THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

誰かと関わらずには生きていけない私たち

朗らかにやっていることが抵抗運動になる

東郷 「さっきゴッチさんが言ってくれたみたいに、ある種、批評性が出てくる。人によってはカウンターに見えてきたりするんですよね。サブスクサービスへのカウンターでやってるんじゃないかと」

永井「はい」

東郷 「僕はあんまりそういうつもりは…、ゼロじゃないですけれど、嫌な思いをしたりとかも普通にあったから。結果、カウンターになったなぁとか思う個人的な気持ちはあるけど、発想としてはさっきみたいな感じでカウンターをやりたいわけじゃないんです。一方で、カウンターしてるわけじゃないのに、他人から見てこれがカウンターに見えてしまうってことは、どういう社会なんだろうこれはっていう」

後藤「なるほどね。俺は朗らかにやってるだけなのに、むしろ逆らってるように見えるって、そう言われたら地獄だよね」

一同 「(笑)」

永井「でも、朗らかにやってるけれどそれが、実はちゃんと抵抗運動になっているっていうのは、すごく興味深いような感じもあるんです。東郷さんのなかでは、何かに反抗してみようとか、あまのじゃくとかそういうことではまったくなくて、試みてみようと思ったっていうのが近いですか?」

東郷 「そうですね。だから割とこの、サブスクを捨てられたんですね!みたいな、俺もですよ!みたいな感じで他人から来られたときは、線を引きまくるというか(笑)」

後藤「いやいやいやいや! って言って(笑)」

東郷 「この後はどうなるかわからないですけどね、とか、また使うかもしれないとか、便利だったスけどね、とか言って、常に僕のなかでは、やる・やらないのどちらにも引っ張られているというか…。うーん」

後藤「なるほどね」

永井「ゴッチさんとしてはどうですか。朗らかにやるっていうのは、ゴッチさんの口からもよく聞く言葉で。カウンターとしてやるっていうのは、時にパフォーマンス的なところもあるじゃないですか。とりあえずこういうご時世だからこの態度をとっておこう、みたいな仕方でやる人もいるかもしれない。でも、そうではないんだってことかもしれないと思うんですが」

後藤「怒っちゃいけないなんてことはなくて、全然怒ってもいいんだけど、ただ、仲間と仕事をしたりとか、こういう現場で自分が朗らかじゃないと、誰かがこわばっていくんですよね。多分、アジカンで言ったら僕はリーダーじゃないけど、どうしても真ん中に据えられちゃって、あの人が元気に曲書いているかなみたいなことがチームのムードになっちゃう。なるべく僕が朗らかで伸び伸び活動すると、メンバーもスタッフもみんな活き活きとしてくるみたいな。細胞とか臓器の一個と同じですよね、仲間うちではね」

東郷 「朗らか、朗らか(お腹の臓器をさすりながら)」

永井「(笑)」

後藤「なんかほら、どこか痛くなってくるとさ、つられて足までいたくなったりするじゃない?」

東郷 「ああ、かばって、どんどんどんどん」

後藤「それで整体に行ったらさ、実は腰が痛いと思ってたんですけれど、原因は首にありますみたいな」

東郷 「逆もよくありますもんね」

後藤「そう。謎の身体の仕組みが発覚したりするんだけど。どこかが強張っていくと、思いもよらないところに痛みが出たりするから。やっぱりそれは、難しいことだけど、なるべく私はエネルギーを人に与えるような力を持って、仕事に挑みたいと思っているよね。仕事というか、日々の生活。難しいんだけどね」

まわりの人が不安定なときに是正しないこと

東郷 「ちょっと横道に逸れますけど、ゴッチさんの朗らか性で言うと、カセット作りましたよね『後藤と東郷』。最初、その前の『酔杯』の対バンのときに雑談でそんな話をして。で、ゴッチさんがYeYe=ナツコさん伝いに連絡先を辿って僕に連絡をくれて。本当にやってくれるんだと思って嬉しかったんですけど、それなのに、連絡くれてから、3週間くらい寝かせちゃったんです、僕(笑)」

永井「(笑)寝かせちゃった」

東郷 「まあ、ちょっとその、お返事するコンディションじゃなくて」

後藤「清丸は寝かし癖があるよね、ときどきね(笑)」

東郷 「あはははは。そう(笑)。そのあとの、じゃあちょっとZOOMでざっくり喋ろうかってなったときの、ZOOM開いたときの、ゴッチさんの笑顔がなんかすごい柔らかくて、はあ良かったぁ、って。僕もなんですかね、自分に正直に、寝かせようと思って寝かしていたけどやっぱり罪悪感もあるし、怒ってるかもなぁ、話持ちかけて嫌だな、持ちかけなきゃ良かったなとか、思われてたら申し訳ないなぁと思いつつZOOM開いたら、ゴッチさんがニコって。ああ、曲作りまーす!みたいな(笑)、感じになったのは覚えてますね」

後藤「うん」

東郷 「僕が感じているのは、人は不安定でオッケーと思っているんですけど。だから、逆に僕もまわりの人が不安定なときに是正しようとしないというか、今不安定だよねって確認し合ったりはするんですど、それ良くないよ、正していこうよっていう言い方はもうあんまり、しなくて。だからこそ、その、結局バイオリズムなので、上がってくるときは上がってくる。そのときに朗らかな人がいたりすると、上り調子のときのガーっていう推進力が生まれるかないうのを思いましたね」

後藤「俺も炎上したときとかは、ちゃんと落ち込んでるからね。フジロックのときとか、裏で死にそうな顔してた。みんなに抱きしめてもらって、細美君とかに。もう一生ラブだなって思った」

永井「一生ラブだな(笑)」

後藤「みんな寄ってきて、頭叩いてくれたり、抱きしめたりしてくれて。僕もちゃんと浮き沈みはありますよ。ただ、それでもなるべく笑って朗らかでいたいなって気持ちがあるというか。なんでだろうな。こわばりたくないんだよね、やっぱりね」

東郷 「こわばり」

後藤「私たちの、コミュニティとか仲間内の、何かの流れを悪くするひとつのこわばりになりたくない。でも、必ずしも、何もかも朗らかに『いいよー』って言ってるヤツが良いヤツとは限らないんだけどね」

永井玲衣(ながいれい)

学校・企業・寺社・美術館・自治体などで哲学対話を幅広く行っている。D2021メンバー。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)。連載に「世界の適切な保存」(群像)「ねそべるてつがく」(OHTABOOKSTAND)「問いはかくれている」(青春と読書)「むずかしい対話」(東洋館出版)など。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

東郷清丸(とうごうきよまる)

 横浜生まれ。2017年に1st Album「2兆円」、2019年に2nd Album「Q曲」を発表。両作品ともに、若手ミュージシャンのための音楽賞"Apple Vineger Music Award" にノミネート、「Q曲」は審査員特別賞を受賞。

 DIYスタジオに演奏家を招聘し一日でミニアルバムを録音・発表した「トーゴーの日2020」や、コロナウイルス感染拡大の影響でイベント中止が相次いだ2021年の ゴールデンウィークに、毎日あたらしい歌を公開した「Golden Songs Week」など、音楽をつくる行為そのものを遊ぶ。

 開放的な音楽観を活かしてCMや映画・演劇への楽曲提供も多く手掛け、そのほか映像やラジオへの出演も行う。

オフィシャルサイト
togokiyomaru.com