THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

誰かと関わらずには生きていけない私たち

新代田FEVERで行われたD2021のイベント、「Dと後藤と東郷と」。 音楽と社会の関係性を出発点に、他者との関わり方についてを巡る対話の記録。

構成・文/後藤正文 撮影/山川哲矢

私たちは思考することすら、
社会から免れることはできない

永井「社会に根差しながら音楽をする、もしくは表現をするって、どういうことなんだろうっていうのを、おふたりに今日聴いてみたいなって思うんですね。というのも、私の分野である哲学だと、社会に根ざさなくてもできるというか、いわゆる概念操作をして、抽象的に物事を考えることが出来ると信じられている学問領域なのかなと思っていて」

後藤「はい」

永井「音楽もそういうイメージがあるのかなって思うんですよね。ただ、改めて考えてみると、私たちは思考することすら、社会から免れるってことはできないのであって、この社会に巻き込まれた仕方で私たちは考えるし、構造のなかで思考するってことがあるなかで、音楽も実は一緒なんじゃないかってところがあってですね」

後藤「うん」

永井「もちろん社会に根ざすっていうのは、政治的なことを歌詞に乗せろとかそういうことではなく、いろんな仕方での根差し方っていうのがあって。社会に根ざすこと、そこで音楽をすることについて、おふたりがそれぞれどういうことを考えてらっしゃるのかというのを、お聞きしたいなと思うんですね」

東郷「社会に根ざす話かちょっとわからないんですが、歌うにあたって、言葉を作って、メロディを作って、曲にしたりとか、創作をするにあたって、そもそもどういう人がそれをやったのかということが、僕はすごく興味があってですね。例えば『パプリカ』を歌ったのが小学生なのか、八十八のおじいちゃんが歌ったのかでは、同じ曲でも違いますけれど。どういう人が何をしているのかっていうのが常に僕は気になっていて。自分が作ったあとの、この存在している曲がどういう人が歌ったら良いのだろうということを、明晰に、はっきり言語化して考えたわけじゃないですけど、日々、思って、生活をやっているというか。だから、夜、もう眠たい、ここで歯磨きするのかしないのか、これで音がどう変わるんだろうかっていうのを、真面目に考えてるんですけれども」

後藤「うん」

東郷「今日のテーマ、社会に根差したみたいなお話を聞いたときに、割とそういう私的な、私はどうやるかというころがまずは頭に思い浮かんで。きっと、それが日本で言うと1億何千万人分あって、みたいなことがイメージとして頭にあるんですけれど」

「測量です。伊能忠敬です、私」

後藤「清丸に聞いてみたいのは、最近は活動のサイズを、ジャストサイズというか、自分の身体に収まる範囲に狭めて、その代わりその領域では一切手加減ないですよみたいな活動をしているように見えていて」

東郷「はい」

後藤「それって配信サービスとかで、雀の涙くらいのものしか入ってこないなかでは、大きなサービスにもたれかかればもたれかかるほど、数多ある表現のうちのひとつとしてしか扱ってもらえなくて。とりあえずお前なんかいなくても誰かが売れていればこのサービスは回りますよってことで、大きいレーベルとか大きなサービスや組織っていうのは、別に俺らが解散しようが大した問題じゃない。バンドは次がいるから大丈夫っていう在り方なんですよね。そこから離れて、清丸は人生や生活と音楽がほとんど同じ歩幅になっているように僕には見えてる」

東郷「そうですね」

後藤「このアティチュードが、社会と音楽を考えるうえで、活動形態自体がひとつの批評というかアンサーになってるんじゃないかなっていうように見えてる。っていうのはどうなんですか?」

東郷「もうまさにその通りって感じがするんですけど、いくつかあってですね、僕はいまマネージャーすらいない、かつていたんですけど。この間永井さんをFlussに呼んだ松浦さんは僕のマネージャーだった人なんですけれど。むちゃくちゃ優秀で、すごい助かった。で、ずっと一緒にやってくれたらそれはよかったんですけど、僕からすると、この人にはもっとやれる仕事がたくさんあるんですよ。その、ミュージシャンのマネージメント、付き人のように動いて僕のサポートをするよりも、この人のやれることはもっと幅広くて」

後藤「なるほど」

東郷「しかも本人の志向を考えても、この間、永井さんをお呼びした哲学対話のイベントをやってるくらいですから、面白い人なんですよ。だから、僕とずっと一緒にやらないほうがいいとも思ったし、それがひとつ。僕は僕で、ひとりでやったことないよなって思ったんですね。だからやってみようというのがすべてのスタートなんですけれど。システム、社会の経済活動いろいろ相まって、なんでもすごく便利にできますよね。なんで便利になったかって言うと、誰かが仕組みを作って、今までは手で全部やってたものをボタン一個でできるような流れを作ってくれた。水路を引いたような感じなのかもしれないけれど。で、それに乗って生活するのはもう割とできる(笑)」

後藤「うん」

東郷「それを、より高解像度に、よりハイレベルに、ぎゅーっと社会としては、より高く高く行こうとしてると思うんですけど、なんかそれに疲れちゃって、それに付き合うのが」

永井「うーん…」

東郷「それで、そのときひさびさに、手書きで日記をつけてみたり、イラストレーターやフォトショップていう画像処理ソフトを使わないでフリーペーパーを作ったり。つまり、学級新聞のシステムですね。あの青い罫線で自分で原稿作って、切り貼りして、フリーペーパーを作ってみたりしたんですけど、これがすごい楽しかったんですよね」

後藤「うん」

東郷「なんか自分のものを作ろうというときにデザイナーさんに頼もうということじゃなくて、自分の技術でできる範囲をまず知って、そうすると自分がどこまでやれば満足なのかもわかるんですよね。デザイナーさんに最初からお願いしちゃうと、想像の範疇を超えたハイレベルなものが出てきて、それは嬉しいんだけど、体感として実感がわかないところがすごい気になっていたので、まずはひとりのパワーで、どこまでできて、どこまではできないんだろうっていう線を、人生のあらゆるレイヤーで確認しようと思って」

後藤「測量してるんだね、自分のことをね」

東郷「測量です。伊能忠敬です、私」

永井玲衣(ながいれい)

学校・企業・寺社・美術館・自治体などで哲学対話を幅広く行っている。D2021メンバー。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)。連載に「世界の適切な保存」(群像)「ねそべるてつがく」(OHTABOOKSTAND)「問いはかくれている」(青春と読書)「むずかしい対話」(東洋館出版)など。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

東郷清丸(とうごうきよまる)

 横浜生まれ。2017年に1st Album「2兆円」、2019年に2nd Album「Q曲」を発表。両作品ともに、若手ミュージシャンのための音楽賞"Apple Vineger Music Award" にノミネート、「Q曲」は審査員特別賞を受賞。

 DIYスタジオに演奏家を招聘し一日でミニアルバムを録音・発表した「トーゴーの日2020」や、コロナウイルス感染拡大の影響でイベント中止が相次いだ2021年の ゴールデンウィークに、毎日あたらしい歌を公開した「Golden Songs Week」など、音楽をつくる行為そのものを遊ぶ。

 開放的な音楽観を活かしてCMや映画・演劇への楽曲提供も多く手掛け、そのほか映像やラジオへの出演も行う。

オフィシャルサイト
togokiyomaru.com