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谷尻誠×後藤正文

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谷尻「この秋に本を出す予定です。それまでも文章は書いてたんですけど、この機会だから“震災と建築”“災害と建築”というテーマで書いてください、と依頼されたんですよ。それがもう書けなくてですね……やっと昨日あたりに書き上がりました。本が出るのが遅れるかもな、という…」

後藤「どんなことが書かれているんだろう。良かったら、さわりだけでも」

谷尻「こんな話を書いたんです。住宅の打ち合わせで、お医者さんと話す機会がありました。食事のときに左手でお箸を持たれていたので『左利きなんですね』と言ったら、『いえ、そうじゃなくて訓練なんです』と。外科の先生だから当然オペをするんですが、最近は内視鏡手術も行うので、両手が同じように使えないとダメらしいんですよ。左手での食べ方を訓練して上達は早かったけれど、なんとなく美味しく感じられなかった。右手と同じ味になるのには丸2年かかったそうです。あるとき、『右手だけで食べてるんじゃなくて、器を持った左手が引っ張ったりしてガイドしている』ってことに気づいた。左手に合わせて右手の動かし方も練習するようになって、やっと右手と一緒の感覚になったらしいんですね」

後藤「へえ」

谷尻「これってなんか、『震災が左手で起きてるとき、離れた所にある右手だから何もすることができない』と思っていた自分の立場とすごく近いなと思って。両者の結びつきが大事なんだということと、普段どおりの生活を送ることの価値に気づいたんです。実質的に被災地にいない右手として、こちら側でどうガイドが引けるのか、それをたとえながら文章にしました。震災について、離れている地で考えることの大切さということが結び付いて、やっと文章が書けたんですよ。ただ難しいですよね。自分は体験していないことだから、リアリティを持って語ることはできないですし」

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後藤「今日はありがとうございました。ぜひ、また別の機会にも対談をお願いします」

谷尻「だったら今度、広島でトークショーしましょうよ! 僕らは『THINK』というタイトルで、『結果ではなくて、何を考えて作っているのか?』というテーマのトークイベントをやっているんですよ。建築関係ではない人もたくさん呼ぼうとしています」

後藤「いいですね。夏のうちにやりたいです!」

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谷尻「東京って、こういうイベントがいつでもできるじゃないですか。僕は広島に拠点を持ちながら東京にいる時間もあって、東京でいろんな人に会って、建築の話に翻訳して自分のものに吸収できるんですけど……事務所に帰ってスタッフに『ここでこんな面白い人に会って、こんなことがあったよ』と伝えても、しょせん僕が翻訳し終えたことだから、結果として『すごいですね』としかならない。それよりは面白かった人を呼んで、広島にいる周りの人も巻き込んで、来た人が自ら翻訳して、違う結びつきを見せてもらったほうがみんなで成長できるし、面白いですからね」

後藤「写真で事務所を拝見すると、とてもいい空間ですね。これは実現が今から楽しみだなぁ」

(2011.8.10)

ーーこのやりとりをきっかけに、8月12日の「THINK05」イベントに後藤正文が参加することになりました。

  • 8/12 (金) THINK_05
  • 日時:8月12日(金)19:00〜21:00
  • 会場:suppose design office 3階 (広島)
  • 入場料:1000円 ※チケット販売はすべて終了しました。
  • ※ 当イベントはレクチャートークであり、音楽ライブではありません。
  • 谷尻誠サポーズ日和
    ■USTREAM:THINK@SUPPOSE http://www.ustream.tv/channel/think-suppose

次のページで、谷尻さんのお仕事の一端をお見せします!

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谷尻誠

谷尻誠(たにじり・まこと)

1974年広島生まれ。建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」代表。広島と東京を拠点に、数々の住宅や商空間、展示会場などに関する企画・設計、ランドスケープやインテリアのデザイン等を手がける。代表作は、毘沙門の家、豊前の家、他多数。09年JCDデザインアワード銀賞ほか国内外で受賞多数。近著に「よりみちパン!セ」シリーズから『一歩手前の建築』(仮)が予定されている。特技は建築とバスケットボール。