THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

誰かと関わらずには生きていけない私たち

その人が何を考えて、
普段どう暮らしているのかが音楽に出る

後藤「やっぱり身体性みたいなものを問うてるわけよね」

永井「はい」

後藤「私が私であるみたいな、実存みたいな、それがどんどん危うくなっている。私たちの音楽はどこにあるのかしらみたいな。無数のコピーがただちに飛んでいって、俺たちがいてもいないくてもいいみたいな。そういうメタバースのなかというか、インターネットのなかに放り込まれていくわけだよね。でも、私たちは、このユニバースを生きている」

東郷「この(身体の)内側さえ見たことないし、名前も知らないけど、ずっとやってくれてるわけじゃないですか、朗らかも、ここで」

後藤「でも、本当に布地に触れてよかったって思わない? 着せ替えのアバターの服とかさ、ときどき作ってみようかしらみたいな感じで、iPhoneとかでアバターを作ってるときにさ、ある程度のところで虚しさが込み上げてくるもんね、何をしてるんだろうみたいな。なんでこんな、どの髭が俺っぽいのかなって考えてるのかなって(笑)。随分巻き取られてるなって思うじゃん」

永井「あはははは(笑)」

後藤「でも布地に感触があることはすごいことだし、縫製が甘いよねみたいなことも含めて、人の仕事の積み重ねがあるけど、それを想像できて、手で触れられるかって、すごく大事な気がするっていうか」

永井「あー、なるほど」

後藤「音楽って基本的には触れないからさ、清丸がさっき鳴らしたギターの音とか、こうやって手で捕まえて、丸っと持って帰って誰かに聞かせてやろうとかできないから」

永井「できないですね」

後藤「そういう意味では、我々は身体性みたいなものに敏感なんじゃないかな。あと、やっぱり楽器の演奏ってめちゃくちゃ身体的なことだし、打ち込んだ音ひとつとっても、その人が何を考えて、どんな本を読んでて、どんなものが好きかってことが出ると思っていて。このボディが普段どう暮らしているのかが、めちゃくちゃ音楽って出る。だから、自分がやることを測量したくなる気持ちがすごいわかる。関わってる人は自分のボディじゃないけど、その人には私の何かが届いていて、アジカンだったら、チームアジカンはひとつのボディとして活動するわけじゃない?」

永井「はいはい」

後藤「そういう意味の身体性もあるし、チームの身体性というか」

東郷「アジカンを生で観たとき、巨大ロボみたいって思いましたもん。チームとしてね」

後藤「俺も歌いながら、巨大ロボみたい!!って思う(笑)」

東郷「えーい、ドーン!!(笑)」

後藤「そうそう。このボタン押すと多分、ギターの喜多君が死ぬんだろうみたいなことになるから、そのボタンは押さないようにするみたいなね」

永井「あはははは(笑)すごい笑ってしまった」

社会の一員であるという意識を
どうすれば持つことができるのか?

永井「身体を一回通すって、ままならなさの経験でもあって。すごく時間がかかるわけですよね、イラレ使わないで文章を書くとか。めちゃくちゃ大変で、うわぁ、できない!みたいな」

東郷「時間かかりましたよ。気づいたら朝になってて(笑)」

永井「パンツを洗うとかもそうかもしれないし。なんじゃこりゃぁみたいな。でも、やってみる。それって、決してたったひとりで個人主義的に、自己責任的にやるってことではない。そこをいかに試みられるかっていうところなんだろうな、と」

東郷「ゴッチさんの巨大ロボ、アジカンチームがひとつの巨大ロボだとして、日本も一個の巨大ロボだし、地球全体でも一個の巨大ロボで。まあその、レイヤーというか、時限があって。だから僕はひとりでやってますとか、そこだけ切り取るとあれですけど、やっぱりそういう社会という巨大ロボなのか、大きい生き物なのか、の一部、臓器ほどデカくないけど…」

後藤「細胞?」

東郷「そう。細胞として振る舞う頭になってるときもありますね、やっぱりね。社会の細胞としてはこうしとこう、みたいな。ゴミは分別、みたいな」

永井「Dでは結論を出すというよりも、対話の最後はいつも問いをひらいて終わるんです。いまの話をうけて、自分がそういう細胞の一部だってふうに思える、つまりそれは社会の一員であるって思える意識って、どうやったら持てるんだろうっていう問いが生まれてきました。ずっとDとしても考えていることでもあるし、参加者のみなさんとも考えたい問いとしてひらいておきたいです」

(2022.12.2)
永井玲衣(ながいれい)

学校・企業・寺社・美術館・自治体などで哲学対話を幅広く行っている。D2021メンバー。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)。連載に「世界の適切な保存」(群像)「ねそべるてつがく」(OHTABOOKSTAND)「問いはかくれている」(青春と読書)「むずかしい対話」(東洋館出版)など。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

東郷清丸(とうごうきよまる)

 横浜生まれ。2017年に1st Album「2兆円」、2019年に2nd Album「Q曲」を発表。両作品ともに、若手ミュージシャンのための音楽賞"Apple Vineger Music Award" にノミネート、「Q曲」は審査員特別賞を受賞。

 DIYスタジオに演奏家を招聘し一日でミニアルバムを録音・発表した「トーゴーの日2020」や、コロナウイルス感染拡大の影響でイベント中止が相次いだ2021年の ゴールデンウィークに、毎日あたらしい歌を公開した「Golden Songs Week」など、音楽をつくる行為そのものを遊ぶ。

 開放的な音楽観を活かしてCMや映画・演劇への楽曲提供も多く手掛け、そのほか映像やラジオへの出演も行う。

オフィシャルサイト
togokiyomaru.com