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森本千絵×後藤正文

東日本大震災という大きな出来事を経験した私達は、これからどんな“未来”を作っていけるのでしょうか。「THE FUTURE TIMES」では、これから時間をかけて、様々な人の声を紹介していきます。それぞれ手がけるフィールドは違っても、同じ時代に生まれた同じ世代では、通じ合うものがある――広告を始めとした幅広いジャンルで活躍するアートディレクターの森本千絵(goen° 主宰)さんに、編集長・後藤正文が話を伺いました。

構成/文:神吉弘邦(エディター) 対談写真撮影/五十嵐一晴

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森本「初めまして、光栄です。ようこそ『goen°(ゴエン)』へ!」

後藤「こちらこそ。ここは心地よくて素敵なオフィスですね。あれ、机の真ん中から本物の木が生えてる」

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森本「これは「mono° goen°」という、造形作家の上岡祐司さん達とのプロジェクトから生まれた「en° 木(えんぎ)」という商品なんです。中に土も入っているんですよ。ほら」

後藤「本当だ、面白いなぁ」

森本「上岡さんとは、『到津(いとうづ)の森公園』(北九州市)で『どうぶつ郵便局』や『どうぶつポスト』を作っていて。みんなで考えたことを動物園で実現する『36のたとえば』という提案なんです。これからの私のテーマは“生命力”。動物的というか、土に帰るというか、なんだか泥臭い土の付いた根っこのほうに、未来を感じています。辿っていくと、一番初めにつながる根っこ、命が生まれるところに答えがあるのかなって」

後藤「すごく分かりますよ」

森本「この世に生まれるってとても辛いことだと思いません? いったん誕生してしまったら、もう、死に向かうのが決められているのだから。誕生の瞬間に赤ん坊が泣くのは、この世界に生まれてきた嘆きなんじゃないのかなと思うことがあります」

後藤「もう何年も前から、僕もずっと同じことを考えてました。人は結局、生まれた段階で死ぬことは決まっていて、どうやっても全てを失うわけですよね、最終的には。以前に『転がる岩、君に朝が降る』という曲にも書いたんです。最初は持っていないものをどんどん獲得していって、それを失ってしまうときに寂しく思ったり、愛おしく思ったりするのはなぜだろう?って」

森本「私達は、いつか死んでしまうことの恐怖を少しでも和らげるために、意志や欲望によって生きる目的を見出そうとしたり、他人に何かをしてあげたりするのかもしれませんね」

後藤「ちなみに、創刊号の『THE FUTURE TIMES(以下、TFT)』では、震災前に作った『LOST(ロスト)』という曲のショートバージョンがダウンロードできるコードが付くんです。ロングバージョンを、新聞を発行する費用へのドネーション、寄付として好きな金額で購入してもらうのですが、その曲では『ああ、なくなっちゃうんだ。そういうことなのか。でも、なくなるからいいんだ。なくなっちゃうから愛しいんだ』ということを歌っていて。『LOST』というタイトルとはいえ、“生”について歌っています。“生きよう、精一杯” ということが真ん中にある曲です」

森本「いいですね。私は小さい頃、よく『まわりの人が突然、死んじゃったらどうしよう?』と本気で考えてしまう子供でした。すぐに親や自分のお葬式をイメージしたり、学校で『漂流教室』(作:楳図かずお)のことを考えたり。今でもかな、ちょっと不謹慎かもしれません。ただ、他人にもっとこんなことをしてあげれば良かった……という後悔だけはしたくないんです」

後藤「それが原動力になっているんだ」

森本「完全に妄想ですが、明日お母さんが死ぬんだったら、今日中にローマやドイツに連れていけるとか。それは極端だけど、やっぱり足腰が悪くなる前に行ってもらおうとか。死ということ、形あるものが壊れることが、どうしても頭に浮かんでしまいます。だから逆に、せっかく生きているのだからこういうことがあってもいいよね、という魅力の部分を自分のエネルギーにできるのかもしれない」

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森本「いったん生まれて来させていただいたからには、その命をちゃんと育てなきゃいけませんよね。自分が生きるためには健康になりたい、美味しいものを食べよう、じゃあ良い作物を育てるために土を良くしなくては、って」

