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箭内道彦

2択じゃなくて3択目を見つけ、新しい答えを出していくこと

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箭内「前に、福山雅治さんが、僕のことを『しじみ』って言ってくれたことがあって、“しじみって何ですか?”と訊いたら、“しじみは、海水と淡水の交わるところに生息できるんだよ”って(笑)。福山さんみたいなメジャーなところにいる人と、そことは対極にあるサンボマスターとか……、ま、サンボマスターもメジャーですけど(笑)、そこの間にいてくれることで、福山さんからすれば、自分がメジャーな世界からサブカルチャーやマイナーな世界を覗く入り口になるっていうふうに言ってくれて。
たとえば、僕、震災後すぐに、小林武史さんと対談したり、大友さんとも対談する機会があったんですが、それは、今日のゴッチともそうだけど、それぞれ、考えやスタンスが完全に一致しているわけじゃないですか。でもいろんな人のところに自分がどんどん出ていくことがすごく大事じゃないかなと思ったんですよね。そういうふうに行ったり来たりしながら、それぞれの世界を緩衝していくというか、繋いでいくということが今自分の一番やるべきことだなって思っているんです。広告についてもそうなんですよ。広告業界の人から見ると、“もう広告やめちゃったの?”って言われることも多いんですね。福島のことやったり、紅白にまで出てって。でも広告の一番外側になるべくいて、他のものの一番外側とうまく交わったり混じったりしていくことが必要だなと思っていて。
でもそのときに、自分があやふやに周辺部をうろうろしていくだけじゃなくて、さっきの別の意味の『真ん中』っていうか、自分にとっての真ん中を持ってないと、そうやって行った先の人たちが本当のことを話してくれなかったり、行った先の人たちが自分を呼んでくれなくなったりするので、自分という目印はちゃんとなくさないようにしなくちゃなと思ってるんですけどね」

後藤「活動する中で、ストレスはないですか?」

箭内「ストレス? ストレスはありますよ(笑)」

後藤「実は一番エッジーな部分は、何かと何かが交わっているところだと僕は思うんですよ。たとえば何かのジャンルの一番アウトサイダー側のエッジって、どこからも圧がないから、好きなことやってるだけだけど、それが交わるところって一番大変ですよね」

箭内「ストレスは多分ありますね。あと、人から見たら、そういうことってすごくインチキ臭く見えるし(笑)」

後藤「すごいなと思いますけどね。ふにゃふにゃしてるようで芯がある、ちゃんと」

箭内「いやいや、ふにゃふにゃしてますけどね(笑)。だからそれが、自分の立ち位置だったり想いを確かめながら前に進もうとしていたのが2011年で、2012年はやっぱり何かが始まっていかないといけないと思っているですよね。もっともっとそれが形に見えるようにしようと思っています。  全然違う話ですが、『風とロック』で、今度ジャイアンツとコラボをやるんですよ。でも俺、ジャイアンツ大嫌いなんですよ」

後藤「そうなんですか(笑)」

箭内「40年以上、阪神ファンなんで。で、それはジャイアンツがV9を果たした年に、こんなにひとつのチームが強かったらなんてつまらないんだろうって、小学生心に強く憤って、“これを倒すのは阪神しかいない!”ってあえて阪神ファンになったんですけど、ふとこの年になってみると、ジャイアンツが強いから、阪神もジャイアンツに勝つのが楽しいんだなって思って、ジャイアンツが弱かったら野球が元気にならない、野球が元気になったら日本も元気になるんじゃないかなと思って、自分の中でそこが腑に落ちて、“よし、ジャイアンツを応援しよう”っていう。去年までの自分が見たら、ぶち切れて怒りそうなことを、やってみようと思って(笑)。
だから、嫌いな人と会ったりとか、そういうことを自分が今求めているんだなと気づいて、すごく驚いているんですけどね。ジャイアンツはすごく驚きなんですよね、自分でも。でもおまえ阪神ファンって言ってたのに、なんだっていうのは、一部の人たちからは投稿サイトみたいなところでは言われると思うんですけど、でもそこにつきあってるのも疲れたというか、そういう場合じゃないなと思うんですよ。やっと気持ちが頑丈になれてきたというか、そんな今日この頃なんですよね」

後藤「自分でもそう思いますね。2択問題の中、3を選んでいくようなやり方をしていかないと進んでいかないような気がしてます」

箭内「そうなんですよね。広告の会議で以前誰かに言われたんですけど、たとえば、『黄色』という意見と『赤』という意見があって、日本人は黄色組と赤組が話し合うと、最後『オレンジ』になるんだと。ちょうど混ざった真ん中に。だけど本当はそこで、“黄色でも赤でもないから、じゃあ青にしよう”っていうふうに、2択じゃなくて3択目を見つけていくというか、そういうものこそクリエイティブなんじゃないないかと言われたことがあって、それをあらためて、今、すごく感じます。『真ん中』という単語が今、いろんな意味で使われていてわかりづらいですけど、中庸という意味での真ん中ではないというか、接着もしなくていいから、大きな意味で、尊重しあって、新しい答えを出していけたらなと思いますけどね」

