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影山桐子

一緒に走る、ただそれだけで“仲間”になれる

後藤「走ることの魅力って、どういうところにあるんですか?」

影山「分かりやすいところで言うと、体の調子が劇的に良くなることですね。下り坂かなと思っていた体が、走り始めれば必ず上向きになります。ぜい肉は落ちますし、体力もドンドン上がっていきますよ。私も、少し前まで息を切らして上っていた階段が、ランを始めてから余裕で駆け上がれるようになりましたし。でも、一番魅力だと思うのは、やっぱり世界が広がることですね。走らなかったら、今の私はいませんでした」

後藤「走ることで世界が広がる……もう少し具体的に聞いてみたいですね。走るという行為には、他のスポーツにはない特別な要素があるってことですか?」

影山「走るのって誰でもできるじゃないですか。特に道具もいらないし、年齢も関係ない。それに、走っている人同士ってすぐに仲良くなるんですよね。私はこれまで、たくさんの走っていない人を“今度一緒に走りましょうよ、ホント楽しいから!”って誘ってきたんですけど、まずは半ば強引に駅伝にエントリーしてしまい、駅伝に参加してみると、走りたくないと言っていた人も、ランの魅力にはまってしまうんです。一番短いもので、一人分の距離が3kmの大会があるんですよ。3kmだったら、走ったことがなくてもなんとか走れる。そこに来なければ出会わない人がたくさんいて、一緒に走るとそれだけで仲良くなっちゃう。たすきをつなげば、初対面でも仲間になれるんです。私は走り出してから、初めて“仲間”と呼べる人ができたなって感じています。」

後藤「走るだけで仲間になれるって、面白いですね。シンプルだからいいんですかね?」

影山「そうですね。簡単だし、自分のペースで楽しめるからいいのかな、って思います。マラソンの選手などのレベルだと、きつい世界になってしまうけれど。私は元々、マラソンは大嫌いだったんです。早く走れないし、長くも走れないし、あんまり頑張ることができない(笑)。それでも、走るとやっぱり楽しくなるんです。寒い日や疲れてる日は、誰に強いられているわけでもないので、“走りに行かなくていいかな……”って思うこともよくあります。でも、行くと必ず“走ってよかった!”って気分になれるんですよね。単純に汗をかくのは気持ちがいいし、走っているだけで頭の中が整理されたり、ぶれていた思考にすっと軸が通ったりするのに気がつきます。自分と向き合う時間になるんですよね、きっと。日常生活では家事や仕事に追われてて、なかなかそういう時間は取れないので」

――一緒に走るだけで仲間になれちゃうのは、どうしてでしょうか?

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24時間リレーマラソン、感動のゴールシーン

影山「やっぱり、苦楽を共有するからだと思います。“大会”ってなると、みんな一生懸命走るんです。すっごい苦しい、でもやり切ると嬉しい。その後、“お疲れ!”ってみんなでビール飲んでうわーっと騒いで。苦楽を共にするというのを、2〜3時間でキュッと体験できるんですよね。短いランもいいんですけど、私のオススメは『24時間リレーマラソン』です。富士山のふもとで、リレー形式で朝10時から翌日の朝10時まで、24時間走り続けるんです。私たちはいつも1チーム12人で参加するのですが、1人が1.6kmのコースを何周してもいい。24時間、チームの誰かが走っていればいいんです。みんな“夏フェスのラン版だね”って言っています。音楽もずっと流れていて、途中で花火が上がったりする中で、ごろごろ寝たり、お昼を食べながら話したり。でも、その間に常に誰かが走ってる。大体、18時くらいに“まだ半分以上残ってるのか……”って絶望的な気分になって(笑)、最後のほうも本当に苦しいんですよね。でも、24時間終わったあとに、みんなでゴールすると、何ともいえない感動を味わえるんです。あれは、何にも代えがたいですね。そんな経験や気持ちを共有したら、誰でも自然と仲間になれちゃいますよ!」

後藤「インドア派の僕にはちょっと厳しいかもですけど(笑)」

――今は毎日どのくらい走っているんですか?

