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循環する産業とエネルギー Vol.2〔前編〕

原発事故は一次産業への影響が大きい

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松田「山本さんのところは、福島にもお客さんがいるんですよ」

山本「この間は、汚染された牧草地の表土をはぎ取る機械を実演・モニタリングしてきました。この機械はかなり引き合いが高くて、これは表土を——グラウンドとかゴルフ場に使う機械なんですけど、表土を2センチから5センチ剥ぐっていう機械でして」

後藤「そういう機械も取り扱っているんですね。ドイツ製なんですか?」

山本「オランダ製です。林業もそうだと思うんですけど、農業もほとんど外国産ですね。トラクターから作業機から、なにからなにまでほとんどがヨーロッパ製、というか外国製のものが多いですね」

松田「この間は福島の何屋さんのところに行ったんでしたっけ、放射能でどうにもならないみたいな…」

山本「福島県の酪農家さんです。もう放射能の数値が非常に高くて…。それで、牧草を栽培していないと牛に食べさせる物がないものですから…。その対策として、輸入した草を食わせているっていう現状なんですけど…。自分たちで草を収穫しないと、その草に還元するために牛は糞尿をしますので、それを還元する先がないし、草を栽培しないと循環型のサイクルがめちゃくちゃになっていまして…。どうしても草を栽培したいということで、放射能は表土の5cmくらいに一番ついているので、この機械で表土を5cm剥ぎ取って、またそこに作付けを行おうという実証試験をしていました」

後藤「試験をやっているんですね。うまくいくと良いですね」

山本「そうですね、今のところはうまくいっているんですが…。表土の5cmっていうのが非常に栄養価の高い土なものですから…。そこを剥ぎ取るとただの土みたいな、今まで何年も培ってきた栄養価の高い部分を剥ぎ取るので、草が“おがらない” んですよね」

後藤「 “おがらない” とは?」

松田「成長しないという意味です。その、シビアアクシデント、原発の過酷事故があって、我々林業の場合はまだ少しはいいかもしれないけど、一次産業の農業とか水産とか、“お前ら死ね”って言われているようなもので…」

後藤「打撃は大きいですよね」

松田「今は、以前までありがたくもらっていた食べ物にしても何にしても、小さい子供のことを考えると…。本当に悲しくなってしまう」

後藤「なんでこんな想いをしないといけないんだっていうのはありますよね、いちいち…」

松田「本当にいちいちですよね」

山本「それで、そこまで国とか県とかは汲み取っていないんですよね、末端の気持ちとか…。全体的には汲み取ってるのかもしれないですけど、一番の支えている部分、食物連鎖を支えている部分を全く見ていないというか…。“剥げばいいだろ? ”みたいな、“土を取ればいいじゃん”とか…。“収穫した草は燃やせばいいじゃん”みたいな、そういった考えなんですけど、(実情は)全然そうじゃないんですよね」

後藤「もともとそこにサイクルがあってってことですからね。それが壊されてしまうということですよね」

松田「馬鹿にされているような感じですよね」

山本「そうですね」

松田「昔の日本人は潔かったんですかね…。東電のトップというか上の人たちは責任を取るべきだと思うんですけどね。清水元社長とかは退職金もらって次の仕事もあって、それで年収何千万でしょう。なんだんだろう、この世の中…」

後藤「一次産業の個人経営の人たちは後がないですからね。次の天下り先なんてないですからね。そう考えると凄くしんどいです、話を聞けば聞くほど…」

循環型の低炭素社会を目指して

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後藤「打撃系のチップはもっと大きいんですか?」

山本「打撃系のチップは大きいというか、かさ張るというか、バサバサしてるんですね。ピンチップって言うんですけど、量比重が低くて、柔らかくてフワフワしているような…、なので水分調整材としても良いですし。農家さんはこういったチップよりも、打撃系のチップのほうが使用用途はあります。ただ、燃料にするんであれば、やっぱり燃やしたときにトラブルが少ないというのが非常に重要になってきます」

後藤「燃やすにはこちらのほうが良くて、農家さんが使うには打撃系のほうが良いんですね」

山本「そうですね。大鋸粉(おがこ)とか、ああいった粉が出てくるんです。そういうものが喜んで(堆肥などに)使われています。ただ、最近はバイオマスの需要があって、切削型のチップじゃないと受け入れ先が “受け入れたくない”って言うことが多いんです」

後藤「切削型のチップのほうが、使い勝手が良いということですね」

山本「ヨーロッパでも、ほとんどがこういった切削型のチップです」

後藤「このチップを使う場合の保管はどうするんですか?」

山本「北海道なんかで見るような、サイロに入れて保管します。打撃系だと空気が入ってしまって、すぐに発酵してしまうんです。燃えてしまったり腐ったりしますが、切削系であればそれが少なくなります」

後藤「合板工場だったり、ボイラーがあるところだったり、そういうところにサイロを作っておけば良いということですね」

山本「ヨーロッパでは山に機械を持っていって、破砕して、各農家さんにサイロというか、貯蔵する施設があるそうなんです。そこに入れていって、石油の代わりとして使う、そういったかたちでやっているみたいですね」

後藤「もう少し、このようなチップを使える場所が増えるといいですよね」

山本「そうなんですよね。やはりインフラが整っていないと、こういったチップをいくら作っても出て行く場所がないので…」

後藤「このチップを燃やした灰はどうなるんですか?」

山本「大型の発電所でもそうなんですが、灰はかなり栄養があるものですから、ガーデニングとか畑に撒いたりするのが基本ですね」

後藤「なるほど。肥料などに転用していくということですね。純粋に木だけを燃やせば、他のものが混ざらないですよね」

山本「そうですね。良いものができますね。発電所とか大型のボイラーのところは出る量もハンパではないので」

後藤「だから、本当に、またそうやって土に戻っていくので、循環していくってことですよね。その中からエネルギーを熱として取り出すというか」

山本「はい。そうです。サイクルが木であれば、循環型の低炭素社会ができるということですよね」

後藤「木を植えて空気中のCO2を固定化すれば、計算上は多少のロスがあっても、基本的に捨てるところがないってことですよね。過程で起きる化学変化から熱だけをエネルギーとして取り出すことができる。素晴らしいですよね」

山本「いいですよね。本当に自然の摂理に合うというか」

(2012.8.15)
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松田昇

松田昇(まつだ・のぼる)

有限会社松田林業
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山本磨(やまもと・おさむ)

緑産株式会社
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