂の行き先はわからないけど、大場さんや釈先生が自分の骨に向かって何かを唱えてくれるのであれば、もしかしたら安寧な死後の世界があるのかもしれない。そういう精神的なネットがある。圧倒的に時間のスパンが長いんですよ。祈りは基本的にエターナルなもの。永遠に響く。回収される瞬間を求めていない祈りっていう、そういう時間の伸ばし方が宗教や信仰にはありますよね。
お寺の開き方
──適度に閉じる技術
釈コミュニティは自然と集うという面もあれば、世話役が必要な面もあります。寺子屋やグループホーム、NPOの場所づくりなど色々やってきて思ったのは、開くのは簡単だけど、いかに適度に閉じるかが大事だということ。フルオープンにしちゃうとバーッと荒れる。お寺はその点、若干のハードルがある。ご本尊があるので、そこで足を向けて寝転んだりするのは憚られるっていう、暗黙の結界がある。コミュニティの場にもそういうものが必要で、開いたり閉じたり、適度なハードルを設定するところにお世話役の腕の見せ所がある。
後藤適度に閉じている必要がある、と。
釈「じゃあ受け入れられない人が生まれるじゃないか」ということになりますが、だからいろんなコミュニティがいるんですよ。たくさんある方がいい。一つのコミュニティだけだと弱い。一人の人がいくつものコミュニティに所属する──複数のコミュニティに関わるのが大事なんです。
大場そう考えると、この藤枝宿のエリアって、ちっちゃないろんなコミュニティがあるイメージがありますよね。MUSIC inn Fujiedaのコミュニティ、穭(ひつじ)の劇場コミュニティ、大慶寺のコミュニティ……。
釈1〜2キロの間にずいぶんあるなあと思いました。何よりすごいのが、それぞれのコミュニティがいがみ合ってないんですよね。
大場本当にそれは大きいです。
釈そこに今回のアップルビネガーの登場じゃないですか。ほかのコミュニティとの歯車が噛み合うと、すごく魅力的なことになるんじゃないですか。
言葉を超える音楽
──コミュニティの橋を架けるもの
釈信仰というものは、信じてる人と信じてない人の境界は避けられない。大事なのは、この境界を越えてさまざまな橋を架けることなんです。多様なコミュニティのフックが生まれる時に、音楽的要素がそこにあるのは大きい。言葉なんか全然勝てないですよ、音楽に。
後藤確かに、言語って真っ先にバリアになりますもんね。外国の人とのコミュニケーションでは、まず話している言葉がわからないのが壁になる。でも、音楽はそういう言語の壁を超えることがあります。
釈ダイレクトに超えてくるところがありますよね。僕、住職をしてるお寺の裏の空き家を使って、認知症の方のおうちというのを20何年やってるんです。今7人の方が暮らしている。新しい人が入ってきた時、距離を詰めるのにスタッフみんな知恵を絞って、ミーティングを重ねて。近づいては失敗して、また離れて、少しずつ詰めたりする。それなのに、ボランティアの兄ちゃんがギターを持ってきて、ジャカジャカって適当に歌ったら、ピューッと距離が縮まっちゃう。「あんなに苦労したのに、なんやそれ」ってスタッフが怒ったりする(笑)。
後藤MUSIC inn Fujiedaは音楽だけに留まらず、ちょっと変わった場所になれたらなって。3階にはso good booksという本屋さんもできます。DIYで印刷できるプリンターを入れていて、この間は高校生の報道部の子たちが、自分たちで配る校内新聞を刷りたいと来てくれました。
釈以前から後藤さんには、今の日本の音楽事情、特にスタジオ代が高すぎて、若いアーティストやバンドが全然スタジオを借りられないという話を聞いていました。生の音で育つということがなくなるという危惧。そういう意味では、若い人も使えるスタジオを藤枝のご縁で作れたのは意義深いことですよね。

