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僕らが選択するエネルギーの未来。 -Thinking about our energy vol.1 part.1

取材・文:鈴木完 撮影:外山亮介

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日本は今間違いなく下克上で、ドラスティックな転換期を迎えている

鎌仲 「震災前って8割くらいの新築の家がオール電化だったの。でも、結局オール電化っていうのはエネルギーをすごく使うし、夜間は原発の電気で安くしていたけれど、今後そうはいかない。なおかつエコキュート(※7)とかに100万円とか200万円かかる。実はそれも回収できないと。そういう誇大広告がバレてきてガクっと減ったけど、ハウスメーカーによるオール電化のお仕着せ的な家が今も席巻している。震災以降では、電線を切っても自立できる家っていうのが実はもう存在していて、その人は太陽建築っていう名前で建ててるんだけれども、日本海側だと日照時間が短いので、太平洋側に建てると100%自立できるそうなの。好評らしいよ」

後藤 「太陽熱エネルギーなんですか?」

鎌仲 「そう。だから余計にエネルギーを足さなくてすむ。建築家の話で言ったら、意識の中に熱効率とかエネルギー効率とかがあるかないか、それが日本とヨーロッパとでものすごく違うところですよね」

飯田 「当然違いますね。日本は住宅は形で作るもので、エネルギーはエアコンを付ければいいっていう設備屋話になってくる。 たとえばスウェーデンのベクショー(※8)という人口の少ない田舎町のエネルギー会社に行って、その2階に上がっていくとですね、そこはもうトレーダールーム(※9)みたいになっているんです。エネルギーだって地域供給だけじゃないんです。その上に乗っかってるのはコージェネレーション(※10)。バイオマス(※11)を使ったコージェネレーションだから、電気も売る。その電気をヨーロッパ市場で売ったほうが得か、その電気をヒートポンプを使って熱にして自分たちの町で売ったほうが得かということもリアルタイムで計算するんです。マーケットを見ながらですよ。のどかな田舎のエネルギー会社の2階で、そういう知的な作業が行われてるわけなんです」

鎌仲 「そういうイメージがありつつ、スウェーデンが素晴らしいのは、水とか土壌とか空気とかを自然の美しいままにいかに保全していくかってことを同時並行的にやってるってところ」

後藤 「日本とちょっと差があり過ぎますね。日本ではどうかというと“原発が止まったら電気代が上がるでしょ”みたいな。そういうことを言ってる人が多いのに」

鎌仲 「原発がなくなったら電気代は非常にまともになりますよ」

後藤 「そういう話をもっとあげてほしい感がありますね。もしも電気代が仮に上がったとしても原発がなくなるのならそのほうがいいし。福島の人達に話を聞くとみんなそう言いますよ。たとえ電気代が多少上がってもいいって」

飯田 「原発を残そうと思ったら、もっと電気代を上げないといけないんです。だって、原発をもしこのまま運転し続けたときに次に事故が起きたらまたその何十兆円ってかかるわけですよ。お金で済む話じゃないけど、お金だけは面倒を見ろと。ということは電気料金にその事故が起きたときに全額保証する保険代を含めということになる。今は障子紙みたいなものです。1200億円でしかも地震天災津波は保険会社が払わなくていいんで、結局、国が肩代わりしていく。で、税金にしわ寄せしないんであれば、電力会社は無限責任の青天井の保険に入るしかない。そういう保険ってできないんですけど」

鎌仲 「今回の事故が起きて、日本社会だからまだ起きてないけど、ものすごい訴訟がゴロゴロ竹の子のように東京電力に起きたってなんの不思議もない。食べる物の中に放射能が入ってるか入ってないか、被爆したんじゃないかとか。そういう精神的な負債に対して日本はあまりにも無神経で鈍感だと私は思う」

飯田 「あまりに従順過ぎますよね」

鎌仲 「私ね、東京電力には電気代を払いたくないって想いが強くある。あの事故以来特にね。だって退職した社長が相談役として数千万の報酬をもらい、社員は平均して40万円ボーナスもらったりとかめちゃくちゃでしょ。そんな電力会社から電気を買いたくないよ」

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後藤 「それは思いますね。飯田さんの著書を読んで、総括原価方式(図1・2)っていうのはすごいなと思って。電力会社がどれくらい儲かっていたかって、友達と何年か前から遡って調べていったら本当に儲かってるなって」

