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音楽と未来 ─ 自分の歌を聴きたいって言ってくれる人がいる限りは。(草野マサムネ)

今までは旅をテーマに歌うことは多かったけど、まだ旅人になれてないっていう立場での歌を歌うのは初めてだった。

後藤「新しいアルバムは、震災以降の体験が反映されていますか? 歌詞とか楽曲の内容とかに」

草野「ああ、昔から具体的にテーマを決めて、という作り方はあまりしない、というか、できないんだけど。でも自分の曲には、その時々の状況や社会のこととかは無意識に反映されるので、震災のあとに作った歌には、あからさまではないけど“ああ、あのことを歌ってるのかな”と思うような部分はあると思う。この前のシングルとかはそうかな(「僕はきっと旅に出る」)。今までは旅をテーマに歌うことは多かったけど、まだ旅人になれてないっていう立場での歌を歌うのは初めてだったし。そういう意味では、歌はわりと未来に向かってるのかもしれない。それも、未来が見えにくいからそうなってるのかな。『NO FUTURE』というのは、未来がすごく見えてるから歌えたことかなと思います。今は見えにくいから、『NO FUTURE』と言ったところで、“ああ、そうですか”みたいな(笑)」

後藤「(笑)たしかにね。“未来はない”って言われても、“うん、知ってるよ。だから?”ってなっちゃいますよね、逆に」

草野「でも実際、若い世代の人と話してると、未来に悲観する材料ばかりではないかなと思わせられることも多いですね。俺らはバブル世代の後半ぐらいの年齢で、ちょっと上の世代だと身の丈に合わないローンを組んで外車やマンション買った人も多かったけど、そういう感じじゃもうないでしょ? 若い人たち」

後藤「そうですね」

草野「もう、そういうことができない時代になってるし。それゆえに今は身の丈に合って、かつ、格好良く生きるすべを身に着けつつある若い人が多いなと思うし。衣食住があって、そこにファッションとかアートも適度にあって、なおかつ、大量生産・大量消費じゃない方向に向かいつつあるのかな、と。これは“そうだといいな”という希望も込めて、ですけどね」

後藤「うんうん。そうですよね。でも音楽の現場だと……何て言うんですかね。僕らの世代もギリギリ音楽でメシが食えるところに間に合ったんですけど。その下は、さらに深刻になってきてますよね」

草野「ああー。ですよね。ミュージシャンの未来というと、俺はラッキーな世代だったんだろうなと思うことはある」

後藤「そうなんですよ、本当に身の丈すぎて…。自分のレーベルのバンドとかも、30でバイトしながら音楽をやっていたり。“大丈夫?”みたいな気にもなるけど」

草野「ああ。そういうの聞くと、大変だね」

後藤「それがリアルになってきてますね。ただ逆に、よっぽど好きじゃないとできなくなってるというか」

草野「ああ、そうか。うまい人、多いもんね。若いバンドに。それもいいのか悪いのか、わかんないけどね。俺らの頃、“こんなどヘタでよくデビューできたな”みたいなの……まあスピッツもそういうところ、あったんですけど(笑)」

後藤「(笑)いやいや」

草野「そういう人の中に面白みがあったりするんですけど、そういうのは今、どんどんムダが省かれていってるもんね。良くも悪くもムダがなくなってきてるのは、ちょっと寂しくもあるんですけれど」

後藤「本当にそれは善し悪しがあって。昔は原石みたいなのを磨いている余力が、ちゃんと大きいレーベルにあったんじゃないですかね。今はバンドとは契約しない、みたいになってきてますからね。アイドルのほうが流行ってるし、フットワークが軽いし、そういう意味では今バンドって、ちょっと苦境に立たされてる」

草野「そうかもね。まあ社会的には、大量消費・大量廃棄みたいなのがなくなってるのはいいことだけどね。ただ、雑誌にしても新聞にしても紙を使わないでオンラインで見れたりするのと同じで、音楽もスタジオを使わなくてもある程度のクオリティのものが家でできちゃう状況になってくると、それはそれでどうなのかな、と。古い世代としては、寂しい思いもちょっとあったりするよね。もう宅録のソフトなんかも今は安く、簡単に手に入るようになってるからね」

後藤「ですよね。だって今、ボーカロイドのアルバムが1位獲ったりするような時代ですもんね」

草野「そうそう。で、そのボーカロイドでも、意外とホロリとさせられるようなものがあったりするんだよね(笑)」

後藤「そうなんですよね(笑)、クオリティ高いですよね。でも否定するわけじゃないんだけど、“でもこれ、誰も歌ってないんだよな”っていうのもある。そこは俺の感覚が古いところもあるんでしょうけれど(笑)。でもさっきの大量消費・大量廃棄で話でいくと、僕は、だんだんCDへの愛着が薄れてきてるんですよ。もちろんジャケットやアートワークを作るときにいろんな人の思いは乗ってますけど、“これって工業製品だな”と思うというか。一律3000円みたいな決まりがそういう印象を強調している気がします。“CDってどういう質のものなんだろう?”みたいなことは、ここ何年かずっと考えています。“メールでも送れるようなものをこの円盤に入れてる意味って何なんだろう?”みたいな」

草野「でもレコードとかCDに親しんだ世代のほうが、人口がまだ多いんだよね。若い人の人口が少ないから、なかなか廃れない理由ってのは、そのへんにもあると思う」

後藤「そうですね。逆に物っていうと、レコードのほうが最近は愛着が湧いてるんです。彫ってある、否応なくここに書いてあるというのが実感できるというか」

草野「うんうん。若い世代はそういうこと思わないかもしれないけど、塩ビのレコードをターンテーブルに乗っけて聴く行為に、ちょっと音楽を聴く儀式みたいな良さはあるな、と思いますね」

後藤「そうなんですよね。買って開けた時の匂いがいいとか……単なるフェチみたいになってますけど(笑)」

草野「(笑)フェチなのか、ノスタルジーなのか」

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草野マサムネ

草野マサムネ(くさの・まさむね)

1967年福岡生まれ。日本の音楽シーンの最前線を走り続けているスピッツのボーカル&ギター。1987年の夏にスピッツを結成。1991年3月シングル『ヒバリのこころ』でメジャー・デビュー。スピッツの全ての曲の作詞、ほとんどの作曲を手掛ける。また、他アーティストへの楽曲提供も行う。今年の夏は、スピッツ主催のイベント「ロックのほそ道」を、8月13日・岩手県民会館大ホール、8月15日・仙台サンプラザホールで開催した。9月11日には、前作から約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『小さな生き物』をリリース。また、9月14日(土)には、16年ぶりとなる単独野外ライヴを横浜・赤レンガパーク野外特設会場で行う。