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遠山正道×後藤正文

震災を経て、人々の意識が社会に向いている今。様々な分野で活動する人々の声が集まった、実際に手に取れるメディアを作りたい――「THE FUTURE TIMES」は、そんな思いから生まれた新聞です。どうすれば、若い世代の人たちが私たちを取り囲む問題に関心を持ち、新しい“未来”を作っていけるのか。そのヒントを探るため、食べるスープの専門店『スープ ストック トーキョー』やネクタイブランド『giraffe』、最近では、まったく新しいコンセプトのリサイクルショップ『PASS THE BATON』と、次々と話題のブランドを仕掛けるプロデューサー、株式会社スマイルズ代表の遠山正道さんにお話を伺いました。

構成/文:清水麻耶 写真:栗原大輔

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――今日は遠山さんに、遠山さんの考える未来のビジョンについて伺いに来ました。30歳半ばから今の若い世代の人たちは、社会に対する意識がないわけではないけれど、あきらめに近いものを抱いているように感じています。

遠山 それは残念なことですよね。

――何かをやってみたいけれど、何をやったらいいかわからない、で止まってしまう。そこで、「面白い人の面白い未来のビジョンを聞く」というコーナーを通じて、自分たちが働くこと、生きていくことについてもう一度考えていきたいと思っているんです。

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遠山 若い人たちが今言ったような姿なのは、よく言われることだけど、時代の影響がやっぱりあるのかな。戦後から1999年くらいまでは高度経済成長期で、日本全体の景気はよかったですよね。そこから時代が変わって、景気が低迷して、日本全体も元気がなくなっちゃって。僕が若いときは、まだ日本が成功していた時代、前向きだった時代だったんです。昔は、日本自体が団体戦をしている、みたいなところがあって、試合をすれば勝ったし、そもそも、勝てるゲームがあったから、それを支える部下もコーチも企業もおばちゃんもみんなハッピーだった。家庭の中でもお父さんは立派だったし、課長も部長もどこかに成功体験があったから、組織が成立していた。だけど、今って、団体戦のゲーム自体が勝てなくなっちゃって、日本自体が、一軍というよりは二軍、三軍のポジションにあって、試合をやれば往々にして負けてしまう。だから、指揮をとっているキャプテンもコーチもみんなかっこわるく見えちゃって、自信も持ちにくい、ということになっちゃった。「部長だからえらい」っていうような場面なんかもうまくできあがんなくなっちゃったんですよね。

――今って、新しいゲームを自分達で探していかなきゃいけない時代になりましたよね。でも、それってけっこうしんどい面もある。

遠山 そうですね。会社や社会で考えるのも大変だし、だからといって個人にふられても「どうしたらいいんだろう」ってなる。そんな機能不全みたいなものを、若い世代、特に今の35歳くらいの人っていうのは、子どもの頃から味わってきたんですよね。

――遠山さんご自身は、どんな時代に若い頃を過ごされたんですか?

遠山 私自身は62年生まれなんですよ。東京オリンピックで青山通りが拡張して、そこに建った青山マンションっていうとても素敵なマンションに暮らして青春時代を送りました。ビートルズ、ケネディ、アポロ13号、サイケ、家はモダニズム…。それはそれはかっこいい時代で、自分にとってはもう最高だったわけです。そんなエッセンスの中で生まれ育ったわけだから、自分の中に「素敵な世界」っていうのがあり得てて、いつも世の中をそれと比較して見ているようなところがある。

――目指すべき指標のようなものをどこかで体験、実感していたわけですね。

遠山 そうですね。だから、今、たくさんの人が大変な時代だと言う時を生きていても、私なんかは非常に能天気で前しか見ていない感じなんです。試合に負ける時代になっちゃっても、あまりそんな実感もない。むしろ、リーマンショックをきっかけにさらに世の中の景気が後退していても、実はそれをすごくチャンスだと思っている。実際、丸の内に第一号店をオープンした『PASS THE BATON』は、不景気だからこそできたと思っていますし。もし景気が良かったら、まず丸の内の一等地は簡単には確保できないでしょう。物を調達するときは仕入れ値が安く抑えられるので調達しやすいし、メディアもいいネタがたくさんあったら分散するけれど、それも集中しやすい。商品を売る段階はもちろん大変なんだけど、じゃあ景気がよければ楽かっていうとそんなことはなくて、いつだって大変で。景気がよければ、お客さんの関心もお金の使い道も分散していきがち。むしろ景気が悪いときの方がお金を使うのに慎重になるし、一生懸命話を聞いてくれる。ちゃんといいものをやっていればね。
不景気っていうのはこっそりほんとにチャンスだと思ってるんです。3.11以降こういう言い方をして不謹慎に捉えられるとよくないけれど、でも同じことで、不安とか、うまくいってないことがあったら、それがよくなれば価値になるわけですよね。混沌とした中にも価値を見出して、それを自分たちで定義をして世の中がよくなっていく、そんな構図に溢れているように思います。心理的には腰がひけますけどね。だけど、価値の提供はしやすいと思う。

