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福島の農家が語る、被災地の今

『The Future Times』の第3号の特集は『農業のゆくえ』。滋賀県の面積に匹敵する耕作放棄地を抱える日本。エコでもロハスでもなく、農業というレンズで現在の社会をのぞき見ようというのが、今回の特集のテーマです。
—— 福島の農業の現在……それは、一言で一様に形容できるものではありません。場所によって被害の大きさも、抱えている問題も異なります。そして各々が、それぞれの思いを胸に暮らしています。そこにいるのは“フクシマの農家”ではなく、“福島で農業を営む一農業人たち”です。被災地に生きる農家の率直な声を集めるべく、福島県二本松市におもむいて現地農家の大槻さん・関さん・仲里さん・真部さん(仮名)・柳瀬さんにお話を伺いました。

取材/文:西山武志 撮影:栗原大輔

農家という選択 農業という営み

― 皆さんは、元々福島ご出身ですか?

大槻 「私と真部さんはそうです。柳瀬さんは埼玉、関さんは東京、仲里さんは沖縄から、ここに越してきた新規就農者なんですよ」

― 新規就農というのは、どのように始められるんですか?

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仲里 「場所によって違うと思いますけど、大体のところでは現地農家で半年ほど研修を受けて、それぞれ独立していくって流れです。ここでは研修期間中に、住居や土地の手配まで面倒を見てくれました」

「就農の受け入れは結構前からやっていて、最初は団塊の世代の人がいっぱい入ってきたそうなんですね。なので、就農歴が長い人だと始めて10年目になる先輩もいます。最近になって、20代後半から30代前半の世代の就農者が目立つようになったみたいです。二本松では数年前に就農を支援するNPO団体(『ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会』)もできて、組織的な受け入れが進んでいるんですよ」

柳瀬 「関東や関西では『新・農業人フェア』っていう、全国から就農受け入れのブースが集まる大規模なイベントが定期的に行われているので、就農に興味があったらまずは足を運んでみるといいと思います」

― 新規就農という大きな転機のスタート地点に福島の二本松を選んだのには、なにか理由があったのでしょうか?

柳瀬 「二本松で……というのは、特になかったです」

真部 「あれ、どこでも良かったの?(笑)」

「そこはもうちょっとカッコよく言おうよ、嫁さんに対してだって“誰でも良かった”なんて言わないでしょうに(笑)」

柳瀬 「すみません(笑) でも、場所に対しての思い入れとかは、正直まったくなくて。その中でここにした大きな理由は、やっぱり良い人に出会えたから。農業を始めようと決めて、東京で開催された“農業人フェア”に参加したとき、二本松の方に “一度、実際に見に来たらいいよ” と声をかけてもらったんですよ。そこからは現地の皆さんのサポートもあって、あっという間に環境が整っていって。もっと、土地選びとか住居探しとか、農協の人たちとの信頼関係を作るのとかも、すっごく時間がかかるものだと思ってたんですけど、全然そんなことはなくて。ご縁に恵まれたなと感じてます」

大槻 「おそらく、他の就農の方も同じだと思います。決定的な差っていうのは特になくて、人との出会いに導かれて、この地を選んでくれたのかなと」

― なぜ農業を始めようと?

仲里 「僕はずっとフリーターだったんですけど、あるときに大きく体調を壊したのをきっかけに、もっと自然な暮らしをしようと思って。それで、農業をしたいなと思うようになりました」

大槻 「うちは、代々実家が農家をやってまして。私自身、最初は都会に出てサラリーマンをしてたんですが、実家での爺ちゃんの農作業姿を見ていたら、継いでみようかなと自然に思うようになったんですよね。それで7年前に、こっちに戻ってきたんです」

― みなさんの作っている作物を、それぞれ教えてください。

大槻 「ハウスのキュウリと露地キュウリ、それと花のキク栽培をやってます」

仲里 「僕は露地で、キュウリとナスを」

真部 「私もキュウリと、それから米ですね」

柳瀬 「自分はハウスでトマトとミニトマトを」

「うちは露地でキュウリとミニトマトを。その他にも米や麦やら色々やってますけど、商品として出すのは主にはそのふたつですね。あとは密かに、天然の山ホップを使ってのビール作りを研究中です」

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― この辺り、キュウリ農家は多いんでしょうか?

真部 「ここだけに限らず、福島は全体的にキュウリの産地になってますよ。旬は7月の後半くらいから、お盆くらいまでです」

柳瀬 「うち、去年までハウスでトマトと一緒にキュウリやってたんだけど、キュウリの花にはハチがいっぱい寄ってくるのに、トマトには全然寄り付かないのね。よっぽどトマトの花粉が美味しくないんだろうなぁと、ちょっとかわいそうになった(笑)」

「なんでだろうなぁ、果実はあんなに美味いのにね。あの青臭い感じが虫は好かないんだろうな。もしかしたら、ハウスで旬をずらしてるのが虫にバレてるのかもね」

柳瀬 「それはあるかも。みなさん、トマトの旬は夏ってイメージあると思うんですけど、実際は春か秋なんですよ。トマトの花粉って暑さに弱いので。需要が高いから、ハウス栽培で夏に出荷時期を合わせて作ってるところが多いんです。露地栽培でやるとしたら、この辺りだと秋ごろ収穫になるかな」

「露地はホントにお天気勝負だよね。ハウスの方が色々と安定するけど、やっぱりお金がかかるんだよなぁ」

― 設備費などが高いということですか?

「そうなんです、骨組みに必要な材料などを業者が値上げしてくるんですよ。“最近、中国が鉄を買い漁ってるから、資材が高騰してるんだ”とかって理由で。そのちょっと前までは“円高の影響で”って言ってたけどね(笑)。 あと、維持するのに少し手間がかかることがあるのも、ちょっと面倒だったりします」

大槻 「このあたりだと台風の心配はないけど、大雪警報とかが出たときには、一度ビニールを全部はいだりすることもあるんです」

柳瀬 「積もられてハウスごと、ぐちゃっと潰れるのは怖いからね。会津みたいに雪が多いってはっきり分かってれば、潔くはいじゃうんですけどね。ここでは、はがすほど降り積もることの方がまれだから。たった1日のためにはがして、また張り付けてってするのは、かなりしんどいですよ」