THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

誰かと関わらずには生きていけない私たち

私が関われる誰かの人生には限りがある

永井「ときに澱んだりつまづいたり、立ち止まりながら、でもある種朗らかに歩んでいく。で、しかもそれが先ほどのゴッチさんの言葉で言えば、自分の歩幅で表現を重ねていく、と言ったときに、でもやっぱり同時に社会…いろんな社会がありますけど、たとえば過度に成長しすぎた資本主義経済であったりとか、何かしらの不公正であるとか、そういうものにぶつからざるを得なくなるんですよね。そういった不公正みたいなものを注意深く拒みながらも、でも、自分の歩幅で表現をするっていったところに悩んでいるアーティストって多分たくさんいて」

東郷 「うん」

永井「それは表現者だけじゃなくて、企業に勤めるひとたちもそうだと思うんですよね。いかにしてそれが可能なんだろうかと。もちろん答えなんかなくって、ひらかれた問いではあるんですけど。おふたりはどう考えているのか、聞きたいです」

後藤 「難しいね。うーん。今、話を聞きながら思ってたけど、いろんな場を分けていいんじゃないかなって思った。すべての場所で朗らかおじさんでいる必要はなくて。僕は自分のチームでは朗らかおじさんでいたいけど、ときどき兄貴分とかに抱きしめてもらうことが自分にとってある種のセルフケアになっていて。あとは自分のなかで、浮き沈みを人に見せていないだけで、孤独な瞬間にいろんな言葉や考えを揉んだりすることもあるし」

永井「うん」

後藤 「まあでも、大雑把にどういうやり方がいいのか、どうやって音楽とか活動で社会に接したりすればいいのかっていうのは何とも言えないよね。自分もやりながら悩んでいるっていうか。やっぱりTwitterをやらないほうがよかったなって思うこともあるし、今だったら、もうここに何を書いてもほぼ無駄だなみたいな」

東郷 「うんうん」

後藤 「そう考えると、いま自分に大切なのはちゃんと場を作ること。例えば、こういう場だったりとか、仕事場だったりとか、もっといろんなミュージシャンと関わることができる場所だったりだとか。分からないけど、私が関われる誰かの人生っていうのには限りがあって。いろんな関わり方があるけど、アジカンで曲を作って、リスナーのみんなが少しずつ前向きになるみたいなやり方もある。だけど、生身の後藤正文が、実際に会って、その人の人生にタッチしながら、働いたり活動できることって限られてるから、いまはその整理をちゃんとしなきゃなって思ってる。で、はっきりと言えないというかね。ここにひとつの(東郷清丸という)ロールモデルがいるというか」

永井「おおー!」

後藤 「でも、こうはできないよ」

永井東郷 「(笑)」

他人に左右されないようにすると
転んだりするのも楽しい

後藤 「年齢も違うし、まったく同じ人間じゃないから。清丸みたいなバイタリティは自分にはないと思うし。俺は、デザインの話で言えば友達に電話しちゃうからね。アイツのほうが得意だもんなみたいな、そういう考え方で」

永井「うんうん(笑)」

後藤 「でも、それも個性があっていいと思うし。自分でやりたい人、他人とやることが喜びな人、そういうのはいろいろあって良いと思うから。私は社会に対して何かしなきゃいけないと思うんだけどどうしたらいいかわからないっていうミュージシャンに対して、こうしたらいいんじゃないかなんて言えることはほとんどなくて。それって、それぞれ悩むしかないんじゃないかな。僕もそうやって失敗してここまで来てるし、清丸だって色々なことを考えて今の活動があるし」

東郷 「ほとんど失敗(笑)」

後藤 「あ、そう(笑)」

東郷 「これは悪い意味での失敗と言うよりは、自転車に乗れるまでようなイメージで。ずっと転び続けて、なんかバランスが取れるようになった、みたいなことがすべてのことに言えて。だから、僕はわりと転んでる姿を見せたり見せなかったりしてやってますけど、そう見せてないだけであれは失敗だったなみたいなこととかってあって。でも次はああいう転び方とかしたくないから、もっとこっちにバランスしてみるかなみたいなことをやってるんですけど。で、僕は他人といると過剰に気を使いそうになっちゃうんですけど、それだと集中できないんですよ。このひと、退屈かなぁ、みたいな。引っ張られちゃうんで、だから一回ひとりになってみたんですね、完全に」

後藤 「うん」

東郷 「音楽を作って、ライブしたり、制作したりで、お金をもらって、それを生活の糧にするみたいな、そういう活動をするときに、なるべく他人に左右されないようにするには、ひとりが良くて。そうするとなんか、すごい転んだりするのも楽しいというか」

永井「うん」

東郷 「だから、社会に対して何か、パフォーマンス的なことをまったく意識してない、って言うと結構カマトトっぽくなっちゃうんで、やっぱり自分が何かをする以上は、そして人の目にとまるところに置こうとする以上は、どうしてもパフォーマンス性もよく考えてるんですけど、なんかそればっかり考えさせられてないだろうかって気がするんですよね、見せ方については。セルフプロデュースのやり方とか」

永井「はいはいはい」

東郷 「地区センターのそばを通ったら、歌謡クラブのおばさまたちが民謡を歌ってた、それが漏れ聞こえてきて」

後藤 「最高だね」

東郷 「ンンンンン〜、みたいなのが漏れ聞こえてきて。はぁ、良い!これリリースされてないんだもんなぁって思って(笑)。この時間。みたいなことを、まずは生身のひとりの人間としての、良さ、を、まずは作り上げることに集中できたらいいなって思うんですけど、僕はそれに集中できなかった時間が本当に長くあったと自分では思ってる。で、その、集中することを難しくさせるのは何かなって考えたりします」

永井玲衣(ながいれい)

学校・企業・寺社・美術館・自治体などで哲学対話を幅広く行っている。D2021メンバー。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)。連載に「世界の適切な保存」(群像)「ねそべるてつがく」(OHTABOOKSTAND)「問いはかくれている」(青春と読書)「むずかしい対話」(東洋館出版)など。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

東郷清丸(とうごうきよまる)

 横浜生まれ。2017年に1st Album「2兆円」、2019年に2nd Album「Q曲」を発表。両作品ともに、若手ミュージシャンのための音楽賞"Apple Vineger Music Award" にノミネート、「Q曲」は審査員特別賞を受賞。

 DIYスタジオに演奏家を招聘し一日でミニアルバムを録音・発表した「トーゴーの日2020」や、コロナウイルス感染拡大の影響でイベント中止が相次いだ2021年の ゴールデンウィークに、毎日あたらしい歌を公開した「Golden Songs Week」など、音楽をつくる行為そのものを遊ぶ。

 開放的な音楽観を活かしてCMや映画・演劇への楽曲提供も多く手掛け、そのほか映像やラジオへの出演も行う。

オフィシャルサイト
togokiyomaru.com