後藤「『TFT』の創刊号にも書いたんですが、今、土の問題は深刻ですね」

森本「他人の言葉や日本の国などを背負う前に、自分の体がどうなのか、自分の心がどうなのかに聞くのがいいと思うんです。たとえば、私は体内の水分量の変化は把握できるけれど、地球全体になると大きすぎて実感できませんから。でも、体を物差しにして考えると分かることだってあります。サーフィンで海に入ると、やっぱり地球儀の青いところにピョコッといる感じがしますよ(笑)。自然の生命力というか、なんかもう、人の世界とは違う力が確実にあるのを感じて、水や波が怖くなるときだってありますし。だから海から出た後、今日も生きてサーフィンを終えられた!という歓びが得られるんです」

後藤「体を使うという話で言うと、森本さんはコラージュという手法をたくさん使うじゃないですか。理由はあるんですか?」

森本「うーん、なんだろう……本当はひとつひとつ綺麗に絵が描けたらいいのですけど。ただ好きなんですよ、コラージュ。体からダイレクトに出てくる感じで。今はみんなパソコンでこう、画面に置いていきますよね。そうではなくて、料理の盛り付けみたいな感じでパッパッとやって、その場で一気に世界が見える。呼吸を感じるというか、まさに生き物っぽくて」

後藤「なんだか楽しそうですね」

森本「あと、反応が起こって変わっていくところがいい。失敗が逆にいい具合になったり、自分で気づかない何かを発見できたりするから、訓練にもなります。ハッとなったときの気持ちを整理する練習ですね。よく言われるアナログ感とか、手の温もりだけに興味があるわけでなく、異なるものから生まれる反応や、失敗ギリギリの表現が面白い。ワーッとやれるから、私の中ではライブと同じです」

後藤「AとBが出会った、その化学変化を楽しんでる側面もあると」

森本「ええ。あと、限られているところも好きです。パソコンを使わないと、あぁ、Aをもうちょっと大きくしたかったとか、Aが赤じゃなくて青いBだったらもっとカッコ良かったのに!って思うけど、あり合わせのもの、限られている中で生まれるベストを愛せる。パソコンだと自由に描けるけど、魔法がかからないんです」

後藤「そうやって作り上げていったほうが、自由が利かないのに得るものがあると」

森本「利かない部分があるけれど、自分の気持ちは解放されてます」

後藤「たとえば音楽だったら、コラージュはサンプリングに近いと思うんですが、それをやっているという意識はありますか?」

森本「どうだろう。少しあるかもしれない」

後藤「たぶん僕らって、ヒップホップ以降の歴史を歩んでいるので、サンプリング世代なんですよね、音楽でもサンプリングすることを許せる。何かを繋ぎ合わせて新しいものを作るという意識。だって、過去には面白いものがいっぱいあるでしょ、という気づきもあるし。もうこれ以上新しいものなんて、組み合わせでやらなきゃできないんじゃないかという考えもある。それが面白いなと思って、森本さんの仕事を見ていたんですよ。僕も詩を書くときに言葉でコラージュをやったりするので」

森本「そうなんですか」

後藤「『オールライトパート2』という曲は、あいうえお作文。全部の言葉を『あ』から順番に続けたんですよ。意味は分からなくても、かっこいい言葉をまず並べてみようと。それで、連想ゲーム式に組み立てて」

森本「へぇ、面白い。発想がコラージュ的なんですね」

後藤「美術館でコラージュの技法を使った作品を見て、歌詞でやったらどうなるのかな、とずっと考えていたのもあって。それをアルバム1枚でつくろうとしていたんです」

森本「コラージュは自分をとことん追い込みますからね」

後藤「……でも、震災が起きちゃったから“伝えよう”という気持ちが強くなってしまって、最近はもう少し意味のほう、“歌” であることに寄ったんですが。震災がなければ、ポンポン言葉だけ投げて最終的に『こういう形なんだ』という手順でやろうと思っていたんです。だから、さっき言われたことと似ているなと思ったんです」

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森本誠

森本千絵(もりもと・ちえ)

1976年東京生まれ。博報堂を経て07年に独立し「goen°(ゴエン)」設立。現 在、goen°主宰として「出逢いを発明する。夢をカタチにし、人をつなげていく。」を掲げ、広告・ミュージシャンのアートワーク、映画の宣伝美術や舞台美術、書籍や空間のデザイン、保育園や動物園のトータルディレクションなど多岐に渡って活躍するほか、物語性を重視したプロダクトや空間デザイン『mono goen°』、子供達との想像力を育む場をデザインする『coen°』などを展開。また、「Pen」まるごと1冊森本千絵特集号が11月に発売され、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」準大賞、東京ADC賞グランプリを受賞するなど、幅広い分野から注目を集めている。ADC最年少会員。誠文堂新光社より『うたう作品集』が好評発売中。

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