後藤「黄色か赤かとどちらかだと思いはじめた時点で問題が出てくると思うんですよね。俺たちが話をしなくちゃいけないのは、やっぱり青、こっちの青をどう作るかですよね。だから本当に2極に分かれたがるのが不思議だし、人を否定するのが好きな人が多いですよね」

箭内「また否定するに適したツールも与えられたしね」

後藤「それ自体がその人を担保したりしないけど、だからネットとかの言葉を読んでいるとギスギスしてきますけどね」

箭内「でもそういうことを書いている人の顔、あんまり見たことないから、実在していないんじゃないかなと思うんですよね(笑)」

後藤「たくさんいるような気になっちゃっているというのもあるかもしれないですね」

箭内「ネットは悪だってしちゃうのも決めつけだから、ネットで人がもっと幸せになるみたいなことがこれから起きてくるべきだと思うし、起きてくると思うし。だから『THE FUTURE TIMES』の紙とネットとの並走だったり、二人三脚みたいなことには可能性を感じますけどね。今、いいことしか書けないネットみたいなものをやりたいなと思ってるんですよ。NHKの番組で『福島をずっと見ているTV』という番組をやっていて、そこで少しずつ実験をはじめようという話をしているんです。でも『ずっと見ている』っていうのも、福島の友人から“見てるって何だよ、俺たちは見せ物じゃねえ”みたいな手紙もらったりとかいろいろあるんですけど、でもやっぱりみんなイライラせざるを得なくて、ちょっとずつ冷静になりはじめた頃なんじゃないかな、という感じですかね」

福島の外側と内側の真ん中だからできること

後藤「最後に福島のこれからの話をさせてください」

箭内「僕は震災後、福島の中から何かこれからを作っていこうとする動きが生まれることが大事だと思っていたんですが、今、それはすごく感じますね。福島に若きリーダーがどれだけ登場するか、それは、福島の外に避難した人から出てくるリーダーも含めてなんですけど、6日間のフェスをやる中で、地元の青年会議所の若者や工場に勤めている課長さんだったりと話すと、すごくクリアで、すごく使命感を持って、前向きなんです。これから、その人たちが何をするかという部分が見えてくる時だと思いますね。もちろん福島の人たちは大変ですけど、でも、30代、40代の人だったらそれができるような気がする。人のことを心配できて、考えの違う人のことも認めることができて、だけど、みんなのリーダーとしてもやれる、っていう人が出てきはじめているのはすごく感じています。
僕は、出身者だけど福島にいない、という立場で言うと、福島のことはみんなが心配してくれて、“忘れないでほしい”という人たちが内側にいて、忘れないでいてくれている人がたくさん外側にいる。僕はその真ん中にいる人間ですから、その両方に行ったり来たりつなぎながら、もっともっと福島の人が中心になっていけるような、それで自分たちがどうしたいのかをハッキリ言えるような手伝いだったり支援をしたいなと強く思いますね」

後藤「そうですね。それぞれの“どうしたいか”も知りたいし、住みたいという人がいるんだったら、住むためにはどうしたらいいのかをみんなで考えればいいし、引っ越したいという人がいるんだったら、じゃあどこに引っ越したらいいのかとか、どういう方法があるかをみんなで考えればいい。一個の方法に集約していくのではなく」

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箭内「今、こうしてゴッチと話しながら、写真を撮ってもらっているけれど、すごく『2ショット』って大事だなと思っているんですよ。そこに何人いてもいいんですけど、2ショットって、考えが同じことの証明じゃなくて、尊敬しあっていることの証明というか、尊重しあっている目印になると思うんです。特に今年。黄色か赤かになった人たちだらけの中で、“俺たちは話をするよ”っていう目印というか、信号になっていくような気がする。ひとつになるわけではなくて、2ショットでいる、という。そういうことを今年はもっとやっていこうと思いますね」

(2012.5.30)
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箭内道彦

箭内道彦(やない・みちひこ)

1964年福島県生まれ。東京芸術大学卒業後、博報堂に入社。2003年『風とロック』を設立。10年、福島県出身である山口隆(サンボマスター)、松田晋二(THE BACK HORN)、渡辺俊美(TOKYO NO.1 SOUL SET)とともにバンド『猪苗代湖ズ』を結成。11年3月にチャリティソング『I love you & I need you ふくしま』を発表した。