HOME < 遠山正道(心の奥にある熱を捉える)

遠山正道×後藤正文

sub03

――今の時代は、チャンスが溢れている、ってことにお話を戻したいんですが、遠山さんのような観点でとらえると、確かにそうだよな、と思います。

遠山 うん。昔は、万人受けすることや社会的にわかりやすく価値をもっている例えば一部上場企業に就職する、とかマスメディアのようなものがよしとされていたけど、今ってそれがむしろかっこ悪かったりするわけじゃないですか。もっとコアな人とわかり合えている関係性のようなものが、例えば上場企業の人からみても「すごいな」って言われる時代なわけだから。

――でも、今の日本にいて「チャンスがある」っていう風にすべての人が感じられるわけじゃないと思うんですよね。

遠山 この間フランスを訪れてね。古い街並はとても素敵で感動したんだけど、たぶん10年後も変わらない気がしたんですよね。過去の文化をすごく大切にするがために建築物ひとつ作るにも法的な規制がすごくあるし。それで、日本に帰ってくると、街並はぐちゃぐちゃで「サイアク!」って感じなんだけど、一方で好きな様に作っていいわけなんですよ。私、「田中ビル」なんて個人の名前がつけられている類いの、街中に溢れているペンシルビルがすごく嫌いだったんですよ。パールのタイルが貼ってあったり、金の取っ手がついていたりして、「わー」みたいな感じがするんだけど、田中さんにとっては一生に一度の出来事だからそりゃあ金の取っ手もつけたくなるよなとあるとき思って。「予算も限られてるし、取っ手くらいは!」みたいな(笑)。気づくと、そういう個人の叫びが街中に溢れているような気がして、日本の街がすごく愛おしく見え始めたんですよね。
海外でも人気のある日本のアニメや「女子高生」っていうキャラクター、オタクカルチャーって、何かの模倣じゃないじゃないですか。だからリスペクトされるんだと思うんですよね。この間、ある韓国のポップグループのコンサートに行ってきたんです。前半部はパフォーマンスとしてとても完成度が高くて、キメキメでかっこよかったんです。でも同時に、もし海外に出るんだとしたら、それだけでは本場(アメリカ)には追いつけない、とも感じたんですよね。ところが、後半戦に、メンバーひとりひとりの“可愛いキャラ”が出てきたときに、アジアのお家芸が出て、とてもよかった。

――個性から出る雑味みたいな、いい意味での。

遠山 うん。『PASS THE BATON』では、ストリートカルチャーや、“おばさま”的な世界、ハイファッション、そんな一見バラバラなテイストがひとつのブランドとして成立し、たくさんの人がその世界観だったり並べられた雑多な商品を面白がって、価値を感じて受け取ってくれてるんですよね。そういうのってあんまりないんじゃないか。そんな雑多感っていいなと思っていて。ひとりひとりの持つカルチャー、いわば菌のようなモノが集まってきて、混ぜていくと、突然、納豆やチーズになる。菌にはチーズになるポテンシャルがあって、その出来上がったチーズは見たことのないものに違いないんですよ。僕は英語も苦手だし、欧米に対してはコンプレックスがあるんだけど、世界という舞台でいきなり上に踊り出ることのできる、日本はいいポジションに置かれているんじゃないかと思うんですよね。今って、youtubeのように世界に発信するメディアはたくさんあるわけですから、ひとりでも「こんなの思いついちゃったんだけど、どうしよう!」みたいなアイデアをどんどん発信していけばいいんだと思うんですよね。

――私たち一人一人が菌だとして、菌として意識した方がいいことってあるんですかね。

遠山 うーん、納豆になりたいと思っている菌の方が、納豆になりやすいんじゃないかな。「俺なんかしょせん、菌だからさ」なんて下を向いてるのより。それに、菌一個でい続けるより、混じり合った方がいいということもあるのかな。 
私自身は、かっこよくいえばプロデューサータイプなんですね。米粒に顔を描く人は「すごい!」って思うけど、自分は描けなくてもいい。そういう“いい菌”に会って、「これ、ごはんに一粒入ってたら高く売れるかな」とか(いや、実際は売れないと思うけど(笑))、そんな風にいろいろ考えるのが楽しいんですよね。いろんな人とその都度新しい組み合わせをして、「こんなのできちゃったんだけど、どうかな?」って興奮して。

