THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

これからの暮らしと、エネルギーの作りかた・使いかた 竹内昌義(たけうち・まさよし) x 後藤 正文

自分の気持ちのよいほうへ実際にやってみてわかること

後藤 「じゃあこれを読んでくれた人たちが、それぞれの暮らしの中で手を伸ばしやすい部分はどこだろう、と考えると、竹内さんが作られているような、エコハウスにはヒントが詰まっていると僕は思っています。みんなが家を持つときにエコハウスを建てていったら結構変わってくんじゃないかなって」

竹内 「ええ、変わりますね。建てるのでなく、既存の家のリフォームからでもできますし。本格的にやろうとすると確かに価格も高くなってしまうけれど、自分たちでセルフでやれるようなケースもいっぱいあるので。実際にやると〝あ、断熱ってこういうことなんだ〟という仕組みがなんとなくわかるし、ちょっと変えてみるだけでも居住環境の変化をかなり実感できるので」

後藤 「熱の調整のために使っているエネルギーをぐっと減らせるってことですよね。ちなみに〝エコハウスを建てる〟〝自分の手でリフォームをしてみる〟のもう少し手前で何か始めてみたいとなったとき、最初に始められることは何でしょうか?」

竹内 「エネルギーという点でできることはいっぱいありますよ。けど、まずは今、自分がどのくらいエネルギーを使っているのかを知ることから、でしょうかね。ちなみに、家の電気の契約アンペア数を下げてみると、普段の生活の中で、何がどのくらい電力を使っているのか、かなり実感できます。一般には50〜60アンペアで契約している家庭が多いですが、それを20アンペアにするだけで大きく節約できますが、一方エアコン・ドライヤー・アイロンという電熱系のものを3ついっぺんには使えなくなります。その環境の中でブレーカーが落ちないようにするには、それらをいっぺんに使うのをやめて、順番に使おう、ということになる。でも逆に言うとそれ〝だけ〟の話でもあって、その便利さを捉え直すだけで使う電力を減らしていける。それが結果、エコの話に繋がるんだと思います」

後藤 「僕もアンペア落とさなきゃだな。でもスタジオは落とせないな……。ミュージシャンは震災後、『あんたら、演奏するときに電気つかってるじゃねえか』って常に言われました。エレクトリックミュージックなんで、本当にすみませんっていう感じなんですけど。だからせめて、僕らは太陽光エネルギーでライブをやりたいって思ったんです」

竹内 「なるほど。でも土台、電気を使うなっていうのは無理な話ですから。コンピュータも、インターネットも。だからそういう部分ではなく、たとえば暖房だったら薪を燃やせばよいねというような方法はクリアに見えているので。今、なんでも電気でやろうとするから無理な感じになるんですよね」

後藤 「そういう意味で、環境に優しいことがかっこいいんだというふうになったらいいなあと思いますね。価値観の転換が必要なんだろうけど。見た目のかっこよさだけじゃなく、機能が高い、そこへの意識が高いっていうことがクールだってみんなが思えるような……。見た目が格好良くても〝そんなに電気代がかかるの?〟 〝そんなに環境負荷かかるのダサくない?〟と。それよりも、自然にあたたかいとか、気持ちいいっていうのが一番いいよねって」

竹内 「〝あったかさ〟って、目に見えないんですよね。ちなみに〝家の断熱をしたら電気代が減りますよ〟みたいな話法は、なかなか上手くいかなくて、それよりも〝あったかくて気持ちいいですよ〟のほうが断然、人は動きます。『これくらい得するから、こうやって動きなさい』というのは実はみんな嫌で、『あったかくていいところだよ』って言われたらみんなほしがる。それは、僕が断熱に関わってくるなかで、よくわかってきたことです。『じゃあどれくらい電気代が浮きますか。何年で元取れますか』って言っている人は、絶対に断熱もやらないんです(笑)」

後藤 「へえ! おもしろい(笑)」

竹内 「そう、これはすごくおもしろいですよ。『それをやると私は楽になる。贅沢。健康になる』とかだったらいけるんだけど『節約できる。地球のため』とかだと全然伝わらない。もちろんこれはプリウスに乗るという選択も同じで、〝エコであること〟より〝リッター何キロ走れる〟と言えることが大事だったりするんです」