大場東海道の藤枝宿に、江戸時代にアーティスト・イン・レジデンスの前身となる営みがあった──その歴史を考えると、MUSIC inn Fujieda12は音楽版のアーティスト・イン・レジデンスの取り組みなわけで、「東海道でやってくれてありがとう」という気持ちがとても強かったですよ。
後藤東海道じゃなかったら「inn」ってつけなかったと思います。宿場町だから宿を作ればいいだろうと。宿場町に宿屋がないっていうのは寂しいですから。
場の力
──足の裏に積み重なった祈り
後藤場の力って結構ある気がしていて。ここは何百年も宿場町として人の往来を育んできた場所で、そのエネルギーが宿っている。この街が完全に更地になって崩壊する前に、みんなで息を吹き返すことができると、新しい機能として何かが生まれるんじゃないか。過去を模倣することって意外と大事なんじゃないかと。
釈宿場町というのは何百年も前から人々が休息する場所だったわけでしょう。ここで休養を取って、快適な場所を用意してもらって、地元の人のホスピタリティを受けて、また次の旅を始める。この地には多くの人による地域を讃える言葉が蓄積されているんですよ。土地を讃えるのは歌なんです。学校の校歌だって、だいたいその地域を讃える歌詞になっているでしょう。「ここで学ぶ、この土地をみんなで讃える」という、そういう態度。ここを歩くと、その一歩一歩の足の裏に、どれほどの祈りと、生と死と、安らぎが積み重なってきたんだろうと思うと、すごく愛おしくなるじゃないですか。
後藤歌は土地を讃える。
釈今日、隣の島田市を流れる大井川を案内していただいた時にご一緒した、たきいさんという女優さんが「ここが『生写朝顔話」13の舞台ですね」とお話しされていました。無理やり中を引き裂かれた女性が盲目になって門付芸人になり、島田の宿に泊まった時に二人とも同じ宿にいたのに気づかない──男は大井川を渡ってしまい、女性が追いかけようとするけれど川止めにあってしまう、という悲しい物語です。こういう芸能を知っていると、昨日まで見ていた大井川がちょっと違って見えるようになる。我々は物語によって世界を認識するんです。良い物語を紡いでいくこと、この地域の良い物語をきちんと語り継いでいくことが大切ですね。
質疑応答
Q1 世話役の腕が大事という話がありましたが、もう少し具体的に、世話役はこういうことをした方がいい、逆にこういうのはまずい、というのがあれば。
釈場の性格によって随分違いますが、摩擦が起こった時にパッと間に入るとか、いつもこまめに掃除してきれいに場を保つとか。場所が汚かったり荷物がいっぱい置いてあったりすると、なんとなく荒れるんですよ。すごいスキルがいるわけではなくて、調整役であるとか、お掃除役であるとか。場のルールを提案するのも一つ。ある方は、たとえスタッフであっても私物を置かないっていうルールを守っている、と。世話役は一人じゃなくて数人のチームの方が望ましいですね。
Q2 コミュニティをたくさん持った方がいいとおっしゃってましたけど、はっきり言って「そんな勇気ないよ」って思っている人がいるのが現状で。そういう人に向けた言葉をいただけますか。
釈勇気を出して質問してくださってありがとうございます。もし他所のコミュニティに入るのがすごくしんどい場合は、自分で作るという手もあります。苦手な人ばっかり3人集まれば、一つのコミュニティ。ネットコミュニティという手もあります。今すぐ参加できるコミュニティがなくても、「あっちこっちに参加したいな」という思いをずっと持っていたら、きっと自分に合った出会いがある。人生って何回かそういう波が来ますから、その波を見過ごすか乗るかという判断の時に、ちょっと機会があれば飛び込んでいただけると。
Q3 僕、20代なんですけど、友達は東京や名古屋に出て行ってしまう人が多い。若い僕らの世代ってエネルギーがあると思うんですが、それが良い方向にも悪い方向にもいく。世話役の人は、若いエネルギーをどういうふうに取り込んでいるんですか。
大場僕のまちづくりの原点は、まさにそこなんです。大学の同級生はすごい企業に勤めて「今一億動かしてる」みたいな話をする。こっちで中学の同級生に会うと「パチンコ行く」みたいな話しかしてない。「やっぱ東京がよかったのか」と悶々としていた。でも僕はお寺があるからここにいる。自分が住んでいるところを好きになれなければ、70代・80代になっても幸せに生きていけないだろうと。だったら自分が楽しいと思う街にしよう──それが原点で、誰かのためのまちづくりではなかった。藤枝ですごくよかったのは、当時20代の僕らの動きを「もっとやりなよ」と応援してくれるいい先輩たちがいたこと。上の世代がすごく後押ししてくれた。だから僕も次は、若い人が出てきたら応援する側になりたい。
釈若い人の新しい取り組みを、上の世代がすぐ批判しちゃうんですよね。せっかくのエネルギーに蓋をしてしまう。私自身、若い時にそういう防波堤になってくれる上の世代が全然いなかった。だから、いい歳になったら絶対その役をしようと思っていたんです。少々危なっかしい取り組みでも、いい取り組みだと思ったら、自分が盾になって理論的に防御して潰さないようにする。H-1グランプリ14でもそうでした。当初はずいぶん批判を受けましたが、大切な取り組みだから守り続けた。
Q4 「意図的にコミュニティを作るより自然発生の方がいい」というお話が引っかかっていて。自分はアジカン好きのコミュニティを作って、みんなで演奏しようぜと。80人ぐらい集まっているんですけど、自分がずっとファシリテーターで、属人的になりすぎて周りに下ろせないのが悩みです。
大場僕はその流れ、好きです。「コミュニティカフェを作ります」と言ってカフェを作って、それがコミュニティになることってほとんどないんですよ。むしろ「美味しいコーヒーを出します」ってやったカフェが、結果としてコミュニティになっていく。アジカンの曲を演奏したいっていう営みが、結果コミュニティになったっていうのは、僕の言っていることにすごく近い。
釈僕が関わっている京都のALS-D15というスペースは、ALS患者の方が天涯孤独で「ここで死にたい」という思いから始まった。友人たちが集まって京都の町家を改造し、半分を居住スペース、半分をオープンスペースにした。自分の意志で指一本動かせない人をコアにしてできた渦なんです。コミュニティの核には、何か渦のコアみたいなものがある。その近くでぐるぐる回っていると、ちょっと巻き込まれてみようかなという人が出てくる。
結びの言葉
大場僕が一番楽しんじゃった感があって、申し訳ないぐらいです。釈先生の話を大慶寺で聞けるなんて、お得な時間でした。多くの方に、藤枝宿に関わってもらいたいという思いはありますが、まずは小さな渦からでいい。住んでいない人たちも関われるような接点を作っていけたら、地元の人とたまに来る外の人が混ざり合っていけるんじゃないかな。そういう土壌づくりを、引き続き皆さんとやっていきたいです。
釈皆さんと一緒に良い場所で良い時間を過ごさせていただきました。この本堂の持つムードが強いんじゃないかと思います。皆さん穏やかな顔をしておられるので。実は、この本堂に最初に入った時にちょっとびっくりしまして。日蓮宗のお寺の祖師像は普通、座った姿──坐像なんですが、こちらは旅姿で左足を半歩前に踏み出している、すごく動的な造形になっている。これは比叡山から地元に帰る途中、ここに滞在したという由来からそうなっている。まさに宿場町のお寺の祖師像にふさわしいなと感銘を受けました。

