HOME < ライブ演出家が産んだ太陽光発電『ECO LIVE SYSTEM』─今、太陽光でライブをやることの意味

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今、太陽光でやることに価値を見いだせるか

後藤「『ECO LIVE SYSTEM』は昨年10月、アメリカの“LDI(Lighting Dimensions International)2011”で『Best New Product賞』を受賞されていますよね。これは、どういった賞だったんですか?」

「1年ごとにオーランドとラスベガスで開催される、アメリカ最大のコンベンションがあるんです。ライブイベント、クラブ、テーマパークなど、エンターテインメント空間を演出するための製品、技術、ソフトを展示するんです。600社くらいのアメリカやヨーロッパの企業が出展するんですが、日本の業者の出展は2、3社です。『ここに出品してみよう』という市川の発想で参戦することになりました。アメリカのエコ意識って、日本とはまた違うので、どういう評価をされるかわからなかったのですが、でも、『震災、原発事故があった日本の僕たちは、こういうことを考えました』というアピールを込めて出展しようと。そうしたら、思いもがけずアワードを取ってしまった。市川の言葉ですが、『世界から頑張れと背中を押された感じ』で、モチベーションがさらに上がりました」

後藤「今、『ECO LIVE SYSTEM』を使っているのは、僕らの現場の他にもありますか?」

「テストは色々な所でやっているんですけどね。フェス的なものは、今回が初めてです」

後藤「コンサートの売り上げとか、開催の規模が保たれるのであれば、少しコストが上がっても太陽光にしたいっていうミュージシャンが、これから増えていくと思います」

「そうなってほしいですね。ただ現状では、興味は持ってもらえても、話をすると『なんだ、電源車より高いんだ。これじゃ無理だね』っていう人も正直います。そういう意識なんだなって、残念なんですけどね。結局、ちょっと高いけれど、今、太陽光でやることに価値を見いだせるか、あるいは意識を持てるかということだと思うんです。将来的には太陽光を使ったりすることが、普通になってほしいんですけどね。なかなか、うまく行かない部分があるのも現実です。たとえば、野外のロックフェスなど、それこそステージの横にソーラーパネルを100枚くらい並べれば、それはひとつのメッセージにもなると思うんです」

後藤「そうですね。でもやっぱり震災以降、原発事故以降、どうしても自分たちの使っている電気がどこからやって来るかって考えざるをえないと思うんですね。コンサート業界、音楽業界自体が“実経済”みたいなものの上に乗っかってるという側面もあります。エンターテインメントですから、何かが起きた時、はじめに電気を使うのを止めなきゃいけないっていうのは、当然納得できるんです。本当に命を守るための電気を奪ってまで音楽をしたいとは思わないので。だけどこうやって音楽をしていくうえで、何の対策もなしに、ただバカデカいコンサートをやっていくのは、ちょっとどうなんだろうって意識がずっとあって。こうやって新しいシステムが出てくるのは嬉しいですし、多少高くても、発注したいよねって気持ちがあるんですけどね。発注する人が増えれば、それだけコストは下がっていくはずですし」

「本当に将来的には、電源車と同じ値段、あるいはそれ以下になることがベストというか、そうならなきゃいけないと思うんですよね。今、当たり前のように使われている会場の電力とか、電源車の電力などと同じようなスタンスで、太陽光エネルギーなどの電源も使えるようになるべきです。変な話ですけど、我々は電源業者ではありません。ただ、コンサート業界の人間が、こういったシステムを作ることで、業界全体の意識が少しでも変わっていけばと思うんです。もしも電源屋さんが、『電源の素人にやらせとくわけにいかないよ。俺たちプロなんだから、もうちょっと考えようよ』みたいなところまで動いてくれれば、業界としても、全体としても良い方向に向かうと思うんで。だから、今回のNANO-MUGEN FES.2012で、こういう太陽光システムを使うということが、各スタッフに伝わることによって、各セクションのスタッフ、PAや照明さん、電源さん、映像さん…色々な人が意識してくれればなって思います。『そういえばNANO-MUGENは太陽光使ってたね』って、他の現場で少しずつでも話題になれば、どんどんどんどん業界にとって普通のことになると思うんで」

