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谷尻誠×後藤正文

「豊前の家」(2009年)

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当たり前だとされてるものを見直すことで見つかる新しさ、というのはまだまだあるな、といつも思っています。たとえば「廊下」ってなんなんだろう?と考えながら設計したのが、この住宅でした。普通、廊下とは狭い通路のことです。住宅の場合は部屋を広くしたいから、廊下を狭くしがちですよね。でも逆に、廊下を少しずつ広くしていくと、どうなるのか。「まだ通路、まだ通路……あれ、これって部屋じゃない?」となる瞬間がある。そうなると、廊下の価値が変わってくるじゃないですか。そういうものって、世の中にまだまだたくさんあるはずです。(谷尻)

「café / day」(2011年)

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元々は居酒屋だった物件をリノベーションして、カフェにした静岡のプロジェクトです。照明や床柱など、居酒屋の記憶がそのまま残っている。それまであったものを変えずに「これはカフェです」と名前を付けました。カウンターも色だけ塗って、床だけを変えています。自動車学校が間近にあるので、黄色いクルマと黄色いポール、アスファルトをモチーフに。どこまでも道路が続く空間をイメージしています。中を外に近づけてオープンカフェを作るんじゃなくて、外が中に近づいてくるほうがいいんじゃないか、という逆の発想ですね。ミニクーパーのシートをオークションで見つけたんですが、黄色いラインがあって「まさにこの店のためのシートじゃないか!」と思わず落札して、設置しています。(谷尻)

「まちの保育園」(2011年)

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藤沢駅前にビルの2フロアを使った保育園が完成しました。用途や楽しみ方が与えられている場所ではなく、遊ぶ場所を発見して、遊び方も自分で作り出すほうが、想像力も活発になるのではないでしょうか。そのほうが子供だって本当は楽しいはずです。音楽の部屋、水の部屋、それ以外では街の路地みたいな所に間仕切りを設けず、部屋としています。床には線路の絵を描いたり、横断歩道を描いたり。すると、子供達は街でやるように、床自体を遊び道具にしますよね。横断歩道の白線から落ちないように歩くとか、小さい頃にやりませんでした? どんなときに子供が楽しいか、想像力が働くか、そんなことを考えながら作った保育園です。(谷尻)

「広島の事務所」

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最近、ちょうど広島の事務所を引っ越しました。古いビルをリノベーションして、2階は真っ白に塗ってオフィスにし、3階は解体して空っぽにしたんですよ。なんだか廃墟みたいな感じですが、びっくりするくらい手を入れていない。そこでみんながコーヒーを飲めばカフェになるし、展覧会をやればギャラリーになるし、歌を歌えばライブスペースになります。何かの名前を付けたらずっとひとつのことをやらなきゃいけません。そこで起きる行為が、空間に名前を付けるようにしたかったんです。自分が普段やってる仕事に対するアンチテーゼとして、何も操作しない「空っぽの空間」を持っておこうとしています。(谷尻)

(2011.8.10)
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谷尻誠

谷尻誠(たにじり・まこと)

1974年広島生まれ。建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」代表。広島と東京を拠点に、数々の住宅や商空間、展示会場などに関する企画・設計、ランドスケープやインテリアのデザイン等を手がける。代表作は、毘沙門の家、豊前の家、他多数。09年JCDデザインアワード銀賞ほか国内外で受賞多数。近著に「よりみちパン!セ」シリーズから『一歩手前の建築』(仮)が予定されている。特技は建築とバスケットボール。