影山「最近は週4回くらいのペースで、6〜10kmくらい。家から近い公園で、よく走っています。ひとりで走るときもあるし、ラン仲間に“今から走るよ”って連絡を回して、ふらっと集まって走るときもあります」

後藤「そうやって、“走る”という行為をめがけて人が集まってくるのって不思議だなと思いますね。音楽の場合は合う合わないって感覚が明確にあって、好みが合わないと一緒に何かするとかって、なかなかできないですから」

現実で起きているドラマを共有したい

後藤「影山さんはTwitterをキッカケにして『RunGirl★Night』を始められてますよね。ソーシャルメディアを使って、どうやって人を巻き込んでいったんですか? 僕もTwitterからこの『The Future Times』を始めているので、そのあたりはとても気になります」

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2011年のランガール★ナイトの模様。
2012年も9月末に開催された

影山「最初に“大会をつくりたい!”って思ったときに、まずはこっそりつぶやいたんですね。来年の目標って一言書いて。そのときはTwitterを始めたばかりで、フォローもフォロワーも数十人ほどの規模だったので、ほとんどただの独り言みたいなものですよね。その後、ランガールを一緒に実現させようって言ってくれる仲間に出会ったときに、“一緒に夢を叫んでくれる人がいた”ってツイートをして。そこからは、もうずっと書き続けてきました。 “Twitterって武器になるな”って本能的に思ったんです、使えるツールだなと」

後藤「情報を拡散する力が強いですよね」

影山「私は編集者で“読む人を楽しませたい”って精神が根っこにあるので、思わせぶりにつぶやいたりすることもあります。“今から港区でエラい人に会うんだけど……ドキドキする!”ってツイートしたら、“パワー送ります!”ってリプライを返してくれる人がいたり」

後藤「いいですね(笑)」

影山「リアルタイムで進行している映画というか、現実に起きているドラマを発信し続けることで、みなさんに楽しんでもらおうって思ったんです。みなさんに楽しんでもらいながら、みんなと一緒に大会を作り上げている意識で。私たちが今やっていることって、実際なかなか体験できないことだと思うんですよね。だから、その過程をみんなと共有できたら、見ている人たちもワクワクしてくれるんじゃないかって」

後藤「お話を聞いているだけでも楽しくなってきますね」

――Twitterを見ていると、周りの人がどんどん渦みたいに巻き込まれていく感じが、とても伝わってきました。

影山「渦を生み出しているっていう実感はすごくあります。今は数百人でも、その先に何千人、何万人という人たちを渦に巻き込むことになるんじゃないかと思いますし。実際、『RunGirl★Night』をきっかけに、女性向けのマラソン大会も増えてきているんです。楽しい大会があると、女の子たちもそれをモチベーションに目指していけるので。ティファニーのペンダントがもらえることで話題になった『名古屋ウィメンズマラソン』は1万5千人もの女性ランナーを集めましたし。自分たちのしていることは小さなことだけれど、“こういうことをすると女子って嬉しいんだよ”というのを発信することで、日本中のマラソン大会の人にまねをしてほしいなと思っていて。そのうち、私が出る大会も、私たちがつくる大会のように、女性にとって快適で嬉しい大会になってくれたらなって思います。そう、『RunGirl★Night』は自分が作っているから、出場できないんですよね(笑)」

――確かにそうですね(笑)。大会を作っていく上で、大変だったことはありますか?

影山「大会ってかなりの金額を集めないと動かないんです。しかも、企業さんの事情は年によって大きく変わるので、前の年に協賛金を出していただいてご満足くださっていたとしても、そのまま次の年も協賛していただけるとは限らないんです。なかなか思うように目標の金額が集まらないと、不安になります。でも、そういう不安や焦りは、仲間たちには見せないようにしています。とりあえず“大丈夫、絶対なんとかするから!”って言い続けて元気に振る舞いつつも、実は裏では日々、一喜一憂していたりしますね」

後藤「そうなんですね」

影山「大きなお金は動かすものの、『RunGirl★Night』は、ボランティアで大会を作りたい!と集まった事務局スタッフによって企画運営されているんです。ただただ、走る楽しさをできるだけたくさんの人に知ってほしいし、走り続けるモチベーションを維持してほしいなって、その思いだけで運営を続けています」

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Ken Yokoyama

影山桐子(かげやま•きりこ)

女性向けWEBマガジン『ELLE ONLINE』に12年間ファッションエディターとして携わり、独立。ランニング好きが高じて、ファッション、ビューティ、メディア業界の女性ランナーによる企画集団『ランガール』を設立し、女子による女子のためのラン祭り『RunGirl★Night』を主催。今年の9月に第3回目を迎える。プライベートでは、100人以上を擁する駅伝部を主宰。その他、餃子部、ボルダリング部、山ごはん部なども企画している。