ASIAN KUNG-FU GENERATIONライブ写真

後藤「こうやって『ECO LIVE SYSTEM』のような、一歩進んだ取り組みが出てくることは、ミュージシャンとして心強いですけどね。ライブに来るお客さんの中にも、『こんな派手な照明でいいの?』ってモヤモヤしてる人もいると思うんです。でも『これ、太陽光なんです』って言ったら、良かったって思う人もいるだろうし」

「今回のNANO-MUGEN FES.2012みたいに、『これだけ派手な演出なのに、これが太陽光?』って、お客さんも反応してくれると思うんですよね。これが、凄い地味で素朴なセットで、太陽光だって言われても、もうひとつ盛り上がらない」

後藤「エンターテインメント性を落とさずにやれているのはいいな、と思いますね。もちろん、照明の設備自体がどんどん電力を使わないものになってきているんですけど、なおかつ、ある種の派手さというか、エンターテインメントの部分を削ぎ落とさずにできているのがいいなと思います。本当に」

何より、お客さんたちがモヤモヤしなくて済むなら、すごくいいなと思うんです

後藤「今回、『ECO LIVE SYSTEM』を記事にしたかった理由のひとつは、こういう現場の想いを届けられたらなって思ったからなんです。僕らはMCで、思っていることをもちろん言いますけど、たとえば、今回の設備についての説明をライブ会場でしたとしても、MCを人づてで聞いた人は『こんなこと言ってたらしいけど、どうなの?』ってなりますよね。だから、しっかりと記事に書き表して、現場がどんな想いを抱いているかっていうことが、少しでも伝わればと思って」

「そうですね」

後藤「最後に、今後のビジョンをお聞きしていいですか?」

「大きな会社がやっているメガソーラーなどとジョイントするイベントなども増えてくると思いますが、我々がこだわっているのは“コンサートの現場の人間がやっている”ということなんです。コンサート業界全体の意識を、もう少し底辺を上げていきたいなって。一回のフェスのことだけ考えたら、どこかからスポンサーを見つけてきて『太陽光でやっていることをアピールするから』って交渉すれば、実現するかもしれない。ただそれだと、そのときは太陽光を使ってはいても、あんまり業界的な解決にはならないというか」

後藤「確かにそうですね。業界全体の意識が上がっていくのが大事ですよね。そうじゃないと結局また、太陽光と従来の電源車を比べて、単純に安いほうがいいだろってことになってしまう。それでは前に進めないですからね。もちろん、ビジネスの面もあるので、いろんな考えの人はいるでしょうけど。でも、なるべくこういうものをみんなが選んでいけば、コストもドンドン下がっていくと思うし、広まってほしいなと思います。何より、ライブをやっている側の人間として、観客たちがモヤモヤしなくて済むなら、すごくいいなと思うんです。だから、前回のツアーで『ECO LIVE SYSTEM』を実験的に使わせてもらった時も、すごく誇らしいなと思って。今回も、使用について話をいただいた時、本当に嬉しく思いました。今後も、できる限り使いたいと思っていますので、よろしくお願いします。今日は、お忙しい中、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」

(2012.8.1)
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柳真一郎(やなぎ・しんいちろう)

『トゥエンティワンクリエイト株式会社』代表取締役。『ネクストワンクリエイト有限会社』所属。2006年からASIAN KUNG-FU GENERATION 及び、『NANO-MUGEN FES.』の舞台演出に携わる。他にVAMPS、EXILE、三代目J Soul Brothers、CHEMISTRY、MINMIなど様々なアーティストの舞台製作に携わる。