――遠山さん自身、絵を描かれていたりとご自分の手を使って直接表現される部分もありますよね。遠山さんの中でどちらが自然にある部分なんですか?

img004

遠山 プロデューサーって言い方をしたけど、それも結局自分がやってるつもりなんです。パーツは集めているけど、自分のプロダクトだと思ってやっています。かっこよく言えばアンディ•ウォーホルのようなもので、誰かファクトリーの人が写真を撮ってきたものを見て「これいいね、これでいこう!これ大きくしといて、君」なんて言って、最後にそこに自分の名前をサインして「できた!」なんて言って。

――さっきからお話を伺っていて思うのが、遠山さんって「この先の未来を描こう!」って大上段に構えているようなところはあんまりないですよね。

遠山 うん。まあ、会社の将来を考えるときも、よくいう3カ年計画や5カ年計画とかはあまり持たないね。

――遠山さんがよくおっしゃることで、「世の中の体温を上げる」っていうお考えがあるじゃないですか。それって…

遠山 はじめにも言ったけど、空白だとか諦めだとか、そういう感じは私の中にはないんだよね。世の中ってよりよくなるものだと思ってるし、そうなることを、自然にポジティブにみんな望んでいると思うし。だって、よりいい景色見たいじゃん。

――今って、「よりよい」とは何かっていう、そこの価値観や定義から新しいものに変えていかなきゃいけないんじゃないかって思います。そうではない風景を見続けちゃったのが、自分たち若い世代の諦めとかにもなっているのかな、と。

遠山 この間、自伝を読み直したら、私なりに苦労もしてきたようなんですよね。苦労や不安の後に上がって、また下がって…。『PASS THE BATON』を始める一昨年の9月、オープンの1週間前に会議中に書いたメモに「不安」って文字がたくさん書いてあったんですよ。それと同時に「高い理想」ってのが何度か出てきたりして。不安を高い理想でなんとか鼓舞しているんですね。さっきも言ったように、スタートしてうまくいかなくても「とにかくここに辿り着きたい!」っていう想いがあればがんばれるっていうか。不安だから高い理想を思い描こうとするし。腹っていうのは、やっぱり不安みたいなところから決まるっていうのはある。今はもう不安はないけど、また次に何か新しいことをやろうとしたときはビビるんだろうね。

――能天気さも持ちつつ…

遠山 ビビる部分もある。そうするともう一回考え直したり、人から意見を集めてみたり、ときめけないんだったら止めよう、と思えたりするんですよね。

  img001 

――震災が起こってから、考え方が変わったことはありますか?

遠山 ホームページの頭にちょっと書いたんですけど、今までビジネスのことを車に例えて書いていて、車にとってガソリンは大事で、ガソリンがないと走れない、それが利益や売り上げ。でも、それだけあってもしょうがなくて、誰を乗せてどこへ向かうかが大事だ、ってそんなふうに言っていたんだけど、震災が起こったときに、やっぱりガソリンがあるありがたさ、車があるありがたさは強く感じましたよね。社会の仕組みが成立していること自体や、今自分が存在できていることへの感謝はすごく感じました。実際、停電効果なんかの影響で、震災後売り上げは7割に減ったんですよね。このままの状態が半年続いたらつぶれちゃうかも、って思って。世の中の仕組みって、ちょっと何か起こっただけでうまくいかなくなっちゃう。せっかくちゃんと二本の足で立てているわけだから、何もしないでいるのも罪っていうか。さらに強いチームになってより強い提案をしていくってことをしていきたいですね。

(2011.8.4)
前のページへ |  1  |  2 
photo01
遠山正道

遠山正道(とおやま•まさみち)

1962年東京生まれ。85年三菱商事入社。99年、『スープ ストック トーキョー』第1号店をオープンさせた後、2000年に株式会社スマイルズ設立、代表取締役社長に就任。その後、ネクタイブランド『giraffe』、新しくユニークなコンセプトのリサイクルショップ『PASS THE BATON』を展開。
近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)。
blog | twitter

※お詫び※
本誌 00 号、遠山正道さんインタビュー記事中に誤りがございました。
下記の通り訂正させていただくとともに、深くお詫びいたします。
<訂正内容>
(誤)「PASS THE BATTON」
(正)「PASS THE BATON」