後藤 「なるほど。こっちのほうが走りますよ、と」

竹内 「〝俺は持ってるんだよ、それを!〟と言えるほう、ですね。なので、僕らも最近は伝え方の作戦をちょっとずつ変えていたりしますよ」

後藤 「まあ、〝結果〟、冷暖房つける時間が減って電気代が下がるというだけのことですもんね」

竹内 「しかも、高いからやる人が減るかっていうと、たとえばiPhoneという事例を見てもわかるように、音楽も聴けて写真も撮れて電話もできてっていうこのスマホというマシンには何万円も出して、月々何万円も払って、使うじゃないですか。若い人のこれに対する投資額ってすごいですよね。全然安くない。でもみんな持つじゃないですか? そういうもんなんだな、と思って。そういう家をつくりたいです」

後藤 「確かに。寒い地域とかに住んでいたら〝断熱するとこんなにあったかくて気持ちいいですよ〟はものすごいコマーシャルですね」

竹内 「寒冷地で、冬でも朝起きたときに半袖で平気っていうのは、まあ自慢以外の何物でもないというか(笑)」

後藤 「厚い布団にくるまる必要も無いんですね」

竹内 「家の中に冬のものが不要になるから、部屋の使える面積が広がりますよと、言っている方もいます。実際、かなりのスペースが有効に使えるようになります」

後藤 「そういうのって、すごくいいですね」

竹内 「あとは、人って一カ所からだけの情報で動いたりしない。でもそれが、こっちでもあっちでも、三カ所くらいで言われていると〝どうやらそうらしい〟という気分になる。だから、こういうことを伝えていくチャンネルが増えていくといいなあと思います」

後藤 「THE FUTURE TIMESで紹介する意味ってなんだろうって常に考えちゃいますけど、みんながこれで明るい気持ちになってくれたり、そういう暮らしができたらいいなって少しでも思ってもらえたら嬉しいです」

竹内 「僕は今回のバイオガス発電所に行っただけでも、すごく明るい気持ちになりましたよ。しかも、こういう技術ってどんどん進化しているので、総合的にこういったことがわかるコンサルタントみたいな人が育って〝次に来るのはこれですよ〟と、自治体などに紹介できるだけで、全然変わると思います」

後藤 「行政へこういうことを勧めていける存在が、必要なんでしょうね」

竹内 「そうですね。で、そうやってゴミを減らして、ゴミが生き返って、エネルギーになって……みたいな新しい仕組みだって意外と家庭ゴミでもやったらできるんじゃないですかねえ?と提言する存在は不可欠。そして、産業廃棄物でやっていることを、普通の家庭ごみでもやります、と行政側がしっかりルールも作り、実行していく。最初はみんな〝面倒くさいなあ、分別……!〟って言いながらも細かくやり始めているところって、既に国内でもいくつもありますしね」

後藤 「そう思います、僕も。まだ使えるものやエネルギーもいっぱいあると思っているし、基本的にはまず、捨てるものを減らすのが一番いいと思う。今回、バイオガス発電所についても実際の様子を見せてもらったことで、自分が普段何気なく食べてるものにも、不良品や廃棄物がいっぱいあったことが、衝撃で。こういう施設がなかったら、食べ物のゴミとかどうしてんのかしら、って思っちゃいましたからね。そういう気づきしかなかったし、まずはその気づきから始めていくしかないですね」

竹内昌義・後藤正文
表紙
竹内昌義(たけうち まさよし)

1962年神奈川県生まれ。建築家、東北芸術工科大学教授。95年から建築設計事務所『みかんぐみ』を共同主宰。主な代表作に『SHIBUYA AX』『愛・地球博トヨタグループ館』『伊那東小学校』『マルヤガーデンズ』『山形エコハウス』など。建築の視点から社会のあり方を見直し、仕組みを変え、新しい暮らし方を提案する。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』『未来の住宅』『原発と建築家』『図解 エコハウス』など、著書・共著書多数。

あたらしい家づくりの教科書(新建新聞社刊・2016年)

家づくりをするときに最初に知っておきたい基礎知識、そして高性能なエコハウスのつくり方を、竹内さんをはじめ、家づくりの最前線で活躍する前真之氏、岩前篤氏、松尾和也氏、今泉太爾氏、森みわ氏、伊礼智氏、水上修一氏、三浦祐成氏という9人のエキスパートが紐解いた一冊。

これからのリノベーション 断熱・気密編(新建新聞社刊・2018年)

暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子氏、そして高断熱住宅を多く手掛ける建築家の松尾和也氏との共著。これからの時代、リノベーションの際の大きなキーとなる断熱・熱理論について、実用的な観点から学ぶことができる。