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映画『世界が食べられなくなる日』 | ジャン=ポール・ジョー監督 インタビュー

それでも、私たちには武器がある。

JPJ「GM種子は、原子力発電と同様、全くの不透明性の中で我々の地球にもたらされたテクノロジーです。自由貿易協定というものは、もちろんこうした論理の中に入っていますよ。TPPも農業を私物化しようという戦略に組み込まれているものでしょう。後の人類に残すべき遺産を盗まれているような感じです」

後藤「暗い気持ちになりますね……」

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JPJ「落ち込んではいけませんよ、あなたには武器があるのですから。とりわけ、あなたにはふたつあります。まずは、1人の日本人としてです。あなたのお金を、どうか地球のエコシステム(生態系)をリスペクトする人たちのために、本当に少額だったとしても払ってあげて、買ってあげてください。未来の世代をリスペクトする人たちのために、そのお金を使ってください。自然農法で、健康的で、ちゃんと環境に優しい作物を売っている人たちのために、お金を使ってください」

後藤「私たちがひとりの消費者として何かを買うということは、投票と同じ意味があるんですよね。より良いものに投票していく、その積み重ねがなければ、世界は変わらない。僕はいろんなところで、そう訴えかけています」

JPJ「そう。もうひとつは、今まさに仰ったようなアーティストとしての武器です。アーティストは公的な人ですから、コミュニケーション能力があるわけですよね。あなたには発言力がある。芸術を通してたくさんの、何千、何万人、あるいは何百万という人たちに伝えられます。これは武器です。この力をあなたから奪うことはできないから、非常に効果的な武器なんですよ。だから私にはこれができるんだという自信を持ってください。あなたは正しいことをしていますよ」

自由でいることは、高くつくものです。

――セラリーニ教授によるラットを用いた研究は、学会でどう評価されたのですか。

JPJ「権威ある科学誌(『Food and Chemical Toxicology』)にも実験の正当性を認められています。正直で誠実な科学者からは、いい反応をもらっています。モンサントと利害関係がない、中立的な科学者も『よくやった』と言ってくれましたね。利害関係がある、不誠実な科学者には、むろん不信感を持って受け止められています。彼らは実験の不十分なところを暴こうと、セラリーニ教授の実験に対する反論を企てました。『使用したラットは腫瘍ができやすいラットだ』といった具合に。そうした指摘に対して、教授が1つずつ再反論していく企画をその科学誌は組んだのです」

後藤「同じアメリカにそういったメディアがあることは羨ましいですね」

JPJ「そうですね。フランスにはありませんから」

――監督の映画には、母国で検閲が入るものなんでしょうか。

JPJ「検閲はされています。そのため、国営放送やTF1では私の映画が放映されることは一切ありませんね。TF1はブイグ(フランスの大手建設・メディアグループ)の傘下にありますから。ブイグはフランスだけでなく、世界中の原子炉を建設しているので、もちろん原発推進で、GMにも賛成の姿勢です。その一方で、フランスには有料テレビ局もあって、私はそのチャンネル『Canal+(カナルプラス)』をつくった最初の世代の人間です。そこが製作に出資してくれるんですね」

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後藤「日本の場合、こういう映画を作るのに資金が集まらないと思います」

JPJ「世界中で同じ問題があります。確かに、こうした映画は作りにくい。私がそれができるのはフリーランスだからです。私自身が妻とプロダクションを持っているからですね。カナルプラスだけは家族同様ですから、出資してくれるのです。しかし、自由って高いものですよね。とても高くつきますよ、自由で居続けることは」

後藤「私もこの新聞『THE FUTURE TIMES』が独立したメディアとして発行できているのは、インディペンデントだからです。ところが、私がテレビに出て曲を演奏するときには、『反原発を訴えるようなメッセージの服を着るのはNG』だとか『ギターアンプの上にチベット国旗を立てることも、テレビではやめてください』と言われてしまうことがあります」

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鶴澤清志郎

ジャン=ポール・ジョー

Jean-Paul Jaud。監督・プロデューサー。フランス生まれ。1979年より監督として多くのテレビ番組を制作。スポーツ番組の制作と中継を担当し、スポーツ映像に革命をもたらすほか、移りゆく四季の中で織り成される人々の暮らしを追ったドキュメンタリーを制作。2008年、生きるための必須行為“食”を取り巻く事象を振り返り、映画『未来の食卓』を製作。2011年、前作に続く映画『セヴァンの地球のなおし方』を発表。続く『世界が食べられなくなる日』は、渋谷アップリンク他、全国順次上映中。