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HEART QUAKE9.0

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本誌創刊号の取材で最初に仙台の遠藤農園を訪れたのは、昨年9月末、震災から半年が経過した頃。今回は、1号発行直後の12月上旬に遠藤農園で行われた収穫祭のレポートと、震災から一年が経過したここから始まる復興クラブの動きについてお届けします。

取材/文/撮影:鈴木絵美里

みんなの“よりどころ”遠藤農園での収穫祭

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 9月の取材から3ヶ月経った12月上旬の週末、収穫祭のお誘いをいただき、再び仙台の遠藤農園へ向かった。この日の仙台は快晴、そして驚くほどの風の強さ。仙台駅前からバスに乗って20分ほどで荒浜地区へ到着してからは、遠藤農園まで徒歩で向かうが、本当に吹き飛ばされてしまったらどうしよう…と、いい大人が不安になるほどの強風だった。海からのまっすぐな風を受けているこの地区は、津波被害に遭う前までは、広大な田園地帯だった。ただ、今はまだその営みを再開できているところはごくわずかだ。

「まだまだ半壊状態の家も数多くあるが、9月からの時間の中でどういったところに変化があるだろうか?」そんなことを心の中で考えながら、道を眺め、ゆっくりと歩みを進めるうちに、遠藤さんのお宅が見えてきた。たった1回お邪魔しただけなのにその姿が見えただけで少しほっとするような場所。この甚大な津波被害のあった土地の中に遠藤農園のように“来てもいい場所”があること自体、自分はとても恵まれているような気がした。

 遠藤農園に到着すると、ラディッシュや白菜、からし菜などがすくすくと育っていた。午前中は遠藤さんにご挨拶をし、『自由大学 キャンプin仙台』 で使用させていただいた土地にできてきた野菜の収穫をみんなで行う。そして採れた野菜を用いて、夏のキャンプの時と同様、今日も参加者みんなで鍋を囲む。7月からのキャンプを通してこの遠藤農園と縁を作ってきた人々が一堂に会した。遠藤農園にも何度か足を運んでいたミュージシャンのSUGEEさんは、持参したジャンベとともに『りんご追分』や仙台の風景が歌われている‘70年代のヒット曲『青葉城恋唄』など、いくつかの歌も披露した。遠藤夫妻をはじめ、参加者がしっとりと聴き入る。みんながこの一年のことを思い出し、また次の一年のことにも思考を巡らした貴重な時間だったことだろう。

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 まだまだ津波直後のままの姿で残っているような近隣の家々もあるなかで、遠藤さんのお宅は驚くほどに復旧し、次なるステップを踏み出していた。農園のビニールハウスはすっかり新しいものが建てられてその中では野菜が元気よく育っていたし、1階部分が完全に浸水し、ほとんどすべてを作り替えなくてはならなくなった母屋もどんどんと補修が進んでいた。きっと、この遠藤夫妻の前向きな動きが、周辺地域の方々にもよい影響を及ぼしていってくれる、と信じている。

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「みんなで、また春に遠藤さんのお宅に来た時に出迎えてもらうために、れんげの種まきをしよう」
収穫祭の締めくくりに、れんげの種をみんなで蒔いた。れんげは、日本の水田地帯に植える定番的な景観作物。今回は遠藤さんのすすめもあって、この花の種を蒔くことにしたのだそう。年末前に蒔いておくと春の田植え前に一面に咲くというピンクの美しい花を想像しながら蒔いた、たくさんの種。あのれんげはもうそろそろ芽吹く頃なのだろうか。またあの地に行きたいな、と思える場所を、被災した地のど真ん中に持てていること。これはとても貴重なことなのだとも思う。一緒に、いろいろな実験をしながら、復興していく一歩一歩を、ともに作りだしていく。