後藤なんかこう、じっくりいろんな面白い場所が同時多発的にできて、それが飛び地的にありながらも、現代だからいろんなつながり方ができて、ネットになっていく。その線と線が重なり合ったところで、みんなが少し引っかかって、休めたり救われたりするような動きになっていけたらいいなと思います。音楽もあるけど、音楽だけに寄りかからないような活動にしていきたい。引き続き、関心を持っていただけると嬉しいです。
「根本的な問題は解決しない。でも非日常がないと日常は再生しない」──釈先生のこの言葉は、お寺の本堂で聞くとひときわ響いた。旅姿の祖師像が半歩を踏み出すように、宿場町・藤枝もまた、静かに一歩を踏み出そうとしている。 このトークイベントが行われた大慶寺の本堂から歩いて数分のところに、間もなくMUSIC inn Fujieda がオープンする。音楽スタジオと書店を併設した、現代版の宿場──東海道を行き来する人々が足を止め、創造の種を残し、また旅に出る。江戸時代の大塚家がそうであったように。

宗教学者。浄土真宗本願寺派如来寺住職(大阪府池田市)。相愛大学学長、武蔵野大学総長。NPO法人リライフ代表。著書に『いきなりはじめる浄土真宗』『落語に花咲く仏教』など多数。比較宗教思想を専門とし、宗教・芸能・地域社会の関係について幅広く論じている。

僧侶。静岡県藤枝市を拠点に、宗派の枠にとらわれない活動を展開。まちづくり会社の立ち上げにも関わり、アップルビネガー音楽支援機構の活動にも協力している。

ミュージシャン。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・ギター。音楽活動のかたわら、文筆活動や地域振興にも取り組む。アップルビネガー音楽支援機構理事。