鎌仲 「住まいを考えるにしても電気をどこから買うのか? あるいは自分達で作るのか?っていう問題も」

後藤 「家庭で発電したり、自給率を高めていくことが効果的なのであれば、みんなでやっていければいいですね」

飯田 「それも脱原発に繋がることは繋がるんですけど、私生活主義的になっちゃうとなかなか蛸壺化してしまい、電力市場を変えるダイナミズムにはならないと思いますね」

後藤 「やっぱりみんなで声を上げて運動をしていくしかないのかなとも思ったりもします。友達がドイツに行って来て、わけが分からないくらいデモをやっていたって話を聞きました」

飯田 「デモって、権力者から見ると恐ろしいものなんです」

鎌仲 「電力の自由化に関しては、今どうなんでしょうか?」

飯田 「まだまだでしょう。自由化は大変ですよ」

鎌仲 「まずは東京電力が潰れることが大事よね」

飯田 「まずはそれが最初ですね。東電を潰してそれを破綻処理するときにみんなで買い取る。『東京電力共同組合』みたいなものができるといいですね。再生可能エネルギーに関してはもっと早いですよ。再生可能エネルギーは電力買い取りしますから」

後藤 「脱原発って、実際本当に可能なんですか? ホント正直にそこが知りたいって人がたくさんいると思うんですよね」

飯田 「そりゃ、即座に可能ですよ」

鎌仲 「一番やりやすいとこってまずそこだと思う」

飯田 「水力と火力とあと省エネ。それで脱原発は可能です」

鎌仲 「脱原発に関して、私は女性ってこともすごく大事なことだと思う。親父どもが放射能をまき散らして、で、結局、女と子供が放射能に弱いわけ。そこは女性ももう一歩進んで、政治とか、論理的な思考構築もして、男性とやり合えるように成長するチャンスだと思うし、女性がパワーを得るところに進んでいかないと社会は変わらないと思うよ」

飯田 「日本社会のこの思考停止し 硬直した男性性っていうのがやっぱり行き過ぎてしまったところがありますよね。日本は男性性に偏り過ぎ、結果としてこんな汚い街まで造ってしまった。北欧とか行ったら芸術品みたいな街ですからね。昔、『地球家族(※12)』っていう本があったのをご存じですか? 世界中の典型的な家庭にある物を紹介した本で、ブータンの家庭とかって仏像だけがあって、凄くいい顔してるんです。最後に日本の家庭が紹介されていて、四人家族が道路の上でコタツに座っているんです。そこにはガラクタが山のようにあって一目瞭然です」

後藤 「やっぱりシンプルにしていかないといけないですよね」

鎌仲 「余計な物を作って捨てる大量生産、大量消費がまだ終わってない。そこには日々の生活の中に喜びを見いだせないっていう根本的な問題があるんじゃないかなって思う」

飯田 「それは絶対そうですよ。何のために生きてるのかっていうことをもう一回見直さないと」

鎌仲 「でもそれもチャンスだよね。自分の生活を何で満たすのかっていうことを考えるチャンスとして原発事故をとらえ直すっていうか。それがポジティブなメッセージかな。そうしたときに物に囲まれた暮らしを、エネルギーだけではなくシンプルにしていくっていうことなんだけど」

飯田 「日本は今間違いなく下克上で、ドラスティックな転換期に出来るか出来ないかの瀬戸際なんですよね。だからもっとみんながラディカルになるのがいい。いろんなモノをぶち壊すと。あらゆる壁をぶち壊して、とりわけ自分の心の中にあるような壁とかね。村とか体制に順応してしまう壁みたいなモノをぶち壊さないと変わらない。それを誰かがやってくれるだろうとか、勝手になるだろうじゃなくて、自分で壊さないと意味がない」

■注釈

※7[エコキュート]

ヒートポンプ技術を利用し空気の熱でお湯を沸かすことができる電気給湯機。冷媒として、フロンではなく二酸化炭素を使用しているのが機種の総称。正式名称は『自然冷媒ヒートポンプ給湯機』。従来の給湯器と比較して給湯にかかる光熱費が抑えられる。地震などによってライフラインが停止した場合、ガスは復旧に時間がかかるが、電気は復旧が早いため、長期にわたって温水に困ることがなくなる。ヒートポンプ技術を使うことで、給湯の省エネルギーが実現できるが高価でもある。

