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豊かさと未来——人と人がつながることで、未来は切り拓かれる。 | 山崎亮

知識は増えているけど、即興の力は落ちている

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後藤「山崎さんはコミュニティデザイナーとして、小さな町にもいろいろ行かれているわけですが、僕は無理なんです。ヒアリングして回るとか、本当にすごいと思うんです。昔、営業の仕事をしていたんですけど、もう飛び込み営業とか大っ嫌いで。いろんな町々にとって山崎さんは、要は部外者ですよね?」

山崎「“この坊主でひげ面は誰なんや”と言われます(笑)」

後藤「緊張されないですか?」

山崎「最初は緊張しましたよ。向こうの家に行くのは怖いですし、ホテルのロビーなら緊張しないで済むと思っていたんです。でも、そこじゃ話が続かないんですよ、お互い知らない人同士なので。“いい天気っすね”、“そうっすねー”みたいな感じになっちゃいます(笑)。これじゃヒアリングにならないと思って、アウェイだけど家や職場に行こうということにしました。すると写真があったり、カレンダーの日付に○がついていたりするわけですよ。“何ですかこれ”って世間話ができるようになってようやく少し相手の懐に入っていけるようになりました。ドキドキしちゃうけれども相手の懐に入り込めれば、話も盛り上がって友達になれますからね。今はあんまり緊張しないです」

後藤「すごいと思います」

山崎「僕は、ずっと転校生だったんです。4年に1回必ず見ず知らずの人と会わなきゃいけなかったんですよ。その人たちと友達にならないと生きていけなかったので、小さい頃からそういう技術というか感覚が身についていたのかもしれないですね」

後藤「町々でのご苦労って、場所それぞれですよね」

山崎「漁師の町と農民の町は違うし、ニュータウンと下町もまた全然違いますからね」

後藤「なんかこういう話をするときに一般化して、何が大変ですかって聞いちゃいそうになるんですけど、待てよと。絶対毎日違うぞ、多分山崎さんは即興でやられているぞって思うんですよ」

山崎「まさにおっしゃる通りです。まず相手方の状況がもう千差万別ですから。男性か女性か、高齢の方かどうか、固有名詞でもそれぞれ対応が違ってきます。コミュニティデザインをやるのに僕のやり方をその通りやったら、多分ほとんど失敗すると思いますよ」

後藤「そうですよね。そうだと思いました」

山崎「コミュニティデザインは、いろいろな状況に対してどうしますかっていうのを何回も何回も自分で判断してやっていくことですかね。それが僕ができるギリギリの一般化ですかね」

後藤「確かにそうですよね。一般化することは、逆に町々をのっぺらぼうにするのと同じことですもんね。ただ、その場その場でカスタマイズしていく精神がやっぱりどこかでなくなったんでしょうね」

山崎「そう思います」

後藤「便利なシステムがあれば、それに乗っちゃえみたいな」

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山崎「マニュアライズしてくれれば楽ですしね。知識のデータ量は格段に増えているけど、インプットをその場の即興でアウトプットしていくという能力は結構落ちているかもしれないですね」

後藤「あとやっぱりコミュニティデザインって時間がかかるものじゃないですか。それに対して、そっとしておいてほしいみたいな感覚ありますよね」

山崎「ありますね」

後藤「インタビューした林業組合の方の話が面白かったんですが、『この木は収穫早いんです』って言うんですよね。5年くらいかなと思ったら、『40年です』と」

山崎「僕だったら生きてないかもしれないですね(笑)」

後藤「そうなんですよ。30代が70代になった時にようやく成木になって収穫できるものをサイクルが早いって言うんです。本来、生きていくって、そういうことなのかなって」

山崎「僕が教えている京都なんかでも、ある店の主人が『先の戦争でうちの店はね』って言うのが、応仁の乱のことだったりします(笑)」

後藤「なんかインスタントな感覚っていうのは僕も含めて、みんなにあるのかなって思いますね。食い物にしてもそうだし、頼んですぐ出てくるのが当たり前みたいな」

山崎「イライラしますよね。“来ない、どういうことだ”みたいなね。ファストフードってアメリカっぽいですけど、調理せずにすぐ出てくる江戸前の寿司こそ、まさにファストフードなんですよ。ファストフードを食してきた江戸が大都市になっていくにつれて、どんどんせっかちになって、食べるものにも相当速度を求められるし、イライラする人も増えてしまいました。適度にまばらであることは大事だと思います。“適疎”っていう言葉が使われていますけど、“過疎”だとまばらすぎるからダメだけど“適疎”っていうのはどのあたりを言うのか、きちんと考えておかないと、文化が育っていかない可能性はありますね」

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山崎亮

山崎亮(やまざき・りょう)

1973年愛知県生まれ。コミュニティデザイナー。株式会社studio-L代表。京都造形芸術大学教授。人と人とのつながりを基本に、地域の課題を地域に住む人たちが解決し、一人ひとりが豊かに生きるためのコミュニティデザインを実践。まちづくりのワークショップ、市民参加型のパークマネジメントなど、多数のプロジェクトに取り組んでいる。著書に『コミュニティデザイン』、『まちの幸福論』、『コミュニティデザインの時代』など多数。