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安田菜津紀
「忘れられるのが恐い」。そんな言葉を何度、東北で耳にしてきただろう。あまりにも大きな悲しみが、東北を、そして日本中を覆った、2011年3月。真っ 先に駆け付けたのは、縁あった岩手県陸前高田市だった。圧倒的に破壊されてしまった街を、ただ茫然と見つめた。何を伝えればいいのか、何を残していけばい いのか、あの時は全く分からなかった。
それから3年が経った。建物の解体が進み、市街地は更地になりつつある。目まぐるしく変わっていく風景とは裏腹に、声にさえならない悲しみは置き去りに なったままだ。続く仮設住宅での暮らし、進まない高台移転、乗り越えていかなければならないものもきっと数えきれない。けれども同時に、冬から目覚めよう としている花の蕾のように、人々の営みも少しずつ息を吹き返しつつある。神事や伝統行事、海の幸をはじめ、震災前からこの街を支えてきた宝物が、人々の手 で少しずつ取り戻されようとしている。
今、この街で、少しでも多くシャッターを切りたいと思う。それは次の世代が同じ悲劇に巻き込まれないための記録であり、そしてこの街で再び輝こうとしてい るものを少しでも多くの人と共有したいという、願いそのものだ。写真にできることは微力かもしれない。けれども「忘れられるのが恐い」という言葉に、「忘 れるはずがないよ」を何度でも伝えたい。そんな想いでまた一度、また一度とこの街を訪れている。

Profile
yasuda
1987年神奈川県生まれ。studio AFTERMODE所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取 材。現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録 し続けている。2012年、「HIVと共に生まれる -ウガンダのエイズ孤児たち-」で第8回名取洋之助写真賞受賞。共著に『アジア×カメラ 「正解」のない旅へ』(第三書館)、『ファインダー越しの 3.11』(原書房)。上智大学卒。
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