これから先も長く関わり合う暮らしの仕組み作り

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 今後は、『復興クラブ』という形をより具体化して、遠藤農園を中心としたこの一連の活動に関わる人々がスムーズに、そして有機的に連携できるようなシステムが出来上がりつつある。2011年末の収穫祭でも、参加者のなかで構想を少し共有したが、2012年春からの本格的なスタートに向けて、今、様々な準備が進んでいるという。  『キャンプin仙台』でのリーダー経験を通して、『東北復興学』という授業をこの春から自由大学内で立ち上げることになった大内征(おおうち・せい)さんは、この『復興クラブ』という場もフィールドワークに使用していく予定だ。

「いまは、被災地に活動しに行く人が減ってきている、とよく言われているけれど、作業も一時的であったりする“ボランティア”はどうしても持続するのが難しいと言えるでしょう。ここからは、自分達のように東京で仕事をしている人材が、どう中長期的に、東北の復興に関わっていくかを、みんなでより具体的に考え、方法を作り出していきたい」 そんな気持ちから、一緒に考える仲間を集うべく、『東北復興学』の授業をスタートする。

img010 「実際に東北で活動されている人を講師としてお招きして直接お話を聞けるようにする回もあります。また、遠藤農園のようなケースを通してここからさらに何ができるか、ということや、他の場所でもこのケースを応用して何か復興支援を始めることができないかを考え実行していくフィールドワークも実践していきますよ」

 被災地で望まれていることは何か?それに対し自分達に出来ることは何か? そのバランスを探り、地方と東京を結ぶモデルケースを作り出す、ということなのかもしれない。これは“被災地を盛り上げる”というような視野にとどまるものではなく、ともにこの先の日本を作って行くために、とても重要なポイントであるに違いない。

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 自由大学では毎月一回、『フリユニクラブ』という卒業生から自由大学に入学を考えている人まであらゆる人が参加可能な、“放課後の集い”のような場を設けている。ここでは自由大学で授業を持ってみたい講師候補者の人々が授業プランをプレゼンテーションし、参加者が投票するコンペも毎回開催されている。大内さんの『東北復興学』も、12月のフリユニクラブでのプランニングコンテストで優勝し、実現するにいたった。そして、きたる2012年3月31日(土)のフリユニクラブのテーマは、“1年経った今、あらためて震災・復興について考える”。上記の『復興クラブ』の今後についても詳細を共有していくのだそう。もし、この記事で興味を持った人がいたら、土曜日の昼下がり、東京の世田谷ものづくり学校で行われているこの会に行ってみるのもよいだろう。仕事をしながら、自分のスキルを東北の復興のためにどう使っていくか、一緒に考えていける仲間に出会えるかもしれない。

・自由大学WEBサイト:http://www.freedom-univ.com/
・HEARTQUAKE Project WEBサイト:http://www.heartquake.jp/

今後の自由大学『復興クラブ』の活動予定

◆仙台荒浜・遠藤農園お米作りサポートプログラム

4/21・22(1泊2日、現地集合・解散)

遠藤農園の田んぼに植えるための稲の種まきを手伝います。

5/19・20(1泊2日、現地集合・解散)

4月の種まきでできた苗を田んぼに植える手伝いをします。
※秋には収穫を予定!

◆復興キャンプ・プログラム

4/28・29・30(2泊3日、現地集合・解散)

遠藤農園内の建物のペンキ塗りの手伝いをメインに、農地作業、地域学の講義などを実施予定。

5/3・4・5(2泊3日、現地集合・解散)

遠藤農園内の建物のペンキ塗りの手伝いをメインに、農地作業、地域学の講義などを実施予定。

※復興クラブ遠藤農園をはじめ今後のプログラムの参加には、復興クラブへの加入が必要となります。加入料は1000円。
会員証が配布される予定で、今後行われる様々な活動で自分で企画を提案して敷地を利用することも可能になります。
自由大学ホームページやメールマガジン等で順次告知予定。3月31日開催のフリユニクラブでは詳細が案内される予定です。
(2012.3.27)