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農業のゆくえ-静岡-

お茶を育てるのは簡単ではない

後藤「このお茶園は完全有機で農薬を使わずにやるっていうことですか?それはやっぱり大変ですか?」

大塚「大変です。これを専業とか、商売にしているひとがやったら、多分無理だと思います。採算が全然取れなくて…」

後藤「お茶の木は根元まで切っても、また生えてくるのがすごいですよね。放射能が葉っぱに着いた云々の問題も、根元まで切ってしまえば、付着していない葉っぱが生えてくるんですもんね」

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大塚「そうです。新茶と、二番茶、三番茶、秋番茶まで取れるくらい、刈っても刈っても生えてくるから。でも、化学肥料をやっていないから(成長が)遅いし、栄養が少し足りてないから葉っぱの色も薄いっていうか…。必要な元素が足りない。葉緑素や細胞壁を作るって言われているカルシウムとか…。マグネシウムとかって言うのが足りてないんです」

後藤「それはまったく補わないんですか?」

大塚「今年はそれで、ちょっとだけ『苦土石灰』っていうのを撒きました。苦土っていうのはマグネシウムの日本語で、石灰はカルシウムです。ちょっと様子を見ようかなと」

後藤「そしたら、もう少し葉の色が濃くなってくるんじゃないかってことですよね?」

大塚「そうです。そこで分かるかなって。去年はお茶摘みをやって、お茶農家さんのところで製茶してもらったんですけど、持って行ったらすぐに言われました。『足りてないねぇ、栄養が』って(笑)」

後藤「そんなに簡単なことではないんですね、お茶を育てることも」

大塚「はじめは、自然農っていうのは、『木村さんの林檎』っていう本を読んで、これはいけるなって思って肥料とか何もやらなかったんですけど…。長年プロの人がやればできるかもしれないけれど、お茶に必要な元素はこの山では足りないんじゃないかっていうのがあって」

後藤「土の問題ってことですね」

大塚「はい。農家の99%以上は化学肥料をやってボンボンに育てて、葉っぱを大きくして重さを出さないと製茶工場での買い上げが安くなるんです。目方で見るから。だから、やっぱり大きい葉を作って、指導された通りに作らないと高く売れないってのがあるんじゃないかと思います」

後藤「化学肥料と農薬で土が荒れてしまうと以前に言っていたのはどういうことですか?」

大塚「というのが、虫が来るから農薬撒くじゃないですか?そうすると生物がいなくなりますよね。ミミズとかがいなくなるから、土が肥えなくなる。土が肥えなくなると、強制的に栄養を入れてあげないといけないから、液肥とか、手軽に撒けるものを撒く。液肥を撒くと木は簡単に養分を吸収できるから、根をはらなくても済むようになる。水も撒くから。そうすると、木が弱くなって、そこにまた虫が来るっていう」

後藤「液肥を撒くと木が弱くなるんですね」

大塚「結果的に、そういう流れで…。そう。液肥と農薬だと思います。やっぱり綺麗なんですね、お茶畑を見ると。生物がいない。この茶園みたいな感じじゃなくて、もっと綺麗で、草も生えてなくて虫もいなくて…。いわゆる本当に綺麗な葉っぱを作るっていう。それが良いかどうかと言うと…。ほぼ100%近くのひとがそうやって信じてやってるけど、100%の近くのひとがやっているからといっても、それが正しいとは限らないと思います」

身体を使って、体験して学ぶ

後藤「茶畑を5年も放っておいたら本当にジャングルになるんですね。面白い」

大塚「これを根元からまた切って。このあたりは少し木の勢いが弱くて。これは、冬場に剪定してはいけないって言われていたんですけど、本当にそうかというのを自分で試してみたくて、2010年の年末、冬に切ったお茶の木です。で、冬に切った木はプロのひとたちが言うように、本当に勢いがなくて全然成長しなくて。それよりも半年後、去年の6月、芽吹く時期にやったお茶の木は葉っぱが凄く出てきて。やっぱり身をもってやらないと分からないっていうのがあって、いろいろ試しています」

後藤「ちゃんと、お茶に対する知識っていうのは伝承されてきているって話ですよね。誰かが継がないと途絶えてしまう。冬に切ってはいけないって話とかも…」

大塚「その通りです。もし話を聞いていなかったら、多分一年中ガシャガシャ切って、なんでここだけ生えないんだろうって話で…。5年くらい経ったら気づく話かもしれないですけど」

後藤「なるほど。地元はお茶をやっているひとは少ないですか?若者は?」

大塚「若者は少ないですね。でも、いろいろなかたちで継いでいるひとはいますよ。牧ノ原でもそうですし。藤枝の山奥で、若い人が継いでやっています。『美味しんぼ』という漫画にも特集されて。この人は無農薬で、意識が高くて。その方の父親が30年前くらいから無農薬に切り換えた先駆けっていうか。やっぱり農薬を撒かないって言ったら茶農協から締め出されて、村八分状態になって…。それでも薬を撒かなかったそうです」

後藤「そういうこともあるんですね。お茶農協としては、 “農薬を撒いて下さい” って話なんですかね、肥料も」

大塚「それ以前にもう、薬を撒くことが常識になっています。『消毒』っていう言葉でね。消毒じゃなくて毒散布だと思うんですけどね(笑)。私はそう思うんですけど…」

後藤「でも、それが当たり前だから、現状維持というか、そういうサイクルになっていますよってことなんですよね。なかなか難しい問題ですね…。ところで、この茶園は広さはどれくらいですか?」

大塚「全部で、この上まで行くと3反(1反=10アール)って言われていて。再生させたのは、その1/7くらい。大雑把に言うと400m2くらいです」

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後藤「ここまで拓くのにどれくらいかかりましたか?」

大塚「私は効率悪く手作業でほぼやっているので、2年です」

後藤「2年ですか。でも、もう2年すれば同じだけの面積が再生できるかもってことですよね。でも、その分、倍の手間がかかるってことか…、今度は…」

大塚「その通りです。そうすると、サラリーマンをやりながらだと限界かなと思います、無農薬でやると…。まあ、農薬を撒いても同じかもしれないですけど」

後藤「そうすると、軽トラックで持ってきて機械でお茶を刈らないとって話になってきますよね」

大塚「そうです。もう人数を増やすかですね」

後藤「昔はだから、この時期は皆でお茶山に入って、総出でやったんでしょうね、きっと。終わったら田植えの時期で、田植えに行ったんでしょう」

大塚「そう。前か後なんですよね、田植えが。お茶刈りの前にやるか後でやるかで。そして地主さんのところも、茶畑でお昼を食べて、家族で摘んで、それを降ろしてお茶屋さんに持っていっていたようです」