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遠山 とはいえ、やっぱり世の中は不景気で大変なので、コンセプトは一生懸命考えています。『PASS THE BATON』を始めるときに、まず3年はうまくいかない覚悟は決めました。3年経つくらいまではずっと赤字で、でもそれでもがんばってふんばっていればいつかちゃんと浮上すると思っていたけれど、今までスープストックでスープを作りながら苦労してがんばってきたみんなの生み出した大切なお金を、しょうもないことでじゃぶじゃぶ赤字にしてしまってはいけない。だから当然「かっこいいじゃん」だけじゃスタートする理由にならなくて、やっぱり意義みたいなことが大事になる。それは社会的意義かもしれないし、自分にとってのやんごとなき理由なのかもしれないけど、とにかくその辿り着きたい先みたいな地点があって、「とにかく私はやるんです!」という強い想いを持ってまわりを巻き込みながらやっていかないといけないですよね。

――遠山さんは、「意義」というものをどんなものと捉えているんですか。

遠山 私がビジネスをするうえでいつも意識をしていることで「やりたいこと、やるべきこと、やれること」という3つがあるんです。この3つのバランスが大事で、私は「やりたいこと」がちょこちょこ浮かぶタイプ。「やるべき」という点は、左脳でなんとか調整しながらね(笑)。だけど、一般的に、ことビジネスの現場では「やるべきこと」ばかりで「やりたいこと」の存在すら忘れちゃうということがあり得るんですよ。だけど、さっき言ったように仕事というのは人を巻き込んでいかなきゃいけないし、お客さんとの共感も欠かせない。だから、意義がないとまず盛り上がれない。何をやっても大変なんですよね、仕事って。そうそううまくはいかないもの。だけど、「そうは言ってもやるでしょ」みたいなものが意義なのかな。
この間、講演会でリスクについて質問を受けて、一瞬「リスクってなんだっけな」と思ったあとで、考えたのが、ちょっとかっこいいこというと「美意識のないこと」かな、と。「儲かるはず」っていう思いから出発したり、どこかから持ってきて、「これいけてるらしい!」ってビジネスを始めたり、それでうまくいけば利益が出たりビジネスとして成り立ったり目的を達成するんだけど、やりたくもないのにやって、儲かるはずだったのに儲かんなかったときなんかは一番最悪で、投資もしてやりたくもないし赤字を生み出しながら5年間続けるなんて踏んだり蹴ったりじゃないですか。だから、まあそこまでの話でなくても、「ほんとにそれってやりたいの、あんたは?」と聞かれて「やりたいっす!」「これだったらいけると思う」、そういったことがないのがリスクかな。社会的意義や、やりたい気持ちとか、それがコンプレックスからくるものでもいいかもしれないし、とにかくそういう腹を決められるような、そんな難しい話じゃなくて「これ実現したらすごいよさそうじゃないすか」みたいな、そういうのがないのはいやだし、リスクだと思うんですよね。

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遠山正道

遠山正道(とおやま•まさみち)

1962年東京生まれ。85年三菱商事入社。99年、『スープ ストック トーキョー』第1号店をオープンさせた後、2000年に株式会社スマイルズ設立、代表取締役社長に就任。その後、ネクタイブランド『giraffe』、新しくユニークなコンセプトのリサイクルショップ『PASS THE BATON』を展開。
近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)。
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※お詫び※
本誌 00 号、遠山正道さんインタビュー記事中に誤りがございました。
下記の通り訂正させていただくとともに、深くお詫びいたします。
<訂正内容>
(誤)「PASS THE BATTON」
(正)「PASS THE BATON」