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服部みれい

東日本大震災から1年以上の月日が過ぎました。被災地と一言でまとめてしまうことのできない、様々な “現在地” 。
私たちの日々の生活も、例外ではありません。『THE FUTURE TIMES』第2号では、未来に向かって、
それぞれの “現在地” を考えるための言葉を集めました。――幅広い年齢層の女性から高い支持を得る『murmur magazine』の編集長である服部みれいさん。3.11以降に大幅にリニューアルしている自誌の誌面作りの話、そしてこれからの時代の『調和』について、編集長・後藤正文と語り合いました。

取材/文:小野美由紀 撮影:DOZAKI 

もう一度、『調和』の時代へ

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—服部さんが編集長を務める『murmur magazine』(以下『マーマー』)、その創刊の経緯を教えて下さい。

服部「『マーマー』を創刊するまでは、フリーの編集者やライターをしていたのですが、この本を創刊するときは、なんかもう、とりつかれたように“早くしなきゃ”と思って。きっかけのひとつはあるお医者さんの“子育ては、子供を生む20年前から始まっている”という言葉。子育ての役を担うのは女の人が多いので、これからお母さんになる人達が、自立したり、地に足をつけて物事を見るようになれば、次の世代である子供もよく育つんじゃないかって。そして、ある一定数の女の人の意識が目覚めれば、世界中が目覚めるんじゃないかなと思って、まず、女の人向けに『マーマー』を作ることにしました」

—震災から1年経って、『マーマー』にも服部さんにも、変化はありましたか?

服部「震災からもう一年なんですよね……(※取材が行われたのは2012年2月末)、すごく前の事のように感じます。高校生ぐらいの時に、本当かどうかはわかりませんが、日本中のすべての自動販売機をなくしたら原発はいらなくなる、という話を聞いたことがあったので、“原発は、まあ、ないほうがいいよなぁ”くらいに思っていて。また『マーマー』を作る中で、原発の問題を知らなかったわけではなかったのですが、どこか他人事だった。あの事故が起きて、初めて本気で目覚めて、本当に本当にそういう自分を恥ずかしいと思ったし、これまで東京で電気を使う便利な生活を散々しておいて、他の人はともかく自分は放射性物質で被害にあっても仕方のないことだと思いました。ただ、今は、震災と事故の事を考えれば考えるほど、本当に難しくて、どう捉えていいのかわからなくなっちゃって」

後藤「僕も歌詞を書くのが難しくなりました」

服部「でも、わからないなりに、とりあえず身近な中で探っていくしかないかなと思っています。東京自体が何事もなかったかのように動いているのを見て、時々つらくなったりもしますけど、でもそれも自分の一部だから、自分のやれることを、とにかくやるしかない、って」

—震災以降の『マーマー』は、服部さんの身近なところ、例えば14号(2011年12月発売)では“半径1m以内のできごとから雑誌を創る”というコンセプトでやっていましたよね。

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服部「そうです。それなのに次の号(15号)の特集はいきなり“日本”なんですけどね(笑)。日本の縄文時代って、すごかったんですよ! 1万年もの間、戦争もなく平和な時代が続いていた。この先世界がより良くなるためには、その頃の日本が持っていた、調和的で平和な精神性が役に立つんじゃないかな、と思っています」

後藤「縄文文化にたどり着いているアーティストは多いですよね。岡本太郎とか、坂本龍一さんとかも。僕は震災以降、どうやって生きてくか、どんな社会になればいいのかを考えたとき、農業について一番最初に考えたんですけど、でも今の農業って、全然自然じゃないよなって思って」

服部「あぁー」

後藤「逆にものすごく人間的なもののような気がする。だって水田とか正方形ですからね。最初は棚田なんかで上手に自然に食い込んで作っていたのに、だんだん自然から離れて、幾何学的にコントロールしていって。その延長に原発みたいな科学技術があるのかなって、なんとなく感じています。じゃあ、その自然的なものと人間的なものの境目ってどこだろう?って考えたら、農業が始まる前には狩猟採集の生活があったよなって」

服部「冷えとり健康法を開発した進藤義晴先生が、“弥生時代になって以降、人間は利己主義に陥ってしまった”っておっしゃっていました」

後藤「縄文時代の土偶は、人間を大自然の一部のように捉えていて、小さなエゴでなくて、もっと大きなものに捧げられているように感じます。僕、土偶を見ると、そのフォルムと世界観にノックアウトされちゃうんですよ」

服部「最高!」

後藤「縄文時代の人達って、捧げている方向が違いますよね。宗教観というか、信仰というか」

服部「今の時代、そういう事を言うと、すぐ“えっ、オカルト?”って枠にはめられそうになってしまうんですけど、本来人間って、天候とか、星の運行とか、予定調和ではない、もっともっと大きなものに動かされて生きてたと思うんですよね。ここのところ人間は、そういうものから切り離されすぎたんじゃないかな」

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服部みれい

服部みれい(はっとり・みれい)

『murmur magazine』編集長。自身も執筆活動も行いながら、冷えとりグッズを扱う「mm socks」、本のレーベル「mm books」を主宰。『冷えとりガールのスタイルブック』(主婦と生活社=刊)の企画・編集ほか、著書に、『あたらしい自分になる本』(アスペクト)、『オージャスのひみつ』(蓮村誠=監修 マーブルトロン/中央公論新社)、『あたらしい自分になる手帖』(アスペクト)、『みれいの部屋 ニューお悩み相談』(主婦と生活社)、『服部みれい詩集 甘い、甘い、甘くて甘い』(エムエム・ブックス)など多数。
最新号『murmur magazine』16号(エムエム・ブックス刊)、『あたらしい東京日記(大和書房刊)』、ともに6月23日発売予定。
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