※8[ベクショー]

スウェーデン南部、スモーランド地方の都市。人口は5万~6万人。脱化石燃料宣言の市でもあり、化石燃料を使用しないことによって、実際に8年間でひとり当たりが排出する二酸化炭素を20%以上削減した。BBCにより『Greenest City in Europe』と呼ばれるほど、環境活動に取り組んでいる市である。

※9[トレーダールーム]

トレーダーとは、銀行、証券会社、保険会社などの金融機関において、金融ディーラーと投資家などの間を結ぶ役割を果たす職業のこと。トレーダーが世界の株価や債権の動きを常に把握し、売り時・買い時の情報を提供したりするためにたくさんのモニターを睨みながら仕事をこなす部屋のことをトレーダールームと言う。

※10[コージェネレーション]

内燃機関、外燃機関等の排熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し、総合エネルギー効率を高める、新しいエネルギー供給システムのひとつ。コージェネレーション、または、コジェネレーションとも呼ばれる。火力発電など、従来の発電システムでは発電後の排熱は失われていたが、コージェネレーションでは最大80%近くの高効率利用が可能となる。また、利用する施設で発電することができるため送電ロスも少ない。このため省エネルギーやCO2の削減に効果がある発電方式として、地球温暖化対策としても期待されている。

※11[バイオマス]

バイオマスとは生態学で、生物の量のこと。しかし、今日では再生可能な、生物由来の有機性エネルギーや資源(化石燃料は除く)を言う。基本的に草食動物の排泄物を含め1年から数十年で再生産できる植物体を起源とするものを指す。バイオマスの種類としては、木材、海草、生ゴミ、紙、動物の死骸・糞尿、プランクトンなどの有機物がある。バイオマスエネルギーはCO2の発生が少ない自然エネルギーで化石燃料に代わるエネルギー源として期待されている。

※12[地球家族]

1998年に発売された書籍『地球家族―世界30か国のふつうの暮らし』は、自分の家の前に家族とすべての持ち物を並べて撮影した世界30カ国の家庭を忠実に写した写真集。滅多に見ることのない、現地の家庭の本当の生活風景を楽しむことができるだけでなく、世界の人々の価値感の違いや共通の願いが垣間見れる。また、続編も発売された。
(2012.2.1)
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鎌仲ひとみ

鎌仲ひとみ(かまなか・ひとみ)

大学卒業と同時にフリーの助監督としてドキュメンタリー映像の現場へ。初めての自主制作をバリ島を舞台に制作した。その後カナダ国立映画製作所へ文化庁の助成をうけて滞在し、カナダの作家と共同制作。NYではメディア・アクティビスト集団ペーパータイガーに参加。1995年に帰国後、NHKで医療、経済、環境をテーマに番組を多数制作。98年、イラク取材をきっかけに『ヒバクシャー世界の終わりに』を監督、その後日本の原子力産業の内実を描いた『六ヶ所村ラプソディー』を監督し全国650カ所で自主上映された。
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エネルギーの未来をテーマにしたドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』が、3.11より以前に作られていることに意義があると賞され、2011年 石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞 文化貢献部門 奨励賞を授賞した。

■映画『ミツバチの羽音と地球の回転』
 オフィシャルサイト


飯田哲也

飯田哲也(いいだ・てつなり)

京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。NPO法人環境エネルギー政策研究所所長、(株)日本総合研究所主任研究員、ルンド大学(スウェーデン)客員研究員。自然エネルギー政策を筆頭に、市民風車やグリーン電力など日本の自然エネルギー市場における先駆者かつイノベータとして、国内外で活躍。主著に『北欧のエネルギーデモクラシー』、共著に『自然エネルギー市場』、『光と風と森が拓く未来―自然エネルギー促進法』他多数。

iida_img 最新作は、太陽光、風力、水力、地熱、潮力、バイオマス、スマーグリットを組み合わせて100%自然エネルギーの実現に向かうことをテーマにした、再生可能エネルギーと低エネルギー生活のバイブル『1億3000万人の自然エネルギー』(講談社)。